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90.GoGo

「夏休みがもう終わろうかという時に恐縮なんですが」

「はい」

「予定が空いている日は、ありますか?」

「……ぇ?」

「……」

「えええっ?」




「何をおっしゃっています? おじさま」

 間髪入れず。

 つかつかとこちらに歩み寄って来た栗毛ちゃんに引っ剥がされ未だにフリーズしている水音さんを隠される。

「調子が狂い過ぎて白昼夢でも見ていらっしゃいますか?」

 そしてその全く笑ってない鋭い笑顔に、何というか数か月前を思い出さされる。

「さすがにそれは、どうかと思うな」

 更にはワンコちゃんに手で大きなバツを作りながら間に入られる。

 こちらはこの数か月で変化した距離感のままでちょっと待て、されている感じか。

「いえ、済みません……聞き方が不適切でした」

「「……」」

「その、水音さんだけでなくて鳴瀬さんも杏さんも」

「ん?」

「え?」

「無論レオさんと虎も、全員で空いている日はないですか? という意味です、言葉足らずで誠に済みません」

 ほぼ全員がクエスチョンマークになっている中、一番察しのいい人が纏めてくれる。

「つまり、みんなで休日何かしよう、ってコトでいいの? セージ」

「はい、そうです」

 嗚呼……友達に誘われた経験は辛うじてあるものの、誘った経験の無さが如実に現れてしまった。

「ちなみに、何をする感じ?」

「それは……」




***




「おーっ、今日はこの車で出掛けるっすか」

「まあな」

 朝一レンタルしてきたワンボックスカーに俺の住むマンションの駐輪場に自転車を入れてやって来た虎が軽くテンション高めの声で言う。

「今日は六人だし」

「あのスポーツカーも乗ってみたかったっす」

「ま、そのうちな」

 定員オーバーになるため愛車は今日はお休みだ。

 と言うか。

「アレで出かけるなら、お前さんトランクとかになるぞ」

「それは勘弁っす」

「だったら虎ちゃん、ボンネットでこうしてたら?」

 笑いながらやって来たレオさんが猛獣のポーズを軽く取る。

「それは虎じゃなくてジャガーっす」

「その前にこんなの前に乗せてたら前方見えませんが」

 そしてそれ以前に確実にお巡りさんにしょっ引かれる。

「あはは、ゴメンゴメン……おはよ、セージに虎ちゃん」

「おはようございます」

 まあ、何というかよく使っているデニムにお洒落なサングラスと帽子をチョイスして今日の行先にもバッチリ合わせて来たね、この美人さんは。 

 更に言えばオフの時のヒールのある靴ではなく仕事時のブーツに近い靴底の厚みのバッシュで……それでも二度見するくらいおみ足が長い。

 そんなこんなをしていると。

「あ、水音ちゃんたちだ」

「ホントっすね」

 個人的には大分見慣れ始めた栗毛ちゃんの家のセダンが停まって三人の姿も。

「みなさん、おはようございます」

「おっはよー!」

「おや」

 所謂双子コーデとやらの三つ子版だろうか? 色違いのシックな長袖ブラウスにこれまた僅かに色味の違うパンツスタイルで、スニーカー履き、そしてそれぞれの趣味らしい帽子を。

