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129.いざ勝負

「ところで」

「ああ」

「皆さんお揃いのようですが、一体何を?」

 幻術で昏倒させられた酒癖の悪い男三人を道端に避けてから尋ねる。

 四番隊がフルメンバーでこんな路地裏に何の用だろう。やや治安のよくない感じの飲み屋街だから変なのでも涌いたか?

「ふむ」

 冠野隊長がコートをきっちり着込んだ腰に右手を当て片目を瞑る。

「それは、だね」




「では、良き夜に祝福を」

 厳かに呟き盃を掲げる……といえば聞こえは良いが。

 何のことは無い、ジンギスカンの店で生中のジョッキで乾杯の音頭を取っているだけだ。

 一部の隙も無いコート姿の女性がそうしていると妙な味がある……というか、脱がないんだ、上着。

「流歌の奴がこんなものまで送りつけてくるからなぁ」

「おや」

 業務用タブレットに二番隊の北海道出張の成果の写真が表示される……で、評判の良いジンギスカンの店を取れば見事に被った、という訳。

 こちらのと四番隊の皆さんが座る予約のテーブル席は上手い具合に丁度隣。

「それに、そろそろまたレオと飲みたいと思っていたところだから渡りに船という奴だったな」

「うふっ、ありがとうございますマリー隊長」

 良い音をさせて冠野隊長とレオさんがジョッキを合わせる。中身はビールと赤ワイン。

「八番隊が出来る前、見習いの間はこちらでお世話になっていたから」

 さらに一口飲んで……ほぼジョッキを空にしたレオさんが説明するように笑う。

 高校生組と違って実務経験があった筈(というか、流石に他にそういう人を一人は付けてと願い出ていた)だったが四番隊で、だったか。

 男子禁制の領域等での任務に対応する女性のみで構成された隊だからまあそれが一番わかりやすいか。

 しかし、女神ならともかく一部の男系の神や精霊、聖獣も男性NGだったりするからさっきの酔っぱらいたちをどうこう言えないの、かもしれない。

「本当ならこんな出来た娘を出したくは無かったんだけどね?」

「またまたー」

「だからって今更返せと言われても困りますよ?」

 ジョッキを傾けながら応じれば。

「あら、あたしってばモテモテ?」

 いやん、なんて身体をくねらせながらもさり気無くしれっと空になったジョッキを店員さんに渡してお代わりを受け取っている。

 ……まあ、それでこそ、という気もするが。

 他の四番隊のお姉さま方からも似たような勧誘の声が飛んできて、それに対してレオさんがお代わりのジョッキをぶつけに行って笑っている。

「ふむ、ならば」

「?」

「レオの身柄を掛けて決闘、と行こうか」

「はい?」

 笑いながら指で作った銃を突き付けられる。

 血糖……じゃないよな。

「つまり?」

「おや、察しの悪い」

 残り三分の一くらいになったジョッキを当てられる。

「つまり、どっちが多く積めるか、ということで」

「……空になれば店員さんに回収されると思いますがね」

「細かいことを気にする男だね」

 ぐい、と残りのビールを干してから。

「こちらと八番隊で飲んだグラスの数で白黒をつける」

「一応確認ですがこちらの頭数にレオさんは入るので?」

「掛けの対象はカウントしないよね? 普通」

「いや、ちょっと待った」

 手を広げて話を遮る。

「どうした? 何か不服か?」

「こっち、あと一人になる上に未成年ですが」

「なら特別に芹菜ちゃんにも加わって貰って」

「あのですね!」

 その面白そうな顔、絶対立花さんがいいとこ二杯くらいしか飲めないの知ってて言っているな!?

「そっちは、流石に四番隊フルメンバーで六対一とか流石に無茶でしょ?」

 流石に不服を申し立てたところで。

「いいえ、向田さん」

「はい?」

「わたくし達のことは四番隊ではなく珠組と呼んでくださいませ?」

 人差し指を揺らす、こちらはちょっとドレスチックな服装の副長さんに窘められる。

「いえ、そういうことを言いたいのではなくてですね……」

「あら、大事なことですわ」

 オーケーですか? と他の四番隊の皆さんにも視線で念押しされる。

 あ、これは逆らったらこじれる奴だ。

「……珠組、の皆さんに対して一人ではさすがに多勢に無勢です、はい」

「なんだ? レオのことが惜しくはないのか?」

「ルールがおかしい上に何故そんなことになると言っています」

「それは、だな」

 コトン、とジョッキをテーブルに置いて一瞬上を見たかと思うとフリーになった手で綺麗に分けられている濃い茶色の髪をそっと掻き上げる。

「人生には刺激が必要だからさ?」

 きっちり照明の下にさり気無く移動し顔を決めている……で、四番隊のお姉さま方からは黄色い悲鳴が上がっている。

 ……女子のテンションの高い集まりってこんなものだんだろうか、良くは知らないけれど。

 ついでに周囲の卓の目線も盗んでいるようだが女性比率がかなり高い気がする、いわゆる映える系の美人だしな、言動は少々物騒だが。

「刺激でしたらこのレモンとか梅増し増しサワーとかどうです?」

 ドリンクメニューの端の方に書いてある品を指で指す、青汁とかきな粉系付近に書かれているということはもうパーティ用途だろう。

「違う、ヒリつく勝負事だよ、重要なのは」

「あとは賭け事もお好きでしたよね、マリー隊長は」

「そういえば以前、コイツに全ベッドしていたとか」

「っすね」

 俺と虎が道場で模擬戦しているときに掛けの対象にされてたっけか……傍から見てる立場なら確かにそうしたろうから特にそのこと自体には文句はないけど。

 ジョッキでコーラを飲んでいる隣の金メッシュ頭を示せば「ああ」と重々しく頷く。

「アレは全取りして流歌や鏡淵の悔しがる顔を見たかったんだが、惜しかった」

「どうして弊社の隊長の面々は癖の強い人しかいないんですか」

 今回で五番以外の隊長とは公式の場以外で話をしたことになるが……何というか、うん。

 一はアレだし六は六で……。

「あら、向田さんたら」

「大事な子を一人忘れてない?」

「今の、隊長にチクるっすよ」

「……あ」

 不覚にも今までの人生で知り合った中で一番素直な子の存在を抜かしていた。

 いや、何というか同列で扱いたく無かったというか……とか内心で理由をはじき出したがこれは下手に言い訳すると深みに嵌まるやつだ。

「……今のナシで」

 口にチャックするジェスチャーしながらレオさんと虎、立花さんに懇願する。

「えー」

「どうしよっかなー」

「そこをなんとか」

 面白がっているだけでそのつもりはなさそうで……まあつまりふざけているところだが隣のテーブルからまた声が飛んでくる。

「ならば」

「?」

「こちらは黙ってやる代わりに勝負を受けてもらおうかな」

 赤に切り替えてグラスを指で遊んでいる姿。

 薄いグレー主体の御召し物でそれはちょっと勇気がいる気もするが危なげは全くない。

「わかりました、ただし」

「ん?」

 そんな彼女に、横目でこちらに近づいている従業員の姿を確認しつつ逆提案する。

「もう一種目、追加させて貰いますよ?」




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