才能社会
ある青年が、才能検査機で調査を受けている。自分の才能に合った職に就けば、ストレスなどで自殺する人間も減り、効率も上がるだろうという、国の計画だ。
そのため、18歳になるとほとんどの人が受けさせられるものだ。
検査が終わり、機械から紙が一枚出てくる。これに才能が書かれているのだ。
青年が外に出ると、この施設の職員が待っていた。個人情報保護の一環で、勝手に他人の才能を見ることはできない。もちろん機械の方にも、個人を特定できるような情報は残っていない。
しかし、ここで才能を申請すると、それにあった職業案内をしてくれるため、ほとんどの人はここで申請をしていく。
もちろん、虚偽の申告ができない用に、嘘を見抜く才能を持った人間が配置されている。「お疲れ様です。才能の申請をしていきますか?」
職員に聞かれ、少し悩む青年。
「秘書です」
そういった青年の目をじっと見つめる職員。しかし、すぐに笑顔に変わる。
「素敵な才能ですね。それではここに名前をご記入ください」
渡された書類に名前を書く。その帰り際に様々な書類を渡される。中身を見ると、それぞれの才能に合わせた、求人チラシだ。
その中にあった、ある議員の秘書募集に目を付けた青年は、早速電話をかけ、面接の段取りを決めた。
面接の日、指定された議員の家に向かう。そこには、恰幅のいい、鋭い目つきの男性が座っていた。
「君かね、秘書になりたいという青年は」
「はい、そうです」
「私は、実績の無い人間を取る気はあまりない。なにかあるのかね」
そういわれた青年は、ある紙を取りだし議員に渡す。その紙は、昨日渡された才能検査の検査表だった。
「実は、私の本当の才能は、詐欺師でして。実績はこの通り、あなたと面接していることです」
意表を付かれたのか、凄みのある声で笑い出す議員。
「なかなか見所のある奴だ。議員というものを良くわかっているじゃないか。雇ってやろう」
そういわれて、青年も一緒に笑い出す。青年自身も、ここまで上手くいくとは思っていなかったのだ。
「だが、少し惜しかったな」
「何が惜しかったのですか?」
「嘘をつくなら、そのまま議員の才能がある、と言えば良かったんだよ」
その言葉に、虚を突かれたのか、硬直する青年。それを見ながら、議員はさっきよりも楽しそうに笑っていた。