表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/23

転生の森

人の気配のない、暗い森。月や星は雲におおわれ、光源となるものは青年の持つ小さな懐中電灯だけ。

自殺の名所であるこの森に、青年がやってきたのはやはり自分の人生を絶つためだった。

ナップサックから縄を取り出し、太い木の枝に結ぶ。

これで後は首をつるだけとなったとき、後ろから小さな物音がする。

驚いて振り返ると、小さな白いウサギが佇んでいる。

「あんたも自殺するのかい?」

ウサギは青年にいきなり話しかけた。青年はいきなりのことに面をくらい、声も出ずただただ呆然とした。しかし、自分が狂っていたとしても後は死ぬだけだ、何の支障もない。最後に話したのがウサギというのも面白いではないか、何の面白みのない人生だったが、最後に面白いものに出会えたものだ、と自分を納得させた。

「ウサギがしゃべるとは、なんとも奇妙なことがあるものだ」

「それはそうでしょう、私は元々人間だからな。2年ほど前にここで自殺をした者だよ」

「なるほど、転生というものですか。ということは、私も死ねば何かに転生するということですか」

「そういうことになるな」

青年はウサギの前に座り、少し考える。

青年は虫が嫌いだ。もし虫に転生することを考えただけでも恐ろしい。できれば目の前のウサギのようなものになりたい。

「転生をあやつることはできないのか?」

「転生は人生の残量に左右されるそうだ。君はまだ若いから人間になるかもな」

冗談ではない、人間として暮らすことがいやで死ぬのだ、自殺して人間に転生したら意味がない。

「どうにかならないものなんですか?」

「人間に死後の世界はいじれないさ、諦めることさ」

しかし、そう簡単に諦められるものでもない。何度も何度もウサギに頼み込む。はたから見ればずいぶん滑稽な光景である。

「そこまで言うのならしょうがない。森の奥に賢者がいるから少し待っていてもらえるかな」

そういって森の中に消えるウサギ。しばらくすると、小さな瓶を二つ持って帰ってくる。

液体が入ったものが一つ、紙が入ったものが1つ。

「これを飲めば転生せずに死ぬことができる、もう一つが死神の契約書だよ」

ウサギは紫色の液体と、見たことの無い文字が書かれた紙とペンを渡す。

「死神の契約書とは、すごい賢者もいたものだ」

契約書に名前を入れ、薬を開ける。特になんの匂いもしてこない。

「本当に後悔しないかい?」

「いいや、しないさ。自分で死ぬのだから」

ぐいっと一気に飲み干す青年。しばらくすると、気を失い地面に倒れ込む。

「なんとも簡単に、薬を飲むもんだ」

森の奥から一人の男が現れる。老人にも、中年にも見える、なんとも不思議な感じの男だ。

彼は足元のウサギの機械を止めると、青年を担いで森の奥に向かう。

そして、森の奥の隠し扉を抜けそこに青年を置く。

「やれやれ、こんなと年齢で死のうとするとは勿体ない」

男がつぶやく。すると声に反応したのか、青年が目を覚ます。

「ん?ここはどこですか?」

男は大仰に答えた。

「ここは地獄だよ。転生せずに死んだのだ、ここで労働をしてもらうことになる。契約書にサインはしたのだろう」

「なんと、そういう契約書だったのか。これなら転生した方がましだった」

嘆く青年。これで青年は、”死ぬまで”ここで働くことになる。死後の世界から逃げ出そうと考える人間もいないだろう。

死後の世界というものは、便利なものだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