53.抹茶のラングドシャクッキー
「ふーっ……」
外回りという名の雑魚掃除及び討伐内容の下見を済ませ本部の近くまで戻ったものの少々早いため和風の喫茶店の店内に入りよく効いた冷房に思わず息を漏らす、多少道具でズルをしてで緩和しているが堪える暑さ。
決してふと目に付いた抹茶パフェの幟に吸い込まれたわけではない……はず。
ただ、そこまでアピールされて食べないのもむしろ失礼かとそれとアイスコーヒーを注文して、テーブルに置かれたおしぼりに手を伸ばす。
あくまで額とこめかみに浮かんだ汗をとんとんと吸わせる、決して広げて顔全体を……とはすまい、最近身近にいる高校生たちからはああ呼ばれてはいるもののまだそこまで行く気はない。
先行して運ばれてきたよく冷えたコーヒーに更に癒されながらメニュー表を眺めれば他にも旬の果物を使ったものもあり、今日のパフェが美味しければ複数回来店しなければかな? とか考えてしまう。
そうこうしているうちに。
「あ……美味いな、これ」
濃厚なものの苦すぎず、そしてほんのりと甘い抹茶もいいが……添えられている餡と最中の皮が更にいい。
初夏の外回りの負荷さえこれを楽しむ要素だったくらいに。
勤め先からも近いしこれはリピート案件だな、と平らげた後余韻を暫く楽しんでから、伝票を持ってレジのところに行けば充実したお土産にできそうな和菓子の数々も。
「これもお願いします」
レジ打ちをしてくれていた恰幅のいいおば……お姉さんにお土産用の品を差し出せば「ご契約先にですか?」と言いながら笑顔で袋に包んでくれた。
まあ、パッと見中堅に差し掛かりつつある随分厳つい社員くらいには見えるのかな、俺。
「征司さん」
「おや」
そうした後、学生たちの時間に合わせた集合時間に合わせて本部へと到着すると、今日は丁度高校生三人の到着に立ち会うことになった。
普段よりやや時間帯が違うな?
「ちょっと、事故渋滞があって」
「そういうことですか」
「急いで着替えてきますから」
「他の皆にも伝えておくので慌てなくて大丈夫ですよ」
こちらは平常ペース、彼女たちには速足くらいで自動ドアを潜りながらそんなことを話しながら。
「オジサン、いくら目の前に現役女子高生いるからって想像しちゃダメだよ」
「しませんが」
「それより、それ今日のおやつ?」
君自由だね!? と内心思いながらも、持っていた紙袋を掲げる。
「ちょっと見かけた店が美味しかったのでお土産に」
「やったー!」
軽くガッツポーズするワンコちゃんが水音さんに話しかける。
「ねえさま、アレ準備してきてよかったね」
「うん」
「……?」
「すぐに、わかりますから」
そんな二人の向こうで栗毛ちゃんが呟く。
「想像するに抹茶系ですか?」
「どうしてわかるんです?」
「袖に少しだけ付いていますよ、緑色が」
「……ありゃ」
言われて確認すれば左手のシャツに一滴分くらいの抹茶色の染みが。
まあ、これからもっと汚れる可能性があるし全部まとめて提携先のクリーニングに出すからいいか……。
「名探偵ですね」
「普通です」
澄まし顔でそう返されているうちに階段前に到着して、彼女たちは更衣室のある女性用の設備が集中したフロアへ……こちらはもう会議室に行ってしまおうか。
「では、征司さん、また後で」
「はい、後ほど」
衣装の包みを抱えて軽く会釈し進んでいく後姿を見送りながら。
最近、名前を呼ばれる機会が増えたな、とふと思う……諸々顔を合わせることが増えたから当たり前なのだけれど。
「さて、折角なのでどうぞ」
「わーい」
「やった」
上手い具合に一ダース入りだった抹茶のラングドシャクッキー配れば。
「こちらもちょうどいいですよ」
「はい、どうぞ」
水音さんが淹れてくれたお茶をお盆に載せて栗毛ちゃんが配ってくれる。
事務室から借りてきた急須からは元々使われているそれなりのランクの茶葉より明らかにいい香りのものが漂ってくる。
「んー、千弦ちゃんがその格好で配ってくれるんだと振る舞い酒期待しちゃうけど」
まあレオさんの言いたいこともわかるかな、皆神社の境内が似合う装束だし……とかのほほんと思っていれば。
「それはおじさまにご馳走してもらって下さい」
「うん、そうする!」
「あのですねぇ……」
見事に流れ矢とヨロシク! と言いたげなウィンクをを貰うことになって苦笑いするしかない。
「昼休みバスケで盛り上がったし、体育もマラソンだったしで喉乾いて腹減ってたんでありがたいっす!」
「……少しは味わってください」
「同じこと思った」
腕白な感想を言いつつ手を合わせている虎にも丁寧にくぎを刺す栗毛ちゃんに今度はこちらも賛同する……喜んでいるのは良いんだが、ガツガツ食べるようなお菓子じゃないしがぶ飲みするようなお茶でもないから少しは有難みをもって食べてな?
