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115.三対一

「……で、本当に三対一で?」

「そう言ったでしょ?」

 ほんのりと最後の抵抗を試みるも笑顔で却下される。

「大丈夫、こっちも多少の怪我とかは覚悟のうえで言っているから、セージも全力で……って」

「ん?」

「まあ、そう言っても多分七、八割くらいしか出さないんだろうな、このオジサンは、って気がしたトコ」

「ははは……」

 わかってらっしゃる、と苦笑いしながらも、一つ確認したいことがあって手を胸の前で挙げて尋ねる。

「ちなみに拒否権は?」

「ないよ」

「ナシっす」

「ありませんね」




「さすがに」

 鍔迫り合いになったところに斜め後ろから撃ち込まれたゴム製の弾丸を味気ないアクリルボードのような障壁を張って受ける。

 けれど一発で亀裂を入れられたそれは二発目には撃ち抜かれてしまい、三発目は身を捩って躱すしかできない……当然体勢は崩れてしまい均衡は崩れて竹刀を跳ね上げ、飛ばされる。

 そこに飛来したこちらも先端がゴムの矢を最後の一本の竹刀で弾くも、返す刀で降ってきた一撃を受けたところにもう一発ゴム弾を撃ち込まれて眼鏡を弾き飛ばされた。

「ヘヴィーじゃないですか? これ」

 普通、こういうのって二対二じゃない? って抗議をするものの。

「ですがそもそもの発端が」

「火が通らない筈の相手にセージは何したのかな? からだもの」

「ピンチになるまで追い込ませて貰うっすよ」

 軽く汗をかいた程度でまだまだ元気な虎が再度突っ込んでくる。

 一方こっちは多少息が上がり始めているし重いのを貰っていて若干握力も辛くなってきた……流石に一杯一杯だな、これは。

 レオさんはレオさんで斜め後ろに、つまりは虎と同士討ちにはならないポジションを確保して銃を構えているし、栗毛ちゃんも抜かりなく曲射を交えて狙ってくるだろう。

 まあさっきもチラ見せしたし、多少は情報を共有するのもいいか、と軽く腹を括って。

「……?」

 徐に竹刀から左手を離して軽く掲げる。

「降参なワケ……」

 レオさんの呟きを聞きながら、まあこんな意味不明なことをすれば当然そこに目が行くよな、と思いながらスーツの袖のボタンを送り込んだ魔力で発火させる。

 少々サイズが大きめなそれは防火塗料でコーティングはしてあるが中身はアルミニウムで覆ったマグネシウムと極少量の炸薬で……つまりは簡易的なスタングレネード。

 点火機構が要らないのでこの寸法に圧縮できている。

「っ!」

「んなっ!?」

 三人が顔を伏せ出来た隙に二人に挟まれたポジションを脱し、そうしながら考える……真っ先に脱落させたいのは?

 まずは目の前にいるさっきから元気一杯暴れまくってるこの天然じゃない方の金髪か、とさっきのお返しとばかりに握っている竹刀の柄を下から切り上げ得物を跳ね飛ばし、そのまま返す刀で脳天に一発振り下ろすが。

「まだまだっす」

「お?」

 左腕で受け止めたこちらの一撃を全身のバネで逆に跳ね上げこちらの竹刀を右手で奪おうと手を伸ばしてくる。

 そこに視界の隅と気配、音で他の二人が立ち直りそれぞれに弓と銃を構え直すのを察して。

「え?」

 栗毛ちゃんの方には番えた矢に込められていた魔力に干渉し発火させ妨害しつつ、虎には敢えて柄を掴ませながら伸びきっていた足を思い切り払い……。

「あだだっ!?」

「ゴメン!」

 そのまま宙に浮いた身体を竹刀ごとレオさん側に放り投げて盾にし、ゴム弾を浴びて地面に落ちたところを悪いけど一発踏む。

「んべっ」

 これで間違いなくアウト判定で良いだろう。

 そのまま威力は込めずに放った牽制用の火球をレオさんがステップで避けようとしたのを見て、狙い通りと踵を返し懐のナイフに再度手を伸ばしながら一気に栗毛ちゃんの方に向かいダッシュする。

 背中側に薄いながらも一枚防壁を張るのは忘れずに。

「!」

 次の矢を構えようとするものの、さっき引火させられたことに迷ったのかいつもほどの装填の速さがないうちに一気に間合いを詰め、牽制するように放とうとした電撃もまた焼き払って無効化し。

