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64.海と牡丹

「なるほど、ね」

 故郷とは海も浜も様子が少し違う海岸線を電車に乗りながら移動している。

 先日夏は海沿いに人が増えるから穢れやら何やらがそれに魅かれて増えるやも、という話がしたところだけれど予測アプリの指示通り見に来てみればまさにその通り、だった。

 弱いものは通りすがりながら焼却しているが海水浴場と海水浴場の間のやや寂れた付近等からはやや強めの嫌な気配がしている。

 巡回がてら様子をみて潰してはいくが、これだけいると単独での対処が禁じられているクラスのものもいると予想され……普段なら他の隊が対処するだろうが、明日に迫った高校生ズの夏休み入りを待ってこちらの隊の出番も十分に考えらえるな、と電車の減速の弾みでずり下がって来ていた眼鏡を直しながら思ったりもする。

 一応、夏期講習やら諸々があるようだけれど自由時間も増えるため無理のない範囲で仕事は入ってくる筈だった、こちらとしては業務内容の比率が少々変わる程度か。

 駅名のアナウンスに未就学児を連れた家族連れや大学生と思しき友人グループといった早めに夏休みに入っている面々が降りようとドア付近へ集まっていく中、膝の辺りに軽い感触。

「あ、ごめんなさい」

「……ごめんなしゃい」

 下を見れば年少さんくらいのお母さんに手を引かれた女の子が持っているピンクのイルカの浮き輪が軽く接触していた。

「いいえ、お気になさらず……海で遊ぶのかい?」

 前半はお母さんに、後半は女の子に。

 お母さんの方はこちらの風体に若干腰が引けている感があるが……一応、そんなに怖い人ではありません。

「ん!」

「絶対に、知らない人に付いていかないんだよ」

「わかった!」

 良いお返事に思わず口元が緩んだところで完全に電車が停止し、ドアが開く。

 気を付けてね、と軽く手を振って見送りながら……未練か恨みからか道連れを増やそうとするような霊も屯っているだろうと危惧を覚える。

 これは、多少オーバーワークになろうとも緊急性のあるものは徹底的にすべきか、と再度心に決める。

 夏の思い出は良いものであるべきだから。





***




「大体こんなもんか」

 今日明日中に危険がありそうなものを片付け、帰社した後報告をまとめタイムカードを押した後、一旦帰宅した後車を出して先日即席の銛を作る材料を購入した大型のホームセンターに立ち寄っていた。

 正直、仕事上がりでなければ無目的にぶらぶらしても半日は潰せそうなくらい興味を引かれるものの多い場所だけれど、今日は夕刻なので目的のものを手早く買って戻ることとする。

