23.二と八①
「それでは、打ち合わせを始めましょうか」
先程のエントランスでの一件から二〇分ほど経ってから、いつもの流れで第三会議室に面々が集まり作戦会議が始まろうとしてた。
最初の口火を切った隊長さんの表情は普段とさほど変わらないのでこっそり胸を撫で下ろす……そうしてから気にならないわけはないのだろうから慣れてしまっているのだろうか、と陰鬱な気持ちを抱いた。
そんな時。
「たのもー」
「「「?」」」
ノックの音の直後、ドアが開けられ先日ぶりの二番隊隊長さんが明るく顔を出す。
「お邪魔するよ?」
「え、ええ……どうぞ」
屈託なく笑って入室してくる姉に対して若干遠慮しながら譲る妹。
昔、姉と慕う人がいた身としては実の姉妹なのに多少壁を感じてしまう。
「あ、お兄さん」
「?」
そんな時、そんな呼び方で笑顔を向けられて思わず自分を指差す。
「だって、ボクとはそこまで離れてないってオジサマ呼び禁止したじゃないか」
「い、いや……そうですが」
だからって、そう来るか!?
そんなこちらの心の内なぞ構わず、さらに笑顔を濃くして続けてくる。
「あ、お兄ちゃん、が良かった?」
「冗談でも止めてください」
「それはそうと、この前は美味しいパスタを、ご馳走様」
「いえ、あのくらいは」
全然構いませんが、と手を横に振った直後、背中に冷たいものを感じる。
「ふーん、オジサン流歌ちゃんともご飯に行ったんだ」
「流石っすね、おっちゃん」
「しかもセージの奢りだったんだ」
「……不潔ですね」
非難轟轟?
「……」
それに唯一ノーコメントの隊長さんまで何やら悲しげな眼でこちらを見てるし。
「え、えっと……偶々昼休みに会っておすすめの店を教えてもらっただけ……なんですが」
「おや? 他にもいろいろお話させてもらったじゃないか」
「油注ぐのは止めていただけませんか?」
「おっとっと」
弄んでますよね? と断言できる笑みを浮かべている人に一先ず黙ってもらってから。
どうフォローしたらよいかを考える……姉さん、これ俺は悪くないけど何とかしたほうがいいやつだよね?
「その……良かったらまた皆で外で美味しいものでも食べながら、ってやりましょうか」
「餡スイーツあるとこね!」
「はい」
「それとは別に飲みにも行くからね!」
「はい」
「えーっと、俺はラーメンでいいっすよ!」
「まあ釈然としないが、わかった」
「……」
「あれ? 千弦はいいの?」
「大人の節度がある行動して頂ければそれで」
「……気を付けます」
一頻り終わってから、ずっと黙って見ている子の方に目線をやる。
「……ええと、何か、食べたいものがあれば」
そう言った瞬間、栗毛ちゃんから「大人の節度」と言いたげな視線が突き刺さってくるが……ここは引けない。
「みんなで、この前みたいに楽しければそれでいいです」
「……了解です」
いい子はいい子、なんだろうけれど。
何だろう……ならば無性にこの子の好物を探り当てたい気にもなってきたし、何なら多少我儘も言われたい気持ちになってきた、ぞ?
「……」
しかし、それはそれとして。
俺、もうそんなに嫌われたりはしていないの……かな?
「話の腰を折ってごめんね」
「……複雑骨折でしたね」
「あはは、だから悪かったって」
初見は近付き難いかもしれないくらいの男装の麗人タイプだけれど、案外気さくでお茶目なところもあるな? この人。
「それで、今日は少し提案があって来たんだけど」
「「「?」」」
「今日そちらの隊の予定に入っているD+はさっきこっちの任務帰りにサクッと片づけてきたので」
まあ、歴戦の隊ならそれこそ鎧袖一触だろうけれど、また何で?
「ちょっとこれから、訓練代わりの模擬戦と行かないかい?」
「とうちゃーく」
「階段下りただけだけどな」
「トラ、うるさい」
本社ビル二階の武道館的な内装の修練室にタイガーとツインテちゃんを先頭に到着する。
任務が無くなって予定が浮いたのは勿論だけれど、先達の隊の先輩方との訓練はむしろこちらにとって得難いものなのは間違いなく、もう二つ返事どころかこちらから要望する形で変更となっていた。
首都圏鎮守のためにほぼ不動の一番隊に対し積極的に外を回る武闘派と聞いているがどんな面々だろうか。
「ところで、二番隊の方々は……?」
どう見てもまだ無人の道場内を見ながらレオさんがそう呟いた横を。
「今、呼ぶから」
楽しそうに笑ってから、真剣な顔で一礼して道場に入った後、真ん中で手を叩く。
「おいで、ボクのGuys」
すると型を確認するための大鏡の前が陽炎のように揺らめいて……四人の男性が姿を現す。
「おう、待ってたぜ!」
「今日は一味違った修練を堪能できそうですなぁ!!」
「……」
「良き巡り合いに感謝を、だね」
筋骨隆々と逞しい、俺と背の変わらなそうな四人の屈強な山伏や修験者といった格好の漢たちが。
女性としては平均より小柄よりな彼等の隊長をセンターにずらりと並んで。
「えぇ……」
「……ぁ」
栗毛ちゃんが引いて、隊長さんも圧に若干足が後退ってる……うん、俺も大概だと思うけれど俺が豚骨背油だとしたら彼らは完全に横浜家系の全部乗せマシマシ、お嬢様には刺激が強すぎる。
本当に大丈夫かな、この模擬戦。




