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84.素麺色々

「いやー、本当のこと言うと二番隊と八番隊でやった時も全然実力を出してくれなかったしさ? あんな状況ならもうちょっとマジになってくれるかな? って」

 その後、少し乱れた庭の砂利や手水鉢を整え直した後、いつも食事を頂く広間で流歌さんが胡坐をかいて悪びれず笑う。

「顔はかなり真剣だったけど、まだまだ全力全開って感じじゃなかったかな?」

「そんなことはなくて相当に本気でしたよ」

 女の子を護っているときに手を抜くわけないでしょうに? と言い返せば目を細めて見詰め返される。

「防御の方は確かにそんな感じだったけど」

「……」

「あの場合、一気に攻勢に出て相手を制圧しにかかるのも選択肢だよね? 割と隙は見せてたと思うけど?」

「勝ち切れる自信がなかったんじゃないでしょうかね?」

 実際のところ確かに攻勢と攻勢の間の間は確かに大きかったが、隊長を張るような相手に対しての攻撃手段というか決定力が乏しい自覚はある。

 威力のある炎を放とうとすれば溜めが必要だし、速度を重視すれば簡単に撥ね退けられるほどの物しか間に合わない……物理面でも大体同様でどちらかを取ろうとするとどちらかが足りず結果として勝ちに行けない。

 勿論そんなことを馬鹿正直に言いはしないが。

 何とか向こうの得物が通常と異なったせいもあり付け入れたのは幸いだった……。

「そういえば、何故に槍で?」

 正体を擬態するためとはいえ日本刀を使う者は結構居るので普段とは違う刀で良かったのでは? と聞いてみれば。

「ちょっと自分の愛刀でやりたくない相手が出たときのためにお兄さんみたいに使い捨て出来るサブウェポン模索中でね……ちょっとホッシーの錫杖を参考にしつつ研究してたんだ」

「……」

 それで、しかも術の方は抜きであれだけやれるのかよ、とズルいだろうと言いたい気持ちになる。

 それはそれとして。

「それなら」

「ん?」

「投擲用の槍でも面白いかもしれませんね?」

「おー、それもナイスアイディアかもね」

 つい口を出してしまった。

 けれどこんな感じのアイディアの出し合いは嫌いじゃないし、妙な搦手なんかを思い付くのは好物だ。

「魔除けの効能のあるものを穂先あたりに括りつけて……柊とか鰯とかを」

「面白いね……ってそんなの持ち歩いたら魚臭いじゃん」

「バレましたか」

「おーい」

 とぼけて見せれば肩の辺りをどつかれる。

「あ、ちなみに」

「?」

「あの変装キットの方は気にしないでもらえると嬉しいかな?」

「……じゃあ、そうしておきます」

 何やら正体を隠してやっているのだろうか? よくはわからないが、関わらない方が良さそうだとは瞬時に判断できたので素直に首を縦に振った。





「今日は素麺ですよ」

「たっくさんあるよー」

 そんなことをしていると廊下の方からお盆を持って水音さんとワンコちゃんが大きなお盆を持って現れる。

 麦茶の入れられたポットと人数分のグラス、大きなガラスの器に入れられた素麺の山と氷……うん、良き夏の光景だ。

 この夏も一回自室で食べたけど、あのマンションよりこの畳の香りも爽やかな和室の方がより純度が高い。

「ところで征司さん、お姉ちゃんと何か笑っていましたけれど」

「そうそう、聞いてよ水音。このお兄さんったらボクのことを騙して魚臭くしようとしてきたんだけど、隊員の教育がなってないんじゃない?」

「おいおい」

 飼い犬の文句を言うように笑いながら。

「場合によっては効能があるかもしれないじゃないですか」

「その前にボクがぶっ飛ばす方が基本早いよね」

「それは確かに思ってましたが」

「そら見た事か」

 再び肩を叩かれる、と。

「お姉ちゃんと征司さん、もう仲良しで羨ましいです」

「ですか?」

 だがしかし。

 この子に物理付きの突っ込みをされることなど想像も付かないな。

「あ、だったらさ、水音」

「?」

「一回本気でお兄さんとド突き愛してみれば?」

「え、えええ?」

 ……おいコラ何を言ってやがる体育会系脳、とは喉元まで出かかった。

 水音さんは水音さんで注いでいた麦茶を動揺で軽く零している。

「んー、それやるならオジサンの両手両足に鉄球かなんか付けてだよね、ねえさまはハリセンかピコピコハンマー持って」

「そいつは傑作だね! 是非見物しないと」

「やらんから」

 第一そんな事態になったら、水音さんが手を出す前に雷が落ちると思うんだが。

「何馬鹿なことを言っているんですか」

 噂をすれば影、薬味やら付け合わせやらを盛ったお盆持参で栗毛ちゃんと銀子さんが姿を見せる。

 茄子の揚げびたしに夏野菜のかき揚げか……今日も心憎いまでのチョイス。

「おじさまはこんな感じが良いでしょうか?」

「素敵ですね」

 そちらに目を取られていると栗毛ちゃんがつゆと薬味を配膳してくれる。

 ミョウガに山葵に刻んだネギ、陶器の器のつゆには干し椎茸が一つ浮かんでいて……満点ではなかろうか?

