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19.道明寺といちご大福②

「確かにこれは少々厄介ですね」

 眉を顰めながら矢を放っている栗毛ちゃんの言葉に首肯する。

 視界の向こうにはボロボロの衣を纏ったしゃれこうべのようなものが浮かんでおり、そして。

「あー、もう!」

「またかよ」

 前衛コンビの若干苛立ちのある声が漏れる。

 奴がカタカタと顎を動かし音を発する度、地面から薄っすらとした濁りの塊が湧きだしてくる……それらの下級霊自体は塵芥のレベルではあるのだけれど如何せん。

「数、多過ぎっす!」

 虎が大太刀を三度払って五体は消滅させるけれど、その間にさらに追加され数はむしろ増える。

「本体叩けば!」

「!」

 人間離れした跳躍を見せて高みから眉間を狙うレオさんにタイミングを合わせ栗毛ちゃんも矢を放つ、も。

「くっ」

「あ!」

 その二本の射線上に一気に死霊共が密集し身を挺して本体を叩くのを妨害してくる。

 ……いや、身と言っても実体は朧気にしかないのだけれど。

「おっと」

「あ、ありがと」

「いえいえ」

 逆に、その大きな動作の隙にレオさんの着地地点付近に殺到する別の死霊を三匹ばかり炎を纏わせた木刀で叩き伏せる。

 直に燃やしている訳ではないので刀身は問題ない。

「どうりゃ!」

 そしてそれでも二人の攻撃で有象無象の数の減った間隙をついて間合いを詰めたタイガーが一太刀浴びせるも。

「げっ」

 使役している死霊の他に何やら障壁のようなものを展開して阻んでくる。

「虎ちゃん!」

 硬質な音に愛刀の刀身を思わず確認したため足が止まりその隙に死霊に群がられる、がヴェールに守られ事なきを得る。

 そのまま大太刀が閃き周囲を一気に切り払う。

「助かったっす」

「しっかりしてよー」

 群れを持ちつつ大将の個もそれなりの手強さ、というところか。

 まあ一言で言えば膠着状態、という奴だけれど最初に比べてこなれ始めたこちらも連携の取り方は悪くない。

 ただ、あまり時間をかけるのは好ましくないか……消耗的にも学生の就業時間的にも。

「皆」

「セージ?」

「おっちゃん?」

「今度は俺に仕掛けさせてほしい」

 木刀で差して意思表示すれば栗毛ちゃんが威力を抑え数重視で雷の矢を放ち前衛コンビも左右に分かれて自分の周囲を潰してくれる。

 しゃれこうべの空洞の眼差しがその三人を順に見てこちらへの注意が下がった、そう判断した瞬間にそれなりの大きさの火球を放つ……けれど相手も余裕を持って障壁でガードする。

「ダメか!」

 タイガーの舌打ちと共に無駄撃ちでは? と栗毛ちゃんの疑問の目がこちらを向くけれど。

 けれど目的は達成している……先程までの観察と、直前直接ぶつかった相互の魔力で傾向は把握し最低限必要な情報は得た。

「レオさん、鳴瀬さん」

「うん?」

「はい?」

「ちょっとの間、攪乱お願いします」

「はいよ」

「了解しました」

 またしても乱射気味に派手に動いてくれる合間に虎に駆け寄り耳打ちする。

「死霊と壁、どっちも俺がどうにかするって言ったら」

「突っ込んでタマ取ってくればいいっすね?」

 ニッと笑って親指を立てる。

「まだ何か隠し持っている可能性もあるが」

「タイマン上等」

「頼んだ」

 背中を叩いて一旦虎と分かれ、そしてラストはこの隊で組むようになってから初めて最後尾の二人の所まで下がる。

 ……栗毛ちゃんが形の良い眉を顰めているのがちょっと気になるけど。

「えーっと」

「「?」」

 どっちも、だったな。

「餡子が好きな方の瀬織さん」

「どしたの? オジサン」

「ちょっとの間集中したいので、こちらのガードの中に入れてもらっても?」

「いいよ、美味しいお菓子二つも御馳走になっちゃったし」

 確かに二つ返事だけれど、トータルだと三個分以上食べてなかったっけ? と細かいことが気になりつつも。

「あと、杏でもいいよ?」

 指で丸を作ってくれた仕草にどうも、と返しながらどうにも「ワン」と聞こえてしまったな……とかに考えが行く。

 杏というか、ワンコというか、餡子というか……。

 まあ、いったんそれは後にして木刀を地面に寝かせ眼鏡を外して弦の先を口に銜える、前回の雪の精と違い相手の力に直接触れた訳ではないので視界をクリアにし更に精度を上げる。

 まず軽い集中から雑魚狩りをするとき結界をリング状に展開し地面から湧き出る死霊共を一気に叩く……質は全部同じに見えていたがそれでもその中で生きの良い奴が数体耐えた、もののそのくらいはレオさんと栗毛ちゃんが……。

「!」

 そう算段した瞬間、後ろから扇の先に着いた鈴が鳴らされて……残りの不浄が一掃される。

 力は小さくとも効き目は素晴らしく場が交戦開始から一番開ける。

「今だ!」

「うっす!」

 こちらの意図を察してくれたのか連射で送り込まれた雷の矢の後ろをそれこそ猛虎の勢いで突っ込み雷光に映える刀身、それを阻むように現れようとする障壁に先程魔力をぶつけて得た感触から割り出し調整した最適な火を放つ。

 白刃より一瞬先に着弾したそれが顕現前に障壁になる魔力を焼き切って……。

「これで、終わりっす!」

 大上段からの必殺の間合い、このタイミングならば抵抗も間に合わずまず決まったとみて問題なかろう。

 袈裟懸けに振り下ろされた太刀がしゃれこうべを見事に両断……って。

「あれっ!?」

「!」

 奴が案外機敏に後退してちょっと浅い!? 眼窩付近を掠めたのみか?

「はい、チェックメイト」

 何かカウンターを貰えば危ないか、と少し冷や汗をかいたものの。

 後ろに回り込んでいたレオさんが後頭部に突き付けた銃身からゼロ距離で一発打ち込み……断末魔代わりに二度ほど歯欠けた顎を打ち鳴らしたものの、それを最後に異常な成長を見せたCクラスは砂のように崩れ霧散した。





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