泥棒チョコ
ある山奥に盗賊団の研究施設が立っている。盗賊団に研究施設が必要なのか?そう思われる人もいるかも知れないが
常に社会は進歩しているので、盗賊も進歩しなくては確実に盗むこともできないからだ。
さて、その研究所の中で白衣の博士が一つの発明品を完成させた。
「博士、それはいったいなんですか?」
盗賊のお頭が博士に問いかけた。いかにも研究職といったひ弱な体の博士と違い、顔も厳つく荒々しい風貌をしている。
「これは、泥棒チョコです」
見た目は包装紙に包まれた小さな板チョコで、表面には盗賊団のマークが入っている。
「それはまた不思議な名前だ。チョコが泥棒をするのかい?」
「いえいえ、そうではありません。論より証拠、このチョコをもって帰ってください。チョコは部屋に帰ってから食べてくださいね」
上手くはぐらかされ、チョコを押し付けられる。お頭も博士のことは信用しているのでまさか毒入りということはないだろう。
その夜、お頭は自室に帰った後チョコを開けてみることにした。
何の変哲もない茶色の見た目。味も特に変わった味がするわけでもない。ただ、少し苦めの味だった。
食べ終わった後も苦い味は舌に残り、お頭は少し不快な気持ちになってくる。冷蔵庫を開けると、盗賊団のマークが入ったお茶が見える。これ幸いと、一気にあおる。
すると舌に残っていた不快感はすっきりと洗い流され、爽快な気分になってくる。
(これが泥棒チョコの効果なのだろうか?)
だが、これだけではちょっと変わったチョコでお終いだ。たしかに売ればそれなりのお金になるかもしれないが、あくまで目的は泥棒なのだ。
しかし、爽快な気分がそういった悪い感情も押し流したのか、あまり怒る気にもなれなかった。
翌朝、お頭は博士のもとに向かった。
「やあ、博士。昨日のチョコを食べたが特に変わったことはなかったよ。あれでどうして泥棒チョコなんだい」
「そうですか、それは残念です。あの、話は変わりますが、このチョコの研究でこれだけかかってしまったんです」
書類を見ると盗賊団の研究費にとんでもない額が書いてある。普段なら決して許されるようなものではないが、お頭は妙に気分が良く怒る気になれなかった。
「そうか。でも大丈夫だろう、うちの盗賊団は儲かっているからな」
ハハハと豪快に笑うお頭。それにつられて博士も笑う。
食べて爽快、泥棒チョコ。あなたも泥棒がバレる前にお一つどうぞ。