 そしてそのまま。

「流歌さまにはこちらで」

「ありが……」

 お、隣の笑顔が凍り付いた。

 何事かと思ってあちらに渡されたガラスの器を覗いてみると、これでもかと盛られたオクラと納豆。

 これはこれで多少変化球だけど美味しそうじゃないか、とか思っていると。

「千弦、これなんかの間違いじゃ? 例えば隣と取り違えたとか?」

「いいえ、そんなことはございません」

「お残しはいけませんよ、流歌さん」

 反論を許さない澄ました顔と、向こうからは銀子さんの笑顔。

「……流歌ちゃん、ねばねばしたもの苦手なんだ」

「……なるほど」

 隙を見て耳打ちしてくれたワンコちゃんの情報で全てを納得する。

 水音さんをダシにされた栗毛ちゃんは勿論だが、銀子さんも庭で暴れた関係で軽くお怒りだったか。

「うえぇぇ……」

 給食のメニューが天敵のオンパレードだった子供のように情けない顔をする流歌さん……こちらもちょっとだけスッキリするのは否めない。

 ……ちょっとだけだよ?

「ま、健康には良さそうですね」

 間違っても食べると身体的にNGなことをこの二人がする筈もないから安心して隣から追い打ちをかける。

「だったらさ、ほら、ボクのと取り換えてあげるからさ? ね?」

「……」

 過去一しおらしい態度で言い募ってくる……まあ、多少痛い目にあった方がとは思いつつも、切ない顔をしながら食事というのも可愛そうな気がする、本人以外にも場や食材たちへ、と言った意味も込めて。

 それと後、夏前にこっそり巻き込んでしまったこともあったのも覚えているし。

 目配せで銀子さんと栗毛ちゃんに問えば目的は果たしたから任せる、的に軽く頷かれる。

 それを確認してから。

「……どうします?」

 一緒に襲撃された場で一番優しい子に聞いてみる。

 勿論、答えはわかっている上で。

「征司さんが苦手でなければ」

「どちらかと聞かれれば、むしろ好物ですね」

「では、お願いします」

 柔らかな回答と共にこちらに渡された空の小鉢、を隣に差し出す。

「……半分だけですよ?」

「ありがと……今度、お昼奢る」

 鼻をすすって頭を下げられる、どんだけ苦手なんすか。

 まあ、個人的には大したことはしていない認識なので。

「自販機のコーヒーくらいでいいですよ」

「じゃあ、近くのコンビニでメガサイズ買ってくる」

「ならそれで」

 言いながらこちらに移されたオクラ納豆の比率が6:4なのは……いや、三分の二なのは目を瞑っておくことにした。




「……今日も美味しいです」

 まずはシンプルな状態で啜って思わず声が漏れる。

 店で売っている物も勿論充分美味いが、手間をかけて取られたつゆの味はもう一段上にあった。

「それは何よりです」

 付け合わせたちも少し濃い目の味付けの揚げびたしにサクッと揚がった野菜の食感が素麺と引き立て合っていて……。

 銀子さんが飲み屋を開いていたら足繫く通ってしまっていただろう……いや、実際頻繁にご厄介になっているのだが。

「うん、おいしい……」

 隣ではノルマ分を目を閉じて一気に食べた後、麦茶を飲んで復帰した流歌さんがしみじみと言っていて、逆隣の水音さんと顔を見合わせてこっそり笑ってしまう。

「お兄さんってさ」

「はい」

「学校、給食だった人?」

「ですね、小中学校と」

 色々と懐かしいことを思い出しつつ頷けば。

「結構その時間はみんなの救世主だったりしたんじゃない?」

「ああ……」

 合点してまた頷く。

「子持ちししゃもをダメな子達の分と合わせて一〇尾くらい食べた事とか、ありましたね」

「すっご」

「あはは、だよね」

 ワンコちゃんと流歌さんにはウケたようだが……栗毛ちゃん、そんな信じられないものを見る目で見ないで?

「でも、給食か……」

「?」

「今から思えば懐かしいメニューも多いですね、ソフト麵とか」

「杏、揚げパン結構好きだったな」

「私はわかめご飯が好きでした……あんまり入らなかったですけど」

「ボクは小魚とアーモンドが入ってたヤツかな」

「ミルメーク、美味しいですよね」

 皆が口々に上げた後、大御所に注目が集まる。

「やっぱり、クジラの竜田揚げ、でしょうか」

 期待通りの御答えをありがとうございます。

 一度珍味で鯨肉ベーコンを食べたことはあったが……一度通販を探してみるか。

 流石にアレは捕りに行けないしな。





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