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『貧民屋』

『貧民屋』

俺達、ホームレスの職場は大体は駅前や公園だ。

そこでの主な仕事と言えば、駅のゴミ箱漁りや、物乞いなどだ。人に蔑まれ、惨めに暮らす、楽な仕事だ。

時々、血気盛んな若者に殴られたりはするが、反撃して傷つけるようなことはしてはいけない、それがプロだ。

え、なぜホームレスにプロがいるのかって?

どうにも詳しい理屈は良く分からないが、人は自分より下の人間が居ると安心するらしい。

奴隷みたいな生活をしているサラリーマンが俺達を見ると、俺たちみたいにはなりたくないと、頑張るのだそうだ。

実際、奴隷は奴隷なのにな。

どうして、この仕事をしているか?

俺は売れない劇団員をしている時に、この仕事の誘いを受けた。他の人が、どうしてこの仕事をしているかは、よく分からない。

だが、それが秘密裏に進められ、実行されているのだろうということはなんとなくわかっている。

日が落ち、公園の片隅ではホームレス同士で安酒を呑み宴会を開いている。しかし、俺は定時になったので、公園のトイレにむかう。

そこのトイレの裏、掃除用具入れに似せた地下への扉を専用の鍵を使い開ける。

そこから暗い階段を手すりを頼りに10メートルほど降りる。

最初は光など見えなかったが、だんだんと強くなっていく。入り口に着く頃には、周りは昼間のように明るくなっていた。

「よお、あがりかい」

「ああ、早く風呂に入りたいぜ」

「俺はこれから仕事だ。まあ、ゆっくり休めよ」

「そっちこそ、がんばれよ」

同僚と軽い挨拶の後、風呂場に向かう。

入り口を入ってすぐの部屋の自分の番号のロッカーに、ボロく汚い仕事着を仕舞いこむ。

隣の部屋は、体臭を取る消臭室だ。暖かいお湯と洗剤が、溜まった垢を洗い流し、身体を洗浄してくれる。

この部屋は、浴室とも繋がっていて、部屋をでると、大きな大浴場がある。

地下とは思えないこの浴室には、大小2つの風呂があり、まずは檜造りの浴場に入る。湯船につかっていると同僚が入ってきた。良く見るとアザだらけだ。

「ホームレス狩りか?」

「ああ、高校生みたいな3人にやられた」

「にしては軽症だな」

「惨めったらしく、やめてくれ〜、と泣き真似したら、笑いながら帰っていったよ」

そういって笑う。ホームレス狩りに遭うと特別手当てとして、旅行が支給される。同僚にしたら高校生に感謝したいぐらいだろう。

「あがったらどうだい、一杯」

クイッと手をひねり、酒を飲む真似をする。

「お、いいね」

風呂場をあがると清潔な部屋着に着替え、娯楽室に移動する。

仕事上、外にでる時は臭い仕事着を着なくてはいけないので、普通の飲み屋などの店にはいけない。

しかし、地上でできる娯楽は大体、この地下に揃っていた。

それでも、地上に比べたら制限は多い。

でも、考えてみればサラリーを貰い、家と会社を行き来する生活と比べてみると、できることなどそう変わりはしない。この仕事で急な呼び出しなど無いので、仕事と私生活のメリハリがしっかりある分、こちらの方が楽だと思う。

ウツラウツラと考えながら、セルフサービスのビールを注ぎ椅子に座る。

「じゃあ、乾杯と行くか」

ジョキを持ち上げ、構える。乾杯の音頭は毎回決まっている。

『貧民、万歳』

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