その殺し屋からは逃げられない
“山猫のぉ。妾だ、邪魔するよ。
久しいねぇ山猫の。
アンタ、まだこんな山奥に住んでいるとはねぇ。まあ、達者で何よりさね。
何しに来たのか? ってツラだね。
なに、今度の仕事、久しぶりにアンタと組むことになったからさ。アンタが耄碌してないか、確かめに来たのさ。
人里離れた山に住み、音もなく忍び寄り【獲物】の喉笛を切り裂く。
【山猫のお銀】の腕が鈍っちゃいないかをね。
それにしても、布団から出もせずに横着なやつだね。しかもだんまりかい?
ま、アンタらしいといえばそうだがね。まさか風邪でも引いてるんじゃないだろうね?
勘弁しとくれよ? 仕事の最中にくしゃみでもされたら堪ったもんじゃない。
法で裁けぬ悪を断つ。それが妾たちの仕事さ。そんな危ない橋を渡るんだ。腑抜けて貰っちゃあ困るからね。
ねぇ...なんか言ったらどうなんだい?
まさか妾の顔、忘れたなんて言わないだろうね?
この【くれなゐ頭巾のお市】のさ。“
俺、オオカミ。
赤ずきんちゃんがヤバい女でした。
え? なんなん?
『がお~、食べちゃうぞぉ〜』
『きゃ〜』
みたいなの予定してたんですけど?
ですけど?
赤ずきんちゃん? いや赤ずきんちゃんさん?
お出かけのときに
『おばあちゃん家に行ってきまぁ〜す。』
って可愛らしく言ってた君の面影、まったく無いんですけど?
ですけど?
お銀? お市? ここヨーロッパだよね?
童話風味どこ?
で、さっき簀巻きにして納屋にぶっ込んだ婆さんがお銀...?
やべぇじゃん。俺やべぇじゃん。
俺オオカミってバレたら殺される。
バレなくてもお銀婆さんに殺される。
この状況からどう抜け出せば良いんだぁっ!!
“ねぇ、いい加減なんか喋ったらどうなんだい?“
はいいぃっ!! 今すぐ喋らせていただきますぅっ!!!
(裏声)「う、打ち合わせでも、しようかねぇ...?」
“......打ち合わせだってぇ?“
まちがえたあぁぁ!!?
“アンタ...そんな殊勝なこと言うタマだったかねぇ?“
怪しまれてるぅ!!?
もう駄目かあぁぁ!?
“......ふふっ。感心感心。
なんせ今回の仕事はとびきりヤバい。事は慎重に運ばないとねぇ。
いつもみたいに『段取りなんかまどろっこしいことは無しだ!』なんて言おうものならケツを引っ叩いてたところだよ。“
合ってたあぁぁ!!!
助かったあぁぁあっ!!!
よよよよよしっ。このまま押し切るぜ。
適当に話を合わせて、納屋の婆さんが目を覚ます前に何とか逃げ出すんだ!!
“それでアンタ、元締から詳しい話は聞いたかい?“
(裏声)「うぇっ? あ、いや、お、お市に詳しいことは聞くからって、か、帰って来たんだよ。その時、少し忙しくてねぇ。」
“ふ~ん、そうかい。じゃあ妾から説明させて貰おうかね。“
おぉ〜っ! なんか上手く流れてきたぁ。
ナイス俺! 千両役者! 主演男優賞!!
行ける! これなら行ける逃げ切れるっ!!
お銀婆さんが目覚める前に、急げ急げぇ!!
“今度の【的】はね。そりゃあ狡猾で残忍な奴らしい。まさに『人の生き血を啜る』ってヤツでさ、“
(裏声)「そ、そういうのはいいからさ。さっさと打ち合わせしちまおうよ。いつ殺すとか、どこで殺すとかさ。」
“ふっ...『事情などどうでもいい。確実に殺るだけさ』ってかい?
変わってないね。流石だよ。“
いい方向に誤解してくれたぁぁ!!
運が向いてきたあぁぁ!!
お家が俺を待っているぅぅ!
アイルビーバックぅぅ!!
“じゃあ、まずはこいつが今回の【的】が住む屋敷の間取図だ。元締が手に入れた。“
ハイ見ましょう、すぐ見ましょう。ハイハイハイハイ成る程成る程ぉ。
......俺ん家じゃん。
オオカミの受難は続く。
おしまい




