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第9話 クエスト、すなわち生きる糧(2)

俺がこの世界に来てから初めて訪れた町、『ローヌ』。

こじんまりとしつつも、中世ヨーロッパのような趣のある町並み。所々欠けたり汚れがあり、歴史を感じさせる石畳。そして、少しずつ傾き始めた午後の穏やかな日差しの中で、朗らかに語り合う町の人々。


体内魔素オド枯渇……?」

「はい。今のシキの状態は、それに近いかなと思います。」


言うが早いか、ニクスはごそごそとバックパックの横ポケットから薄青色の液体が入った細長い瓶のようなものを取り出した。


「シキ、あまり美味しくないですが、これを飲んでください。魔素充填薬マナポーションです。」

「あ、ありがとう……。」


エナジードリンクみたいな色のそれを一息で飲み干す。うん……仄かに甘いが、それ以外の感想が浮かばない。無臭。

しかし効果は覿面で、先程まで俺にまとわりついていた倦怠感が嘘のように無くなった。魔素充填薬様々だ。


「すごいなこれ、めちゃくちゃ楽になった。ありがとうニクス。」

「えへへ、役に立って良かったです!ここの品物、モノはとてもいいんですよ。」


ホントはもう少し飲みやすくなったらもっと良いんですけどね、とニクスは舌をちろりと出す。

まぁ確かにな、と内心で共感した。


「にしても、どうしたって急に体内魔素枯渇に陥ったんですか?」

「うーん。多分俺の、スキル?の影響かもしれない。」


先程の出来事についてニクスに伝える。視界に入ったものが対象物の場合、一々反応してしまうこと。それに伴って体内魔素が使用されてしまい、もう1つのスキル効果、自動発動型パッシブ魔素マナ回復が追いつかず枯渇に陥ったであろうこと。


「可能性はかなり高そうですね。しかし目に入った対象物が全て反応してしまうとしたら、とんでもない負荷になっちゃいますね……。」


唇を尖らせながら、オパールの瞳を閉じてニクスが考え込む。

俺も家の外壁に寄りかかり、どうしたもんかと考えていたら町の奥から強面の男性が俺たちの方に小走りに近づいてきた。


「もしやそこに居るのは旅人のねーちゃんか!?」

「あれ、ニグーノのおっちゃん!」


声を掛けてきた男性に、「どもですーまた来ましたよ」と気さくに返事をするニクス。誰だこの人、と俺が視線で尋ねると。


「シキ、このおっちゃんはこの町で青果店を営んでいるニグーノさんです。上でシキに会う前、この町を通りかかったときに色々下さったんですよ。」

「そうなのか。」

「いやマジでねーちゃんの戦いぶりを見たら、一人で旅してるっていうのも納得しちゃったからな。俺なんぞ指を咥えて見ているしかなかった……。」


ニクスの説明にうなずく俺。数日前を思い出したのか軽くブルブルと体を震わせたニグーノさんは、あぁそうだった!と思い出したように声を上げ、両手を顔の前で合わせた。


「旅人のねーちゃん、いやニクスさん!また頼みごとがあんだよ!正式にクエストとして出そうと思っていたんだが、如何せんこの町じゃ戦える奴は数えるほどしかいねぇ!」

「む?もしや……またコボルトですか。」

「コボルト……。」


慌てた様子で説明するニグーノさんに、スッと真剣な表情になるニクス。聞きなれない単語に、俺は思わずつぶやく。

ニグーノさんはそうだ、と顔を曇らせた。


「数日前にニクスさんに倒してもらったばっかりだっていうのによ、どこからともなく湧いてきやがったんだ。町の男が狩りに出かけたとき、たまたま出くわしたみたいで、命からがら戻ってきたんだ。前とは比べ物にならん位デカい個体で、このままじゃ、いずれ町に……。」

「分かりました、引き受けます。シキ、良いでしょうか。」

「あ、あぁ。急を要するみたいだし。」


ニグーノさんの話を聞いたニクスが即答し、俺の方を見る。町がどうとか言っていたし、ほっといてはマズいだろう。


「あぁありがとう、本当にありがとう!そうだ、さっきお宅さんら、『スキル』の自動発動がどうとか話していただろう。もしかしたら、これが役に立つかもしれねぇ。前払いだ、持ってけにーちゃん。」


そう言ってニグーノさんから俺に手渡されたのは、黒い縁をした眼鏡だった。

正確には、限りなく眼鏡に近い何か、だろうが。


「これは……。」

「一見ただの視力矯正器具見えるが、実際は違う。魔道具の一種で、【対象指定ターゲットロック】?っつー『アビリティ』が使えるようになる代物だそうだ。」

「魔道具!?しかも『技』の付与……この世界でも、作れる者はごく一握りのはず。」


眼鏡にしか見えないその道具についてニグーノさんは軽く説明してくれる。滅多にお目にかかれません、とニクスがあわあわしていた。


「なんで、そんな貴重なものを俺なんかに。」

「ハッハッハ!!前払いだって言っただろにーちゃん。持ち腐れてる宝が日の目を見るなら、この道具も本望だろう。それにな、これを渡してくれた奴が言ってたんだよ。なんでも『必要とする者が来たら渡してくれ』……ってな。でもこの町には魔法やらスキルやらを使える人間なんていねぇし正直困ってたんだ。」


恐れ多い気持ちになって問う俺の背中を、笑いながらニグーノさんはバシバシと叩く。不思議なことに全く痛く感じなかった。


「では行ってまいります!」

「頼む!場所はここを出て少し行った先の森の中だ。ちょうどお宅さんらが来た方向とは逆の森だ。」

「ああ、わかった。」

「ねーちゃんの実力なら心配はしてないが、念のためだ。これも持っていけ」


飛び出そうとするニクスを引き留めつつ、俺はニグーノさんから2本の細長い瓶を手渡される。


高濃度回復薬ハイポーションと、高濃度魔素充填薬ハイマナポーションだ。遠慮なく使ってくれ。」

「あ、ありがとうございます。」

「おっちゃんありがとうございます!さぁて、首を洗って待ってなさい魔物!」


頼んだぞー!と送り出すニグーノさんの応援を背に、俺たちは勢いよく町の外へと駆け出した。

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