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リモコン

変な露店を見つけた。あまり人が通らない脇道、普段なら気が付かずに通り過ぎてしまうような場所。普通、露天というものは人通りの多い場所にあってこそのものだ。人通りの少ない場所にある、それだけでも十分奇妙であるが。

「一つ買っていきますか?」

店主らしき老人の男性が声をかけてくる。店にはリモコンが置いてある。しかし、それだけしかない。リモコンならば操作するものがあるはずなのだが、それがない。商品として成り立っていない。

昔、色々な会社のテレビを動かせるリモコンというものがあったが、テレビには普通リモコンは付属しているし、そうそう無くすものでもない。しかも、それを露天で売るというのも奇妙な話である。

「奇妙に思いますか?これは人を操作するリモコンなんですよ」

変なことを言い出す。人を操作するリモコン?馬鹿馬鹿しい。

そんなモノがあったら、世の中の政治家や犯罪者達が放っておくわけがない。

「人と言っても他人じゃありません。自分を操作するんです」

ますます訳が分からない。自分の身体は自分で動かせる。身体が麻痺している人間ならば多少は使えるだろうが、そうでもない。

「毎日、毎日同じような仕事ばかりでつまらないと思っているでしょう。これはその仕事を勝手にやってくれるですよ」

「どういうことだ?」

「リモコン使うと身体が自動で動いて仕事をしてくれるんです。その間、意識は無くなりますが、終わったら勝手に起きます。」

「それが本当なら確かに楽だな」

「そうでしょう、お安くしときますのでお1ついかがでしょう」

別に信じたわけでもないが、特に高い値段でもなかったので買ってしまった。そんな魔法や超技術の商品が露天で売っているわけもなく、無駄な買い物であるとは分かっていてもつい購入してしまう、深夜のテレビショッピングのような不思議な魅力、というものであろうか。

家に帰り、早速説明書を読む。とはいっても薄紙一枚なのですぐに終わってしまうが。書かれていたことは至って簡素で、面倒なことを思いながらスイッチを押す、これしか書いていなかった。

「まあ、やってみるか」

特に期待せず、料理と思いスイッチを押す。

目の前に、焼き魚ができている。時間を見ると20分ほど過ぎている。

少し背筋に冷や汗が垂れる。自分でやったことの過程が見えないことが、こんなに気味が悪い事だと思わなかった。しかし、確かに非常に便利ではある。

便利な道具は最初は戸惑う物、そう自分を納得させる。

翌日、朝起きると早速リモコンを使用してみる。内容は仕事。

今度はオフィスにいきなり飛ぶ。時間は定時を少し過ぎたところ。目の前にはきっちり仕上げられた書類がある。

これは便利だ。面倒なことをこれですませば、ストレスも貯まらないですむ。俺は好きなことだけすればいい。

リモコンによる自動化生活は本当に楽で気が付けば、リモコンを手に入れて2年が過ぎていた。

今、横には付き合っている彼女がいる。リモコンの俺は真面目らしく、会社でも出世し、回りの評判も良いらしい。そのせいが女性にももてるようになった。今はデート中と言うわけだ。

「ねえ、今会社ではなにしてるの?」

「え!え〜と、大体書類整理で終わってるかな」

「つまんな〜い。何かおもしろい話しないの?」

こう言った質問はこのリモコンの最大の難点だった。この手の質問の答えが全くわからないのだ。自分でもなんの仕事をしているのか分からないのだ。答えようがない。

「なんでもいいから、なんかないの?」

自分が困った表情がしているのが面白いのかからかうようにしつこく質問を繰り返してくる。綺麗で性格もいい方だが、時々こうして俺をイライラさせる。鞄に手を入れスイッチを押す。

時間が飛び、一人帰りの電車に乗っていた。携帯電話のメールを見ると彼女を家に送ったあとらしい。このところすぐイライラしてしまう。リモコンがあるので、怒りが爆発してキレたりすることは無いが、自分の時間が少なくなっているのがわかる。

「まあ、気にすることはないか」

駅から家に散歩がてら歩く。基本的に帰り道もリモコンを使うのだが、たまにはいいだろう。そういえば、こうして自分で歩いて帰るのも久しぶりかもしれない。

そうやって夜空を眺めながら帰っていると、キキキー、と耳障りな音が後ろから響く。

驚いて振り返ると、強力なライトが目を焼く。直後、身体が宙に浮き、コンクリートの道路に叩き付けられる。

何が起きたのか理解できず頭が真っ白になる。身体を起こそうとしても下半身に力が入らない。

何故?どうして?そうしたパニックが頭を支配する。しかし、急すぎて理解できなかった激痛が遅れてやってくるに従って、パニックで失われていた思考力が戻ってくる。脳を直接噛まれるような激痛に耐え横を見ると、道路脇の壁に車が突っ込んでいた。どうやら俺は交通事故にあったようだ。なぜ、俺がこんな事故に合わなくてはいけないのだ。

理解できると怒りが込み上げてくる。なぜ、俺なんだ。なぜ、みんな俺をイラつかせる。

幸い、近くに落ちていた鞄を探る。手探りでリモコンを探り当て、スイッチに指をのせる。

「もう、二度と俺に苦痛を与えるな!」

―――

彼が事故にあってから半年過ぎた。事故の後遺症で、右足が動かなくなり、生活はかなり不自由になった。けど、そのお陰と言っては悪いがか彼との距離が近くなった気がする。

後遺症の影響で毎日とっても大変なはずなのに笑顔を絶やさない彼の姿はとても魅力的だった。今度、退院と同時に結婚することも決まった。

今日も彼のお見舞いだ。彼が私を見つけ、手を振っている。私も手を降りながら小走りで彼の元に向かう。今、私は幸せだ。

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