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3.タレ?塩?①

「ふぅ……」

 耳の奥に金属を突っ込まれるような断末魔を聞きながら、足元に崩れる怪異が完全に動かなくなるのを確認し、構えを解く。

 その姿と、炎を叩きこんだことによって発する匂いから……ついこんな言葉が無意識に口から転がり出ていた。

「今夜は……焼き鳥で一杯引っ掛けるがいいなぁ」

 言ってから、後悔したもののもう遅く。

「だからおっちゃんはさぁ……」

「相変わらず無神経」

「絶対これ毒あると思うよ」

「そろそろ学習しなよー」

「あ、あはは……」

 うん、完璧に自業自得だが今後ろを振り返るのがちょっと怖い。




「しっかし、こんなのよく野生にいたっすね」

 刃渡りだけで一メートルは有りそうな刀を収めながら呟いている声に思わず反応する。

「最初は暗がりか何かに怪しい鳥が居たとか鳴き声がしたとか、そんなものだと思うよ」

「へ?」

「そこから噂がイメージしやすいものやこの場の穢れと結びついて段々実態を得た感じじゃないか? こういうのよくゲームとかファンタジー小説に出るだろ?」

 銃弾と炎と電撃を浴びせられ最後は脳天を叩き割られ転がっているコカトリスと思しき姿を指で差せば。

「あー、確かにな」

 このチームで唯一彼になる彼はなるほどと言った感じに頷いた。

「おっちゃん、物知りじゃん」

「いや、一応基礎知識で触りはレクチャーされてるはずだけど」

「そうだっけ?」

 金色のメッシュを入れた髪と牙型のピアスを傾けながら首を捻る彼は……まあ、見た目の通りそういうのは頭に溜めておかないタイプらしい。

「では祓ってしまいますね」

「ああ、お願いします」

「ヨロシクッ」

「はい」

 そんなタイミングで準備を整えたのか巫女装束に扇を携えた隊長さんが進み出て、頷いて深呼吸を一つした後神楽を舞い始める。

 たちまちのうちに転がっていたコカトリスの死骸は塵になって消え失せ、廃工場の淀んでいた空気が澄み始め、むしろ大都会の中で故郷の山と海を思い出すくらい清らかなものになっていく。

 一応俺も単独で任務をこなしていた時期に火で場を祓う術は持っていたけれど、これを見てしまうと自分のそれは精々消毒液を散布していたレベルで彼女の御清めとは比べ物にならないと知らされる。

 そして何より。

「綺麗なものだな……」

 普段の小柄な身体を更に縮めている様子とはまるで違う神々しく凛とした舞にそんな感想が漏れる。

 いやまあ、普段俺に接してくれる時はこちらが怯えさせている分が大きいのはわかっているけれど。

「さっきまで焼き鳥食べながら酒のみてー、って言ってたおっちゃんの言葉とは思えねー」

「心を洗われたんじゃないかな?」

 確かにあの呟きは欲塗れにも程があったと反省しつつもそう言い返した所。

「あら、でしたらおじさまは消えて無くなってしまうのでは?」

「幾らなんでも食欲だけで構成されてないですよ、俺」

 突然の横槍に斜め後ろを振り返れば何時の間にか身長程はある和弓を上品な花柄の弓袋に仕舞って肩に掛けた柔らかな佇まいで栗毛のボブカットの少女が立っていた。

「まあ、お姉さまの神楽はそれだけ素晴らしく清らかなものなのですが」

「はい」

 そこは問答無用で同意する。

「決して邪な目で見ないでくださいね」

「消し飛びたくはないので心します」

「それは幸いです」

 笑ってない笑顔、とはこのことだろうか。

 どちらにしても浄化されて塵になるのも彼女が操る雷で消し炭にされるのも遠慮したいところだった……まだまだ様々な食事を楽しみながら生きていきたいので。

 っていうか、冗談でも味方に向けるモノじゃないよね、あのやんわりとした殺気も矢を模した雷撃の威力も。

 これも最近の若い子の流儀……なワケないよなぁ。

「お、終わりました」

 そんな風にこっそりと背中に冷や汗をかいているうちに一差し舞い終えたのか普段の雰囲気に戻って少し息を乱しながらの声が掛けられる。

 無論、俺宛ではなく全員に向けて。

「ねえさま、お疲れ」

「大丈夫ですか!? どこか具合の悪いところでも」

 その途端に、彼女のことを姉と慕う二人が駆けだしていく……進路上に居た俺はさっと避けるしかできない。

 体格差はあるけれど勢いで跳ね飛ばされるのではないかというくらいだった。

「杏にちづちゃんもおおげさ……」

 でも、二人にくっつかれて困った様に出すその声は思い切り息が上がっている。

 見た目通りというか、見た目以上に体力が無いのかな? といった印象を受ける。

「ま、仲良きことは美しきかな」

「……そういう範疇っすか? あれ」

 同じく進路から飛び退いていた金メッシュ頭に肩を竦めながら返事をする。

「愛情もその表現も人それぞれさ」

 そしてそれに外野は深く介入しない。

 それが大人と言うものだと思う、多分。




「では、これにて終了ですね」

 その後戻った本部にて。

 報告を終え解散が宣言される……良かった、今日は終了まで大人しかったぞ、俺の腹。

「お疲れさまでした」

「失礼します」

「じゃーねー」

「お疲れっす」

 まだ高校生な女子三人が早々に退出し、それに同じく高校生らしい金メッシュ頭も続く。

 すると六引く四、で俺ともう一人、他の四人より若干年上の女の子が残される。

「ねえ、おじさん」

「はい?」

 何か無難な一言をかけて先に出るべきか、それとも彼女ももう行くかな? と考えていた所にスッとこちらに近寄りながら話し掛けられるという想定外の事態に驚く。

 けれど彼女はそんなこちらの内心に等お構いなしに。

「ちょっと、大事な質問があるんだけど」

「と、言うと?」

 臨戦態勢時ほどでは無いもののその八割くらいの鋭さの青い瞳に見つめられる。

「焼き鳥って、塩? それともタレ?」

「ほう……」

 内容も想定外、けれど考える前に口が動く。

「確かに、それは大事ですね」

「でっしょー?」

 頷きながらも続きを促す目線に考えを巡らせる。

「どちらも好きなのだけど、部位とかどんな酒と合わせるかによって変わると言ったら正しいでしょうか?」

「ほうほう」

「ただ、一番大切なのは」

「なのは?」

「鳥を焼く火力」

 ぬっるい火で焼いたやる気の感じられない焼き鳥など、認めない。

 少なくとも、酒の肴にするのなら。

「おー、おじさん話判る人だね」

「そりゃ、どうも」

 破顔一笑、のお手本のような笑顔を見せてもらいながら拍手をされれば悪い気はしない。

 軽く照れくさくて頭を掻きながら、さて今日は自前で焼くかそれとも炭火を売りにしているところでもいいな、と考え始めたところ。

「じゃあ、さ」

「はい」

「飲みに行こっか、一緒に」

「はい……!?」

 驚愕に思わず顎が外れそうになる……外れたら今日の焼き鳥がおじゃんになるので踏み止まるけれど。




 姉さん、唐突に年下同僚女子との酒の席が降って湧きました。

 これは選択肢を外すと人生が詰む奴でしょうか?


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