「しかし、準備いいっすね」
「何となく、今日も征司さんがおやつを買ってきてくださるんじゃないかな、って思いましたので」
「姉さま、スルドイ」
「ははは……」
ま、そういうおじさんポジションも悪くはないか。
「それに、先日美味しそうに……」
「ん?」
最初の頃に比べて皆随分と……と思うけれど特に表情が変わったかな、という子が零しかけたので口を挟む。
「ささ、おやつを食べたら打ち合わせをしますか」
「ちょっとまったりしすぎちゃってるね、これ」
「このタイミングで軽い糖分補給は理に適ってますよ、多分」
「おじさまがおっしゃると謎の説得力がありますね」
「確かにっす」
それに、一つ思っていることがあって付け足す。
「今日はそんなに時間がかからない筈ですよ」
「さて、と……」
ほどほどに緊張感が解ける程度に時間をかけた後、片づけを済ませて転移をする。
距離自体は今までで最長で郊外の森に出る……一応事前に怪しい仕掛けがなされていないかを確認していたが改めて目視と感覚で周囲を探る。
そのついでに見れば皆もそれぞれの方法で警戒をしている様子だった。
まあ、前回の記憶も新しいところなのは違いない、なので過度な緊張は適度に緩めてもらうべくお茶休憩を多めに取った訳だが。
多少気になるのは時間帯の割に薄暗さに拍車をかけている薄い靄だが悪意の方は感じられないので気に留めておく程度にする……そういえば先日お会いしたご長女は清「霞」さんだったか。
「……」
レオさんからの目配せに頷いていると隣から栗毛ちゃんにも話しかけられる。
とある理由で、普段より大きく口を開ける様子がちょっと可笑しいが怒られそうなので顔には出さず、こちらも気持ち大きな声を出すようにして返事をする。
「流石に連続、ということはなさそうですね」
「まあ、そんな気はしていましたが」
「その割に、お姉さまの場所に普段より寄っていませんか?」
「裏をかく、という言葉だってありますからね」
肩を竦めてから普段のポジション取りをしようかと動かしかけた足を、制される。
「いえ、おじさまはそのままで」
「おや」
「このままお姉さまの周辺を警戒していてください……今回の討伐の方は私が行く方が効率的だと思いますので」
右手に軽くスパークを散らせながら進み出ていく栗毛ちゃんとは逆に数歩下がって水音さんとワンコちゃんの方に更に寄る。
「オジサンは今日はお休み?」
「鳴瀬さんが年寄りに気を使ってくれたのかもですね……肉弾戦だと若干手間そうですし」
「あはは」
わざと木刀を杖代わりにし腰の辺りを解すように叩いて見せれば愉快そうな笑いと、笑っていいのだろうかと迷っている顔。
「でも、たしかに今日は」
「ちづちゃんの得意分野ですね」
「ええ」
ちょうどそのタイミングでレオさんが木々の隙間めがけて散弾を一発放てばそれを合図に一斉に飛び立ち鳴き始めた百匹近い鴉の声が響き始める。
事前に耳栓をしていなければ音量もさることながら微妙に帯びている穢れに精神に負荷を与えられ下手をすれば昏倒や同士討ち、と言った危険があったが軽く顔をしかめるだけで撃ち漏らしに対して構える。
ただ、そんな一応の用心も不要と言わんばかりに。
続け様に放たれた五本の矢を起点に空に走った稲妻がほぼ全てを空中から叩き落し地面で無様に痙攣させる。
そのまま崩れ消え去るものが殆どで辛うじて耐えたものも地面すれすれを薙いでいく大太刀が切り散らす……幸運にも感電から漏れた片手にも満たない数も銃声が的確に撃ち落としていった。




