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第8話 クエスト、すなわち生きる糧(1)

「さてシキ!私はこれからクエストを受けに町に下りたいと思います。」

「町?この森の外に、町があるのか?」


 意気揚々と提案するニクスに、俺はやや食い気味に問うた。


「はい。ここは森の少し深くですが、そうですね……40分も歩けば町の外れに出ます。全速力で走れば5分くらいでしょうか。」

「差がすごいな。」


 時間の差に思わずつぶやくと、彼女は口をオメガにしてふふんと誇らしげに胸をはる。柔らかな双丘に突き上げられた小さめの上着が揺れて若干目に毒だ。


「このままでは餓死一直線。シキを守ると誓った手前、ひもじい思いをさせるわけにはいきません。私は水分さえあれば2か月は活動できますが、それに巻き込むわけにはいかないので!」

「水分だけで2か月……!?」


 とんでもなく衝撃的な情報だ。俺の知っている人間の活動限界を大きく超えている。

 まぁ、魔法やら妖精なんかが普通に存在する世界なんだし、俺の元いた世界とは常識が大きく異なることもあるのだろう。


「なぁ、俺も付いていっていいか。」

「!」


 ニクスが、思ってもみなかった提案を聞いたかのように、ぽかんとした表情をする。

 そして、むむむ……と考え込んだかと思うと、ややあって。


「分かりました。ただし、私から離れないこと!勝手にうろうろしないこと!知らない人にもついていってはダメですよ、約束してくださいね!困ったときは私の手を握ること!いいですか!?」

「子供か俺は。」

「お返事はっ」

「……はい。」


 すごい勢いで念を押してくるニクスに苦笑をもらしつつ、でも多分俺のほうが彼女より年上なんだろうな……と。ちょっと情けない気持ちになったのはここだけの話。


 *


 森から林、そして小さな草原へ。

 それらを越えた先に、麓の町『ローヌ』はあった。


「着きましたよ、シキ」

「特急並みの速度だった……。」

「なんですかそれ?」


 平屋から下りるための山道は、一言で言えば獣道で。

 全く整備などされておらず、人はおろか生き物など通るはずもないとばかりに、伸び伸びと育つ植物たち。それをかき分けながら、しかも一定の速度を保って進むのは素人にはあまりに至難の技であった。

 結果として、ニクスに背負ってもらった状態で、猛スピードで駆け降りる手段を取ることになったのだ。


 スト、と背中から石畳の上に降ろしてもらった俺だが、足を地面に着いた途端ぐらりと体が崩れそうになり、咄嗟にニクスに支えられる。


「シ、シキ大丈夫ですか?すみません、飛ばしすぎましたか。」

「大丈夫、ニクスのせいじゃなくてさ。」


 おろおろするニクスに、苦笑いしながら頭を振った。


「目がチカチカしてて」

「目……もしや、体内魔素オド枯渇ですか!?」


 そう。

 道中、ニクスの驚異的なダッシュ速度より困ったのは、何を隠そう俺の『スキル』効果だった。


 時は遡り数分前。


 インドアかつまともにスポーツなんてしたことのない俺は、早い段階で息を切らしてしまっていた。

 見かねたニクスは軽々と俺を背中に背負い上げ、


「しっかり掴まってくださいねー!飛ばしますよ!さながらドラゴンのように!ワイバーンのように!」


 と大音声を上げらながら猛スピードで山を下り始めた。


 すると。


 >【神秘なる調香(ミスティカ)】による自動対象測定<

 対象物:キトルスリモネ

 通称:ライムン

 芳香傾向:目の覚めるような、爽快感、鋭い、酸

 抽出:果皮の圧搾(あっさく)。スキルの任意発動【抽出エクストラクト】により省略可能

 主な効能:回復効果の向上(Lv1)、集中力向上(Lv1)。その他効能詳細は詠唱【展開アウクトゥス】で追加分析可能

 適応:間接使用、直接使用

 禁忌:皮膚または毛皮等への直接使用後、現地時間6時間(Lv1)は光を避ける必要あり

 備考:魔素濃度76%、中~高品質。



「ん?」


 特急ニクス号が発射されて(走り出して)から数秒で、コゥ、と独特な音と共に、見覚えのある文字群が現れた。

 あぁ、さっきのやつか……と、俺は特に気にも留めずにその表示を閉じる。


 直後。






 >【神秘なる調香(ミスティカ)】による自動対象測定<

 対象物:メリスオフィシナ

 通称:メリス

 芳香傾向:瑞々しい、グリーンで甘い、ライムンのような

 抽出:花と葉の水蒸気蒸留。スキルの任意発動【抽出エクストラクト】により省略可能

 主な効能:状態異常耐性(Lv2)、神経鎮静(Lv1)。その他効能詳細は詠唱【展開アウクトゥス】で追加分析可能

 適応:間接使用

 禁忌:皮膚または毛皮等への触れた際にアレルギー反応出現の可能性あり、最大使用量は種族を問わず0.9%(Lv1)。

 備考:魔素濃度51%、中等度品質。


 >【神秘なる調香(ミスティカ)】による自動対象測定<

 対象物:エウレカプリトゥブルス

 通称:エウレカーリ

 芳香傾向:ミントールのような、スッキリとした、苦み、クリア

 抽出:葉の水蒸気蒸留。スキルの任意発動【抽出エクストラクト】により省略可能

 主な効能:状態異常回復(Lv1)、耐状態異常(Lv1)、集中力向上(Lv1)。その他効能詳細は詠唱【展開アウクトゥス】で追加分析可能

 適応:間接使用

 禁忌:乳幼児が使用することで中枢神経系および呼吸器系への悪影響可能性あり。皮膚または毛皮等への最大使用量は種族を問わず6歳までは1.0%(Lv1)。

 備考:魔素濃度63%、中等度品質。

 

 >【神秘なる調香(ミスティカ)】による自動対象測定<

 対象物:エンペルスコムニス

 通称:エンペルベリー

 芳香傾向:森林を思わせる、苦みと爽快、ドライな、

 抽出:果実の水蒸気蒸留。スキルの任意発動【抽出エクストラクト】により省略可能

 主な効能:解毒(Lv2)、耐毒(Lv2)…… 


 >【神秘なる調香(ミスティカ)】による自動対象測定<

 対象物:ペラルゴムグラウェリオ

 通称:ロサ・ウェル

 芳香傾向:甘い、芳醇……



 …………


 エラーコードを吐き続けるPCのように、次から次へと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


 ――マジで頭がおかしくなるかと思った。


閉じても閉じても減らない表示。文字群が現れるたび、体は泥に沈んでいくかのような疲労感が襲われる。

そして、ローヌに着く頃には、数時間ぶっ通しでPC画面を見続けた後のように、俺はすっかり疲弊してしまっていた。

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