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閻魔2代目

何事にも初めてというものはある。たとえそれが地獄の裁判官であったとしてもだ。

先代の閻魔様が隠居して、新しい閻魔に代替わりしたその初日。

老猾な先代閻魔と違い、今の閻魔は経験が少なく、頼りない感じは否めなかった。

しかし、そんなことを知るよしもなく、死者はやってくる。

さっそく中年の男性の霊がやってくる。

「では、貴様の罪を裁く裁判を執り行う!心して聞け!」

なんども練習したらしいその前口上は、内心とは違い聞いたものに威厳を感じさせるものだった。

「さっそく、貴様の罪は…」

罪の口上をするさい閻魔が近くにいた側近の鬼を肘でつつく。

「これはどう読むのだ?」

罪状が書かれた閻魔帳を指さして、鬼に小声で尋ねる。

「これは、詐称罪です。嘘つきという意味ですね。これはよくある罪ですので覚えておいてもらえなければ…」

鬼の小言に少しムッとした顔をする閻魔。その顔を不安そうに見つめる罪人の男。とんだとばっちりである。

「貴様は現世で嘘をついた、よって詐称罪とする」

「待ってください。たしかに嘘はついたかも知れません。しかし、それは生きるために必要だったのです。それを罪とされるのはひどい話です。それにあなたも嘘をついたことはあるでしょう」

男は地獄に送られてはたまらないと、必死に弁解する。

「私は嘘をついたことはない。それに、閻魔帳に書かれるぐらいだ、嘘で人を傷つけてきたのだろう。その苦しみは地獄で贖われる罪である」

ああ、とくずおれる罪人の男。得てしたりと満足げの顔を浮かべる閻魔。

「あの、閻魔様。刑罰の宣言がまだですが」

鬼に指摘され、高揚した気分が一気に奈落まで落ちる閻魔。

「今からしようとしていたのだ、そう急かすな」

ばつが悪いのか怒ったように返す。こういったときは舌を抜いた後、然るべき地獄に送るのが通例となっている。

先代の閻魔の判例表をめくるが、達筆で書かれたそれは閻魔に読みとくのは一苦労だ。

そうする間にも、後ろから前から判決を迫る視線を感じる。

「は、判決を下す!貴様はその罪深い舌を抜いた後、皿の池地獄送りだ」

空気が凍るのを感じる。

「それは血の池地獄ではないのですか?」

後ろから鬼に指摘される。自身も宣言した後に気がついたが、時すでに遅し。しかし、嘘をつかぬといった手前、血の池地獄に訂正するのも都合が悪い。

「訂正した方がよろしいのでは?」

「ええい、私が皿の池といえばそうなのだ。至急、穴を掘り皿で埋め地獄を作るのだ」

仕方無しといった顔で外に出る鬼。

その後、男は急遽作られた皿の池地獄に送られた。

以降の罪人は特に失敗もせず裁くことができ、閻魔は比較的満足して家路についた。

そこに家中の皿を取られ激怒している先代の閻魔がいることを知らずに。

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