 明日これらを持ち込むとなると車で出勤の必要があるので立花さんに教えてもらった通り近くの提携先コインパーキングを利用する必要があるな、と手順を反芻しつつ。

 あと必要なものは夕食の調達がてらスーパーマーケットだな、と大型のカートを押しながらレジコーナーに向かった。





***





「この時間帯から集合は新鮮だね」

「っすね」

「昼一だもんねー」

 翌日、第三会議室にて。

 順次準備を整え集合をし打ち合わせの前に雑談をする形になる。

「しっかし前々から思ってたけど」

「うん?」

「おっちゃん、この暑さでもスーツびっしりで暑くないの?」

「まあ、別にもう慣れたし」

 街中でも時折そう言いたげに見られることはあるけれどまあ一応耐刃耐火の特注品だからこれ以外を使うことはないのでそう答える。

「あれ? トラ、気付いてないの?」

「え? 何が?」

「オジサン、ワイシャツの中に風系の子の加護つけたお守り下げてるから実はあんまり暑くないんだと思うよ~」

「マジで!?」

「え! ずっりぃ!!」

 虎とレオさんがこっちを見て目を凝らすと順次本当だ、という顔をされる。

 対してバラしてくれたワンコちゃんは勿論として、そちら系に詳しそうな装束の巫女系三人は気付いていた様子だった。

「まあ、最大火力を出そうとするとどうしても排熱はネックになるので一応そういう仕掛けはしていますね」

「そういうことなのね」

「一応、申請すれば自分の力を伸ばしたり弱点を埋める系統の装飾品を技術部とかに検討して貰える筈なので考えてみては?」

 眼鏡のフレームを突きながら説明をする、こちらは突発の幻術を防ぐための用心としていつも身に着けている。

 技術部……と呟く様子に少し視線を送れば一つ首を振ってから話を再開される。

「征司さんもそうなんですか?」

「自分の場合は向こうで色々とやっていくうちにこれは備えておけという義弟からのアドバイスと自分の経験で誂えて貰った感じですね」

「他にも内ポケット等に色々仕込んでいらっしゃる感じですが」

「無くて後悔するよりは備えとけってことで……例えば何かを切断する必要が生じたときとか、場合によっては地面を掘ったりもありますからね」

 若干不審そうな目で見てくる栗毛ちゃんにサバイバルナイフの柄を見せつつ説明する。

 これは時々見えてしまっていることもあると思うので構わないという気分でもある。

「あ、ちゃんとそれ加護も付加されているのね」

「用途と効き目は多いに越したことありませんしね」

 きちんとショルダーホルスターの普段仕舞っている位置に戻しながら。

「銃刀法には気を付けないとね、セージ」

「そうっすね」

「確かに」

 レオさんは御身足のホルスターに小型のものを、で虎は普通に竹刀袋に入れている。

 ボディチェックを受けたら一番怪しまれるのはこっちかな? まあ万が一連行されても許可は得ているので後から放してもらえるだろうけれど。




「さて、そういう意味では今回はこういうツールをテストしてみようか、という話に繋がるんですが」

 昨日個人的に揃えていたものとは別に、先日水音さんと相談の上申請し午前中準備していたものを人数分テーブルに並べる。

「おお、かっけー」

「……」

 見た途端にテンションをぶち上げる虎、を呆れたような目で栗毛ちゃんが見ているが許してあげてほしい……男子としてはちょっとそうなるのを否定できない。

「ちょっと格好いい、かも?」

 レオさんの方がさっそく装着して銃を構えて見せる。

「あ、レオいいじゃん」

「映画か何かみたいですね」

 確かにインカムをして銃を持っているとそういう映像作品のように見える。

 シスター姿でも味があるがスーツとかでも見てみたい、かもしれない。

「ノイズキャンセリングも付いていて、ついでに呪詛にも簡便なフィルターを追加してあるので少しは予防効果があるとの技術部の説明ですね」

「なるほど! イイっすね!!」

「「!?」」

 こちらも装着感を試してみながら説明していると突然耳元に虎の大声が入ってきて……同じ被害にあったらしいレオさんと顔を見合わせてから同時に軽く虎の頭を叩く。

「虎ちゃん、ボリューム」

「隊全員の鼓膜吹き飛ばす気か」

「ご、ごめんなさいっす」

 二人して一旦インカムを外して顔をしかめていると……脱線しかかった話を水音さんが戻してくれる。

「ええと、今回は呼びかけてくるタイプの怨霊、ということでしたよね」

「ですね……強さという意味で言えば精々Eくらいなんですが万が一幻惑されてしまうと手練れでも危ないというのが厄介で、一人では絶対にテリトリーに踏み込むな、という訳です」

