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6.タレ?塩?④

 夕方四時。

 本部の第三会議室に向かうと扉の向こうには四人の気配、恐らくは高校生の面々だろう。

 歳の頃が近いためかそれなりに世間話のような声が聞こえる……けれど俺が入って行ったら止まるんだろうなぁ。

 いっそのこと「はい、全員席に着けー」とか言いながら入ったらなんやかんやでスムーズに事が進んだりしないかね?

「……アカンな」

 そうだね、姉さん……むしろ場がキンキンに冷える未来しか見えないね。




 伝え聞くには江戸の城に将軍様が居た頃に成立したという、各地はそれぞれの神職たちが鎮め強大な相手が発生しやすい人口密集地は各地から抽出した戦力で叩くというシステム。

 そこに派遣された人たちの取り纏め役から発展したのが現在の弊社。

 ところが昨年末から逆に地方で異常な発生が続いておりこちらから人手を出しているという事態が続いている。

 首都常駐の六部隊のうち半数が出払う時期が続くことによりそれを補完すべく近い将来それに参加すると目されていた幾つかの家の有望株が集められて急遽結成されたのがこの隊。

 勿論、俺自身はそういうことではなく我が家の担当地区は被害も少なく陣容も充実していたため「全国的に大事になっとるんだからお前らも手を貸せ!」というお話し合いが偉い人の間でなされたためこうなった。

 というのが本社派遣の理由の一つ。

「ふぅ……」

 個人的には、一人で気ままに狩りをしていたかった気がしないでもない。

 少なくとも、こんな世代間の壁にこっそり悩むくらいなら。

「わかってますよ、親父殿」

 けれども。

 今回の件が首尾よく済んだことにより提供される報酬に目が眩んでいるのもまた事実だった。

 老後の資金等の懸念を解消し、とっとと引退して自由自適のスローライフを送りたい、その欲望のために。




「遅くなりました」

 いや、まだ五分前ではあるのだけれど、他に入る時にいう言葉が見つからなくそんなことを口にしながら会議室に入る。

 勿論、あの滑るのが確定しているような物言いなどはしない。

 立場的にアウェーなのは痛いほどわかっています。

「お疲れさまです」

「お疲れさまっす」

 一応隊の責任者である礼儀正しい巫女装束のお嬢様と、互いに男がお互いしかいないため多少距離が縮んではいないこともなさそうな(願望)金メッシュ頭が口を開いてくれ……他の二人もきちんとした古い家の育ちのためか会釈はしてくれる。

 でもやっぱり、結成時から今までの通り、年上が入ることで場の空気が少々変わったのは否めない……姉さん、辛いです。

 そんな時に。

「やっほー、セージ」

「ぐほっ」

 突然背中のど真ん中を強かにどつかれる……一応気配の探知を怠ってはいなかったのに、多分遮断の法で詰められた。

「い、いきなり何を……」

 振り返りながらのそんな抗議には構わず、肘鉄をくれたシスター服の彼女がにんまりと笑う。

「それより、昨日の夜はありがとね」

「あ、ああ……こちらとしても楽しかったからそれは構わないのですけど」

 そこまで言ったところで、背中側からの別の意味で痛い視線が突き刺さっていることに気付かされる。

「昨日の、夜……? 楽しかった?」

「ねえさま、これってつまり」

「し、知りませんっ」

「……不潔」

 これ、初心ながらそちらに興味ある高校生だらけなことがわかっててやりやがった、な?

 ……いや、むしろ遊びの標的はこっち、か?

「だって、セージまだまだ余裕そうだったのにあたしのお誘い受けてくれないし」

「言い方!」

 思わず大きい声が出てしまったけれど、咳ばらいを一つしてから。

「女性とサシで飲んでいるのに正体が無くなるくらい飲むほど馬鹿じゃないんですよ」

「飲み比べに勝ったら素敵なことあったかも、なのに?」

 さらっと品を作りながら言い放たれる。

「あたし、魅力無かった?」

「そんなことは断じてないけれど、アルコールが行けるかどうかを理由にしたくはありませんね」

「言うねー♪」

 軽く拍手をされた後、片目を閉じながら言われる。

「でも、昨日はご馳走してくれた上に家の近くまで送って貰っちゃって、ありがとね……これはホント」

「こちらも、楽しかったのは間違いないですよ」

「あはっ……やっぱり、セージはいい人だ」

 これで何とか話は落ち着くかな……と一息ついて自席を目指そうとする。

 でも、まだ終わってはいなかった。

「ところで、昨日約束したことは忘れてないよね?」

「ちゃんと承知してますが」

「実行してみて?」

「了解ですよ、レオさん」

「よろしい」

 頷いてカラッと笑う彼女のフルネームはレオカディア・ゲレーロ……いや、昨日食べたのは唐揚げではなく焼き鳥だけど。

 距離を縮めたいならまずは彼女のことから名前で呼べと諭され、ファミリーネームへの逃げは響きの観点からも飲みの席というシチュエーション上速攻で却下されていた。




 今度こそ話が落着して席に着こうとしたところ。

「まあ、おっちゃんたちが夜の街で楽しんできたのはわかるんだけどさ」

「そうそう、大人の時間」

「何を言ってやがりますか」

 そこの金メッシュと本物の金髪さんは。

「ところで、何でさっきからおっちゃんたち焼き物の話をしてたんだ?」

「おぉい……」

 その発言に肩ががっくりと下がる、それは青磁。

 流れでもわかりそうだし、何より以前自己紹介はちゃんとしたぞ?

「向田征司さん、身長188㎝体重80㎏強。普通車運転免許に二級船舶免許、剣道初段、危険物取扱者乙種第二類、火薬類取扱保安責任者乙種等所持」

「あ、あの……鳴瀬さん?」

 ゆっくりと読み上げる様に口の端が引き攣る。

 知ってもらっているのは嬉しくなくもないけれど、その知り方は逆になんか怖い。

「お姉さまのお傍に経歴の怪しい人を近付ける訳にはいきませんから」

「ですよね」

 まあ、協会に提出している履歴書の範疇なので見ようと思えば見れる内容ではある。

 ただ、それ以上に色々とチェックされていそうな気がするし、気のせいではなさそうだった。

 一応それなりの所からの派遣ではあるのだけれどそこで気を許してくれるような性格だとはとても見えない。




 これはもしかして、だけれど。

 上手いこと馴染めていない件、原因は俺だけではない気もしなくもないぞ?





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