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7.ラーメン餃子チャーハンセット①

「ああ、話の腰を折って済みません」

「い、いえいえ」

 今度こそ喧々諤々を終了させ、先程から話を切り出そうとしてあわあわしていた隊長さんにお譲りする。

 こんな若さで濃い面々のまとめ役を担わせて申し訳ない気持ちはあるものの……隊の構成ルール上仕方がない。

 場の妖や物の怪を叩きのめした後、清め祓う……前者の手段は割と豊富だけれど後者への傑出した才があるものは希少と言ってもいい存在だった。

 そのため、最初にその役割の者が選ばれそこに肉付けがなされて行くパターンが多く必然的に隊長と浄化役はほぼイコールだった。

 またそこにそんな才を輩出した家や周囲の思惑やらあれやこれやが絡むのは、まあ仕方が無いと言ったところか。

 彼女も何かしらを背負わされてこの役割に当たっているのだろう。

「では、本日の打ち合わせ、させて頂きますね」




「今回から討伐目標のランクがDクラスとなります」

 昔は甲乙丙……となっていたらしい脅威度の表現だが、百年ばかり前国外の組織との連携を図った際にアルファベット表記に統一された、らしい。

 最下位のFから始まり最上位のSへ、C以上は単独での対処が禁止されている等、等級により可能な限り安全に討伐を図るシステムとなっている……人の手はいつもどこまでも足りない業界故に安全と生還を第一に。

「向田さん」

「はい」

「その、ベテランの方から何か注意点などがあれば」

「了解」

 そういう心遣い非常に助かる、こちらの立場的な意味で……経験を伝えられる役割というのもここに加わった意義の一つ。

 それに、若いチームとして必要なことも間違いない。

「今回の相手は犬系のスケルトンの類、単体ではこの前までのEクラス相当だけれどあいつ等は群れている可能性が大なのでD判定、ですね」

「見てきたように言うじゃん」

「実際、見てきたので」

 レオさんの指摘に、昼間の業務内容を明かす。

「下見と周囲の下位の怪異の掃討は完了させて人払いの術も施して来たので、完全に油断はできませんが目の前に集中できますね」

 一応、学生さんたちが本業に励んでいる間遊んでるわけじゃないんですよ?

 ……昨日の今日なのでやたらトイレが近くて苦労したけど。

「ならいっそそのまま掃討して下さってもよかったのに」

「それだと実地訓練にならないので」

「わかってます」

 栗毛ちゃんの大切なお姉さんを危険にさらしたくない気持ちはわかるけど、それだと色々と意味が無くなってしまう。

 そう、色々と。

「……脱線しましたけど、チームとして基本の動きをしていけば問題ないかと」

「わかりました、ありがとうございます」

 その後、幾つか細かい段取りを打ち合わせてから転移の術を使用する別室へ。

 俺はスーツ姿なので問題はないけれど、巫女装束やらシスターの格好で外を行くわけにはいかないからね。




「ちなみにおっちゃんはさ」

「うん?」

「どのクラスまでやったことがあるんだ?」

 まさか敵の群れの真ん前に出る訳にも行かないので少しずれた座標に飛び最後の位置取りをする際にメッシュ頭からそんなことを聞かれる。

「一応、一度だけAと」

「勝ったん?」

「それは、まあね」

曲がりなりにも自分の足でここに立っているだろう? と自分の太ももを軽く叩く。

「倒したのは、家のエースだったので自分は援護に徹しただけだけど」

「いや、でも、スゲーじゃん! ちょっと見直しそう」

「それはどうも」

 確かにそういう意味では希少な存在かもしれないけれど、そもそもAなんてそうそう出てこられても困る、とも言う。

「うおー、なんか燃えてきた」

「何でまた」

「そのうち俺も大物を狩れるデカい男になるぞ、って」

「おお、無理はしないように頑張って」

「うっす!」

 力瘤を見せた後、大太刀を抜いて駆け出そうとする背中に、若いっていいなぁ……と思った次の瞬間。

「いや、ちょっと待てぇ!」

 大きな虎の刺繍の入ったスカジャンの襟を慌ててとっ捕まえる。

 これ、虎じゃなくて牛の間違いと違うか?

「何でさ!」

「何でも何も事前の打ち合わせ!」

「セージと千弦ちゃんの先制の後ゴーでしょ!」

「あ」

 レオさんの指摘にこの顔……忘れていたみたいだな、顔に思い切りそう書いてある。

「今の漫才で感付かれたようですが、行けますか? おじさま」

 こちらは呆れた、と顔に書いてある栗毛ちゃんが弓に雷を番えながら聞いてくる。

「一〇秒ください」

「了解しました」

 少し慌ただしく右手を前に突き出し力を収束させる。

「知能を持つのはいない模様だけれど……一応反射には気を付けて」

 もう片方の手でタブレットにインストールされている脅威判定アプリの表示がDのままなのを確認。

 技術班は本当便利な物を作ってくれたと感謝。

 それと同時に自前で広げている探知の術の感覚ともずれていないことも確かめる。

「わかっています」

「じゃあ、いつでも、どうぞ」

「では」

 炎と稲妻の激しい光が一気に廃線となった地下鉄跡地を塗り潰す。

 初手で三割弱が削れた模様、慌ただしかったけれど想定通り。

「今度こそ行くよ」

「うっす!」

 前衛二人が銃声と共に駆け出していく。

 その様を確認しながら二の矢を準備しつつ栗毛ちゃんが聞いて来る。

「おじさまは行かないので?」

「こちらに抜けてくるのが居ないか確かめてからですね」

「私と、一応杏も居るのでご心配なく」

「ふむ……」

 軽く五歩ほど後ろを横目で確認すれば真剣さと心配そうの半々でこちらを見ている隊長さんと、その横をぴたりと離れないツインテちゃん。

 確かにあそこまで行くのは居なさそうかと判断した後。

「何か?」

 それにしてもやはり栗毛ちゃんはあくまで隊長さんを戦わせる気は、無さそうだった。

 気持ちは理解できるし、むしろ可能ならば彼女を含む女子勢は置いてきたいくらいの心情だったりもする……いい年をした男としては。

 それはそれとして。

「じゃあ、頼みます」

「はい、承りました」

 こちらを狙うというよりはどちらかというと前衛二人の後ろに二匹ばかり回り込もうとしている動きに割り込む。

 目標変更した手前の一匹が跳躍してくるのを木刀で叩き落しつつ、レオさんの方に行くもう一匹に意識を向け内包している澱みに狙いを定め……バレーボール大の火球を叩き込む。

「ヴェ……」

 声帯もとうに腐り落ちているだろうに発した断末魔を聞きつつ同じ手順で先程叩き落した個体も始末する。

 そうしているうちに前衛二人がその倍のペースで銃弾と太刀で骨の獣たちを分解していた。

 そうなるだろうとは思っていたけれど、二人で充分なのは予想の通りだった。




 数の差が縮み分水嶺を超えれば残りは呆気なく殲滅され、所用一五分ほどで辺りは再び静けさを取り戻した。




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