 気付いたころには足も付かないほどの沖の水底、という塩梅だろう。

「本当なら昨日巡回した時にそちらも掃いたかったのですが、移動するタイプでは無さそうだったので周囲に厳重に人払いの術をかけて今日対処することにした次第ですね」

「パパが『向田君がまたとんでもスコア出してる』って苦笑いしてたよ」

「海岸の方、結構な人出があってそれに引き寄せられたのが相当居ましたし、それに」

「それに?」

 首を傾げた水音さんの仕草にそこまで言わんでも良かったじゃないかと気付いたが、ここで不自然に切るのも変かと言い切ってしまうことにする。

「……小さい子どもなんかも多かったので、万が一は起きてほしくなかったですから」

「ふふふ」

「やっぱ、セージはいい人だね、特に年下相手の時」

 ナイフを仕込んでいる辺りの皮膚がむず痒い感触を味合わせられる。

 普通ですよ、とか言いながら目を逸らし、話題を変えるため今度は昨日ホームセンターで調達してきたビニール袋から中身を出してボリュームを弄っていた虎に渡す。

「ほれ、元気が余ってるならこれよろしく」

「ビーチボール?」

「取り込まれたばかりなら頭部への軽い衝撃が有効だから」

 素直に膨らませにかかっている虎を横目で見ながら。

「各自、何か一個は持っておいてもらって……拙いと思ったら迷わずお願いします」

 ゴムボールやフリスビーを机に並べる。

「おじさまが近付かれるということですか?」

「まあ、年長者の役目だし、お祓いが得意な人が後ろに残るのが定石でしょう」

 水音さんは勿論として女性陣はいずれも神職ということで俺よりもそちらの腕はいい筈。

 ……なお、虎はそのシンプルな心根から一番近付かせられない。

 そのまま今日の流れを確認し合った後。

「一応、全員で通信テストをした後、向かいましょうか」

 ほんの少し何処か嬉しそうにインカムを装着した水音さんがそう言ったのだった。




「そういえば、思ったんだけど」

「うん」

 転移用の部屋へ今日も元気に先頭を行くワンコちゃんが首元に掛けた状態にしたインカムを突きながら振り返る。

「みんなでサバゲー、だっけ? をやりに行っても楽しいかも?」

 さては君もこの装備でちょっとテンション上げている一人だな?

「確かにいいかも?」

「連携を高めるためにはいいかもしれませんね」

「わ、私はすぐに撃たれちゃいそうですけれど」

「大丈夫、お姉さまは私が守りますから!」

 相変わらず栗毛ちゃんはお姉さま大好きだなぁ……と思いながら話題に乗っかかる。

「確かに六番隊の連携は素晴らしいところがあるので隊としての能力を高めるのには試してみるのもいいかもしれませんね」

 特殊部隊顔負けの練度と技術、各種洗礼済みの火器を特徴とする隊の名前を上げる。

 複数の人が怪異により閉じ込められたり等した際に真っ先に投入されるらしく、以前共同戦線を張ったことがあるが生存者から犠牲を出さずに鎮圧出来たのは正直驚いたくらいだった。

「ん? セージよく知ってるの?」

「我が家のテリトリーのお隣で登山客が次々に行方不明になった案件がありまして、本社から六番と、向田家からは自分が同時期に調査に向かって現地でばったりと」

 餌か何かにするのに鳥の魔物の群れが起こしていた件で、追跡して巣穴を特定しつつ素早く突入して魔物を排除しつつバラバラに仕舞われていた被害者たちを確保したんだった。

 その後、管理がなっていないとか何とかでそこを担当していた家を傘下に取り込んだ義弟の手並もエグかったけれど。

 ……そして結果として俺が巡回する範囲が増えた、んだった。

「……」

 まあ、そこで美味しい牡丹鍋を提供してくれる店と出会えたから結果オーライだったけど。

「あれ? オジサン、ご飯のこと考えてるときの顔してる」

「気のせいですよ」

 あの濃厚な旨み……また近辺に行ったときには絶対に寄らねば、と決意しつつ何食わぬ顔を意識して手を横に振る。

 でも、今夜は絶対に猪は無理としてもいい肉を食べよう。

「そうそう、別の隊の話が出たところで、ですが」

「ん? 何かあったっすか?」

「今までは私たちが学生で時間が限られるということもあって譲って頂いていましたが、夏休みの間は転移の順を調整しながらになります」

「あ、そっかそっか」

 確かにその通り、と頷きながらしっかり空室を確認してから部屋に入っていく皆に続く。

「あれ? セージ、それどうしたの?」

「いえ、お気になさらず」

 その際に廊下に準備していたキャリーコンテナを引きつつ入室し、施錠をしたのだった。





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