70.ティータイム①
「……何か?」
「いえ」
元々。
隊の中で虎は春生まれ彼女は秋生まれで一番年下なのにそうは見えなかったが……栗毛ちゃん、スーツ姿も見事に着こなしているな、と感想を持つ。
水音さんより背丈もあるし髪型も合うものをしているしな、とか考えていると。
「あ、あはは……」
それがもろ顔に出たのか水音さんが複雑そうに笑っている。
「大丈夫です、お姉さまはこんな地味な恰好ではなくお綺麗な服が似合うんですから」
「そ、そんなことないよ……それに、征司さん見ていたらスーツも良いなって思ってていい機会だったから」
ただまあ、美少女は間違いないが如何せんやや童顔だしなぁ、とこっそり考える。
極論、服装をどうかすれば中学生に見えないことだってないかもしれない……。
「不埒なことを考えていませんか?」
「いえ、滅相も」
すっと斜め前に出て水音さんを隠すように。
相変わらずお姉さんのことが大好……大切なんだな、うん。
「さて、ともあれ行きましょうか」
「はい」
前回と同じ流れで助手席へと進む水音さんを見ていると、後部座席へ収まりながら警察官のようなお言葉が来る。
「真っ直ぐ前を見て、安全運転でお願いします」
「承りました」
***
「……」
「あ、あの、ちづちゃん、落ち着いて」
「何を言ってらっしゃいますか? お姉さま……私、冷静ですよ」
冷静に怒って……いや、激怒していらっしゃるよね、とはとても口に出せる雰囲気ではない。
今回の依頼人は弊社に持ち込むのは初という古物商だったのだが……まあ、少女二人に対して少々懐疑的な感じを隠そうともしない中年男性。
不愉快な気持ちになることは責められないし、三人になるまでは一欠けらも表に出さず完璧に対応していたので文句を言うつもりはない。
何より、度合こそ違うものの正直同感だったから。
「ちゃんとご依頼をこなして見せてからにしよう、ね?」
「はい」
かと思いきや、水音さんに手を握られながら説得されればコロッと機嫌が持ち直し柔和な表情になる。
内心でこちらも胸を撫で下ろしながら……教室くらいは有りそうな倉庫に積まれた様々な箱を眺める。
「この中から時々声が聞こえる、ですか」
ご本人曰くやり手の古物商さん(栗毛ちゃんがこっそりタブレットで調べたところそこそこっぽい)が様々なものを買い取った後ある時気付いたら発生していたという案件、なので時期から遡ることは不可能。
「不気味過ぎて中なんて見れないですよ!」とのことで一体何がどうという情報も一切不明。
「まず付喪神の類かと思われますが」
栗毛ちゃんに頷きつつ全員がもう一度倉庫の箱の山を見る。
「さすがに骨が折れそうですね」
「凄い量ですものね」
箱の数で数えたならもう少し少ないだろうが複数中身があるだろうことを考えると物品数は百は下らないだろう。
虱潰しに行くには少々タイムパフォーマンスが悪い。
「憑きものでしたらお姉さまと私で一気にこの倉庫ごと祓ってしまうのですが」
「ちょっと効き目があるか怪しいのと……」
「流石にそれは可哀想だよ、ちづちゃん」
何せ、悪霊とは限らないので。
「おじさまは時々妙に鋭いですが、それで何とかなりませんか?」
「一応やっているんですが……候補が幾つかいましてね」
「どういうことです?」
「付喪神か単に魔力を秘めたものかの判別は難しいんですよ、自分の探知に出てくる気配としては同じなので」
「それでもいいので進めましょう」
「そうですね、少しずつでも」
「最終判定はどうします? 狸寝入りされたら難しいですよ?」
「……問題なさそうな品なら少し電気を通してみましょう」
おっかねぇ、とは思いつつも多少仕方はないという気もする。
願わくはそれに恐れをなして向こうから名乗り出てくれないかな? というところだ。
「これも反応なし、ですね」
「ええ」
一振りの日本刀の表面に軽くスパークを散らしたものの反応はなく、鞘に納めながら一応完全に嫌疑が晴れた訳でもないので候補として分けて置く。
そんな感じでかれこれ五点ほど骨董品を品定めしたが当たりは出ていない状況だった。
「次は……」
「あの、征司さん」
「はい?」
「そろそろお疲れでしょうから、一休みしませんか?」
無論まだまだいけるのだが、箱の山をかき分けるというのがどうしても付きまとう以上その提案は魅力的だった。
そもそも倉庫内は空調が入っているとはいえそれなりに暑い。
「じゃあ、そこに自販機があったのでお茶でも買ってきますか」
そう口にした瞬間だった。
「茶ぁ?」
「「「!?」」」
不自然な物音と声に、全員で顔を見合わせる。
「今のって……」
「誰も何にも触っていませんでしたよね?」
全員で頷いてから、休憩は後回しでその付近に意識を向ける。
そして。
「これ、の可能性が高いですね」
その周辺で一番怪しい気配だと当たりを付けた木箱を開け中を覗く。
「お茶碗、ですね」
水音さんのポツリとした言い方で反射的に白米を連想したが、そうではなくて茶器の方の茶碗だった。
「由来のあるものなんでしょうか?」
「箱には特に銘がありませんね、鑑定書などもありませんし」
そういうのには疎いのでお嬢様二人が目を通しているのに任せて茶碗そのものから目を離さずに警戒する。
「まあ、とりあえず、ですが」
咳ばらいを一つしてから栗毛ちゃんが細い目つきで茶碗に話しかける。
「解決するなら多少の損害は許容していただけるそうなので話し合うなら今のうちですよ?」
すると一拍置いてから茶碗が身震い(?)して。
「わかった、わかりましたから割らないで!」
「「「!」」」
思ったより高い声で命(?)乞いを始めたのだった。




