野生のアイスクリームは好戦的だ
森の中を網を持って歩き回るなんて、夏休みの少年みたいだなと思う。
まあ、私は少年ではなかったし、そもそも虫が嫌いなのでそんな事はした事無いのだけれど。
悪魔の世界の森なんて想像もつかなかったけれど来てみれば拍子抜けするほど普通だ。変なキノコも生えてないし、血の池も針の山もない。
「こんな何も無い所に居るんですか?」
「ここが食品加工工場と市場への道に1番近い人目につかない場所よ。こういう所に隠れている事が多いの」
「…わざわざこんな森なんか来なくても街中にも居るじゃん」
「街中にいるのは、雑味がマシて不味いのですわ!私、アイスクリームにはこだわりがありましてよ」
あっ、わざわざ1時間かけて来たのはメアリーのこだわりなのね。
こだわりがあるのは悪い事ではないから別に良いのだけれどベス的には気に入らないらしくちょっとイラついている。
それでも、何だかんだ付き合ってくれるので悪い子では無いんだよね。
「で、何処に居るの?」
「ここまで悪魔の目を掻い潜り逃げてきたアイスクリームは中々骨のある奴が多いですわ。だから、ただ探すだけでな見つかりませんの」
そう言いながらメアリーは地面に魔法陣を描いていく。
「なに?」
「食品を呼び出す魔法陣ですわ」
「へえー」
「特にこれは私が研究に研究を重ね、アイスクリームをピンポイントで狙った特別な魔法陣ですの!」
どやぁっと効果音がつきそうな自信満々の顔で胸を張るメアリーに思わず拍手すると満足そうな顔をされる。アイスクリームを愛していると言っていたけどホントだったんだ。
「では、発動しますわ。網を構えて」
「えっ?」
いや、もっと打ち合わせとかは?
と思うけれどそう言う前にぱあっと魔法陣が光り、それに合わせて目の前の茂みがガサガサと揺れる。
「来ましたわ!」
メアリーが嬉しそうな声を上げるとアイスクリームが茂みから襲いかかってくる。
思ったより好戦的だ。
ベスは巻き込まれないようにかちょっと離れた位置にいるのでアイスクリームは真っ直ぐこちらに向かってくる。
突進してくるピンクのアイスクリームに向かって網を振るうが思ったより速い。そのまま振りかぶった網を避けられる。
「痛った!」
まつ毛が手先に触れた瞬間、鋭い痛みが走る。まつ毛が一瞬で皮膚を引き裂いたのだ。
まつ毛硬すぎ。
工場のアイスクリームはそんなに硬くなかったですけど?
「お気を付けになって。野生化した食品は凶暴になってますわ。アイスクリームはあの特徴的な長いまつ毛を硬く鋭くして刃物のようにして攻撃してきますの」
「先に言ってもらいたかったな」
「常識なので忘れてましたの。ごめんなさい」
メアリーが謝りながら素早く網を振り回すと上手いことアイスクリームが網の中に囚われていく。そして、メアリーは囚われたアイスクリームが網から出ようとまつ毛で網を引き裂こうと暴れているのを左手で掴むと右手でまつ毛を引きちぎる。アイスクリームは断末魔を上げる代わりにガクガクと大きく全身を震えさせやがて静かになった。
怖い。
メアリーの手がまつ毛で引き裂かれ血だらけになってるのも、それを全く気にしてないのも怖い。
「捕まえましたわ!」
「……うん、良かったね」
嬉しそうなメアリーに思わず棒読みで返してしまうが気にした様子もなくニコニコしている。
「手、大丈夫?」
「手……?」
そう言ってメアリーが手を掲げる。
「あれ?怪我して……?」
メアリーの手は無傷だった。
あんなに血が出てたのに影も形もない。
「悪魔はあの程度どうって事ないですわ」
「あ、そうなの……」
なんだかホッとしたような、なんとも言えない気持ちだ。
「あんたもでしょ?」
「……ほんとだ」
ベスがこちらを指さす。
確かに、先程まつ毛に触れた部分から血が出ていハズなのにすでに血は止まり傷は塞がっていた。
なんて、便利な身体だ。
こんなにすぐに治るなら確かに怪我に無頓着になるかもしれない。
「ま、まあ、特に問題なく終わってよかった」
「そうね、さっさと帰ろ」
「手応えがなくて残念ですわ」
「……個体によってもしかして強さ変わる?」
「もちろんですわ!」
あっ、変わるんだ。
めっちゃまつ毛長くなったりするのかな。
「わたくしが捕まえたアイスクリームで1番手強かったのは手が生えた個体でしたわ!」
「手が生えるの?!」
「ええ、そうですわ!伝説では身体が生えた個体もいるらしいのでわたくしいつか捕まえてみたいですわ!」




