王の頷き
ある国に絶対に賛成しない王さまがいた。大臣がどんなにいい案を持っていっても首を横に振り、美女が誘惑しても決して流されない。
そんなことをしていれば、国が運営できないものだが、しばらくすると皆が持ってきた案より優れたものを、王自身が考えついてしまうので、皆は文句も言えず国もうまく回っていた。
しかし、大臣たちは面白くない。かといって、王に歯向かう気もない。王としては歴代でも1、2を争う名君なのだ。しかし、大臣たちは王が皆の意見に賛成する場面をどうしても見てみたかった。
そんなある日、ある男が王の謁見にやって来た。
王は民衆の知恵を借りるために、様々な国民と謁見を行っている。この男もそういった一人だった。基本的には、王との謁見は1対1で行われる。これは大勢の前では気後れするものもあるだろうという王の配慮だった。しかし、王の安全のため何人かの兵士は配備されている。
さて、その謁見をおこなっていた男は王にある紙を渡す。その様子を窓の奥から偶然見ていた見ていた大臣は驚いた。王はなんと首を縦に振ったのだ。
大臣はあの男が渡した手紙の内容を知りたくて仕方がなかった。しかし、王に直接聞くわけにもいかないだろう。わざとではないにしろ、盗み見たようなものだからだ。
いったいどんなに素晴らしい内容だったのだろう。最高の統治方法、最高のレシピ、想像は膨らむ。
大臣は謁見を管理する部門に立ち寄り、男の素性を聞いた。
男はどうも街で服屋を営む仕立て屋らしい。大臣は男に使いをやり内密で自宅に呼び出した。
なぜ呼び出されたのかわからないのか、少し緊張気味の男に大臣は聞いた。
「お前はどんな内容の進言をしたのだ?内容を言えばこの金貨をやろう」
そう言って家が二つは建つであろう量の金貨を男の前においた。
それに驚いた男は
「私は王の服の新しいデザインを、献上に来ただけです。王が新しい服を考えていると、掲示があったので。それだけです、決して怪しいものではありません。そんな金貨を貰うほどのものではありませんよ」
男は慌てて答えた。
「別に君をどうにかしたいわけじゃないさ。ただ、私は王がなぜ頷いたのかを知りたかっただけなんだよ」
それを聞いて多少安心したのか、男は冷静になる。
「そうなんですか。しかし大臣様が見た、王が首を振る動作は、肯定をする動作ではないでしょうね。今着ている服をを確認した動作を大臣様が勘違いしただけでしょう」
そう言って男は金貨を貰うのを辞退した。
「そうか。それならば、お前を宮廷専属の仕立て人として採用する」
「え?なんででしょうか?」
男は狼狽えた。王の動作の謎も勘違いとわかったのだ、一介の街の仕立て屋である自分がいきなり宮廷専属なんて名誉職取り立てられるなんて、わけがわからない。
「確かに、王が首を縦に振ったのは、服を確認するためかもしれない。しかし、あの後、王は首を横に振らなかった。君のデザインが優れていたためだ。それに、これだけの金貨を前にして誠実に答えたのも良い。私は誠実な人間は好きだ、それは王もおなじであろう」
そう大臣は答えた。
大臣の頼みを聞き入れた男はこの後、王や王の側近のために数々の素晴らしい服を仕立てるが、それはまた別のお話だ。