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カンテラvs.じろさん

〈麗けき一日となるそのシャワー 涙次〉



【ⅰ】


 格闘技界は、その話で持ち切りだつた。何つて、カンテラとじろさんの演武會の話題で、である。

 地元の皆さんとの親睦を圖り- さうは云つても、テレビ局(例によつて楳ノ谷汀の企画である)主導なのだから、局側の視聴率アップ狙ひは、目に見えてゐる。

 試合ではなく、飽くまで「演武」であるから、フル・コンタクトではない。尤もフルコンでやつたら、カンテラとじろさんの技を以てすれば、殺し合ひになつてしまふ。それでも、どちらが強いかは、日頃格闘技マニアの間では、喧々諤々たる意見の交換があつたので、その聲に後押しされての楳ノ谷の目論見は鋭い、と云はざるを得なかつた。



【ⅱ】


 で、演武当日。地元野方近くの柔道場を借りた局は、テレビキャメラ數台を連ね、また観客たちは固唾を呑み、本番を待つてゐる。

 カンテラは袴立ち、じろさんは白のシャツにダークなスラックス、兩者裸足で道場に立つ。平服の方がリアリティーがあつて良からう、と、これはテオの演出。カンテラは木刀を構へてゐる。


 演武が始まつた。互ひに間合ひを見る時間が経ち、そろそろ技が出るかな、と云ふ頃、やはりカンテラが氣合ひを發した。「しええええええいつ!!」一太刀、二太刀、じろさんは器用に躱した。それでは突きはだうかと、カンテラが鋭い動きを見せる。じろさんは何と所謂「眞剣(木刀だが)白羽取り」で、カンテラの動きを封じた。しかし、カンテラ流石に、じろさんの足払ひが届く距離へは詰めず、大方の予想通り、「泥仕合」の様相を呈した。


「泥仕合」と云つても、二人の動きは、誠に以て優雅で、古武術の美しさを、観衆堪能してゐる。じろさんは兩手で挟んだ木刀の切つ先を、右へ左へ捩る。意外にも、足払ひを先に仕掛けたのはカンテラ- じろさん膝を着く、だが木刀の動きを牛耳つてゐるのは、まだじろさんである。


 俗に「剣道三倍段」と云ふ。しかし、じろさんに勝つには生なかな剣道の技術を以てしても叶はない。レフェリーが止め、演武は終はつた。観衆大喝采である。その中には、雪川組組長・雪川正述や、澄江さんの姿も見られた。

 二人はぺこりと頭を下げ、道場から退いた...



【ⅲ】


「素晴らしい演武でした。わたし、感動しましたわ」楳ノ谷が云ふ。これは観客皆の聲、と云つても良かつたらう。その証拠に、その日から、カンテラ、じろさん双方に入門希望者が後を絶たない。

 それにはテオが應對した。主に、入門お断りの挨拶に出た譯で、大體仕事(ヤマ)が忙しくつて、カンテラとじろさん、先生業をやるには、多忙過ぎる。


 テオ「いや來るわ來るわ。しかもその殆どが、【魔】に憑り付かれた者ばかり。これつてだう云ふ事なんでせうね」カンテラ「武道で名を上げたい、と云ふ(やから)なんざ、大體が何かしら【魔】を身中に飼つてるもんさ」じろさん「全くだ。その點は俺らも同じなんだよ」テ「さう云ふもんですかねえ。だが、これだけの數の【魔】がこの人間界に存在するとなると、ちと問題なんぢやないかなあ」


 テオの心配は的中した。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈平服の武者が二人よ嗚呼現代ネクタイ外し此井立つ哉 平手みき〉



【ⅳ】


 今や【魔】もスマホを操る時代なのである。カンテラ一味に拒絶された入門希望者たちは、お互ひ連絡を取り合ひ、不滿の聲が糾合される事となる。その不滿が爆発した時、この大東京は壊滅するだらう、と、これはテオの「讀み」。 

 カンテラ・じろさん、「そんなに酷いとは思つてもみなかつた... だうすればいゝ?」テ「まあ近く、連中は寄合ひの場を持つでせう。その時が、奴らを退治るには最適でせうね。幸ひ、連中のスマホは順当にハッキング出來てゐます。動きが手に取るやうに分かる」


 不滿分子たちが、東京某所で集會する、そのXデイが來た。カンテラは傳・鉄燦を腰に提げ、じろさんは黑装束に覆面姿となる...。じろ「念の為にフルも連れて行かう」カン「事態が収拾不可能になつたら、それもいゝかもね」



【ⅴ】


 集會所、と云つても、ビルの狹間(はざま)の空き地だが、に連中が揃ひの鉢巻をして、集つた。だうやら夜を待つてゐるやうである。じろさんのデボネアを近くに停めて、「その時」をカンテラたちも、待つた…


 やがて、夜更け。連中が動きを見せた。「カンテラ、此井、何する者ぞ。えい、えい、おうつ!!」まるで赤穂浪士の討ち入りである。47人ゐたかだうかは、定かではないが- 。

 そこで、牧野、じろさんに裸締めを掛けられ、失神。「龍」が東京の夜の明るみに照らされ、その姿を見せた。討ち入りの連中は呆氣に取られた。「こんなの聞いてないよー」と怖氣づく者多數。そいつらは早々に脱落した...。


 殘るはほんの數名である。これではカンテラ・じろさんコンビに敵ふ譯がない。「しええええええいつ!!」再びカンテラの雄叫びが、この大東京をつんざいた。



【ⅵ】


 テレビ局が、責任を取ると云ふカタチで、カネは演武會収録料に加へて、何がしか、が支払はれた。

 今回、各人の取り分にプラスして、特別ボーナスがテオに渡された。「いゝんスか? 僕が貰つて」カンテラ「当然だらう。危機を早めにキャッチ出來たのは、テオの働きに依るものだから」その他にも、杵塚の撮つた、演武当日の樂屋裏(?)、テレビクルーたちの動きを捉へた、メイキング・ヴィディオがある。カ「いや今回は、たんまり稼いだ(ほくそ笑み)」


 つー譯で、大東京武術地獄變、お仕舞ひとなりました。アディオス・アミーゴス!!



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈微弱なる頭痛も春の日和かな 涙次〉



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