 普段に比べて遥かに動きやすそうな印象になるが、特に。

「涼しげでいいですね」

 あと、とても新鮮で。

 膝裏まであろう髪を例外を除き覚えている限り常に先端を結い紐で纏めるのみだった水音さんが二つ結びのお下げにしている。

 結び目は例によってしっかりと編まれた飾り紐で。

「今日は少し動いたり他のこともしますので、ちょっといつも通りだと不便かな、と」

「確かに」

「大変なんだよ? ねえさまがいつもと違う髪型するの、前準備とか」

「……でしたね」

 直結までは行かないだろうがあの髪に力の一端がある彼女のこと、迂闊に解けてしまうと大事になってしまうだろうから……市販品とかでは結べないんだろう。

 艶やかな黒髪も無論いいが、あの銀色の髪も神秘的で……ってそうじゃない。

 今日はそういうのは、抜きにするんだった。

「ふふふ……」

「?」

「そういう征司さんも、いつもより大分涼しそうというか」

「ああ、まあ、そうですね」

 着慣れたを通り越しもうあれしか持ってないんじゃないかと言われてしまいそうなスーツではなくカラーシャツとスラックスで。

 本当に正確なことを言えば前に皆が部屋に来た時もこのスタイルだったが、自宅でならこのくらいだろうとスルーされていたと思われる。

 逆に言えば、完全に今日は遊びに行く格好、ということ。




「じゃ、早速出発しよっか」

「おー」

 そんなレオさんの音頭の後、軽く皆が手を上げて車の方に……当然、俺が運転席に向かうけれど。

「あの、みなさん車酔いの方は大丈夫、ですか?」

「平気だよ」

「問題ないっす」

「でしたら、私少し心配なので」

 そんな相談事が聞こえて。

「よろしくお願いします」

「はい、こちらこそ」

 助手席のドアを開けて、水音さんが笑う。

 普段……というか俺の車に乗る時とは逆に足をかけて高い位置のある座席に。

「ちょっと不思議な感じがしますね」

「確かに」

 シートベルトを少し探して付けた後、膝の上に帽子を乗せてそんな風に笑う。

 なんだか車内の空気がそれだけで清浄になったというか、マイナスイオンが出てそうというか。

 そんなことをしているうちに後部座席のポジション決めも進んでいき……手前側にレオさんと虎、奥に栗毛ちゃんワンコちゃんが角度調整したバックミラーに映る。

「じゃあ、出しますよ」

「よろしくね」

「安全運転でお願いします」

 確かにそれは大事だ、と頷いてからイグニッションボタンを押してエンジンを始動……するとオーディオにも電源が入りラテン系の曲が流れ始める。

「あれ? これラジオ?」

「いえ、雰囲気出そうかと昨日何枚かレンタルを」

 好みでなければ変えますよ、と言えばバックミラーの中でレオさんが爆笑寸前に笑いながら言う。

「何? セージったらそんなにあたしたちと出掛けるのにテンション上げてたの?」

「いや、まあ、折角なので?」

 応じながら公道に出て軽くアクセルを踏み込む。

 昨日の仕事上がりに諸々何を調達しておくか計画しながら店に寄るのは、正直言うと楽しかった。

「このまま一気に高速で目的地まで行くっすか?」

「いや、その前にちょっとショップに寄ってコーヒーとか調達する……一応後ろのクーラーボックスに水とお茶は準備したけど」

 ロングドライブには必要だろ? と提案すれば。

「オジサン、ホントに遊びに行く気満々なんだね」

「だからそう言ったじゃないですか!」




「大変なことに、なっちゃいましたね……」

「たまには良いかと」

 運転席と助手席の間にあるドリンクホルダーには生クリーム等のトッピングまでたっぷりの通常サイズの抹茶ラテと特大サイズのカフェモカが。

 無論後部座席の面々も好みを聞いた後、盛大に盛ってもらっている……ちなみに呪文の詠唱はスイカのフラペチーノにご満悦そうなレオさんにお願いした、ちょっと唱えられる気がしなかったし。

 ちなみに栗毛ちゃんとワンコちゃんも普通に言えてた……あ、後ろ組が飲み物集めて写真撮ってる。

「せっかくなので、私たちも撮っておきますか?」

「ええ、さすがに毎度毎度これは頼めないのでお願いします」

「後で送っておきますね」

 カメラを起動して構えるのは案外手馴れてるな、等と横目で思っていれば。

「みーなとちゃん?」

「はい?」

「折角だからキレイに撮れるように調整していい?」

「お願いします」

 後ろから手を伸ばしてレオさんがそんな提案を。

 明るい声に満ちる車内に軽く口元だけで笑う。

「ホントに旅行テンションっすね」

「まあな」

 頷きつつウィンカーを出し高速入口へ……ETCカードの挿入はOK。




「じゃあ行きますか、海へ」





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