「はいどうぞ」

「千弦ちゃん!」

「……」

 ナイフから持ち替えた棒状の携行燃料を悔しそうな表情に手渡す。

 あのまま刃物の方を付き出せば、ですよね? と言わんばかりに。

 そして今度は冷却材をナイフ代わりに内ポケットから出して。

「防いで下さいよ」

「!」

 障壁を砕いた後、俊足を飛ばして一気に突っ込んで来ていたレオさん目掛け放る。

 それに対する反応は、こちらがガードを無効化するのを知っているし俊敏さをウリにしている彼女のこと。

 恐らく考える前にだろう、いつものように空気を操り足場を作って跳躍で……。

「えっ?」

 その足場を作ろうとした魔力を先回りで焼いて爪先を空振りさせ体勢を崩させる。

 それでも何とかスライディングしながら冷却材のパッケージは躱してそのままスピードを殺しながら立て直そうとした先に回り込んで仁王立ちし。

「あ」

「確保」

 ソフトながらもぶつかって何とか停止したところに屈みながら軽く両肩に手を置かせてもらう。

 こちらは素手だけれどパワーの違いから捕まえればさえ詰み、だろう。

「勝負あり、ですかね」




「セージはさ、強いのはわかったけどあんなの仕込んでるとか意地が悪いよね」

「ついでに前々から思ってたけど足癖も悪いっす」

「一旦追い込まれたフリをするあたり悪質ですね」

「それとさ、追い込んだ後で余裕綽々なトコとかもね」

「あのぅ……」

 レオさんの肩を離した後、虎を引っ張り起こし栗毛ちゃんから渡したものを返された後。

 感想を述べている三人の言葉に異議を申し立てる。

「勝った気が、しないんですが」

 萎れた指先で会話に割って入れば、この辺で勘弁してあげようか、とレオさんが笑う。

「それで、確認だけど……障壁とか風とか雷まで焼いちゃう感じ?」

「それも、遠隔でやれてしまう感じっすね」

「詳細は伏せるけれど……まあ、ちょっとばかり変わり種でそんなことが出来る訳、です」

「やはり要注意人物じゃないですか」

 レオさんと虎の言葉に首を縦に振れば栗毛ちゃんがいつもの調子でそんなことを言ってくる。

 そう、最近の調子で……先程久しぶりに見せていた警戒する感じは言葉とは裏腹に薄くなっていた。

「皆さん、今日はお付き合いくださってありがとうございました」

 この後冷たい飲み物でも準備しますので、とそんなことを言いながら軽く頭を下げた彼女に対して。

「ううん、こっちもセージの隠し事は気になってたし」

「俺も楽しかったからお安い御用っす」

 そんなことを言い合っていると。

 静けさを取り戻した山中にはちょっと似合わない電子音が流れる。

「あら? 失礼します」

 こちらに跳んできた後、手合わせ前に邪魔にならないところに置いていた小さなバッグから栗毛ちゃんがスマートフォンを取り出す。

「ここでも電波入るんすね」

「去年近くの山に基地局が出来た関係で」

 割合素っ気なく虎の感想に応じていた栗毛ちゃんの声の後半が跳ねる。

「お姉さま? どうかなさいましたか?」

 これはもしかして? と思った想像はあっさり裏付けられる。

 というか、彼女にあんな反応をさせる相手は一人しかいないので三人してやっぱりか、と言う風に軽く笑いながら顔を見合わせていると。

「次はどんなお菓子に挑戦するか、ですか? ええと……珈琲に合うようなもので?」

 実に女の子同士らしくていいじゃないか、と内心思っているところにこちらとは逆に少し落ち着いていく栗毛ちゃんのトーン……一瞬だけ、再び睨まれたのは気のせいだろうか。

 そしてその反対側からあれあれ? とでも言いたげに口元を押さえたレオさんの可笑しそうな視線が。

 それにわざとらしくはあるが気付かぬふりをして。

「虎」

「どうかしたっすか?」

「まだ肩に砂付いてるぞ」

「あ、ホントっすね」

 通話の邪魔にならないよう潜めた声で指摘すれば虎が自分の肩の辺りを払う。

 そうして舞った砂埃が山間の風に乗って。

「お姉さま、そんなに一生懸命になることもありませ……「へっきし!!!!」……大河さん、邪魔です!!」

「……ごめんっす」

 マイク部分を抑えつつ睨まれた虎が鼻の当たりを搔きながら小声で謝った後。

 栗毛ちゃんが何かに気付いて慌てて通話の向こうに珍しい口調を披露する。

「お姉さま、違いますから」

 僅かに聞こえた向こうの声と、それに反比例して渋くなる栗毛ちゃんの表情に、あちらも年相応な女の子なところもあるんだな、と妙な関心をする。

 そんな内にも栗毛ちゃんは言葉を続けていて。

「いえ、ですから違います。そんなことは微塵もありません。確かに大河さんも居ますがレオさんにおじさまもいらっしゃっていて……」

 そこまで言ってから、また別ベクトルで「しまった」という顔になる。

 本当、珍しいな。そういうある種の手抜かり。

「いえ、それも違うんです……その、少々特訓をと思いまして」

 歯切れも若干悪く言葉を続ける。

 自分と一緒に住んでいる杏ちゃん以外の全員が知らないうちに集合しているというのはあの寂しがりな所がある子は気にしてしまうだろう。

「あの、ですからそうではなくって……」

 そんな栗毛ちゃんの肩を叩いてレオさんが横から話し掛ける。

「やっほー、水音ちゃん?」

 明るい調子で良い感じに現状を説明しつつ話を進めていくのを流石コミュニケーション上手と感心する。

 そんな風にしていると。

「そんなワケだから、水音ちゃんたちさえ大丈夫なら皆で一緒にお茶しに行こうよ? ほら、明日セージ給料日だしさ」

 おいおい、それを言ったら君たち全員だってバイト代が入る日じゃないか! まあ……皆が楽しそうにするならそのくらい出すのは吝かでもないけれど。

 そんなことを考えていると。

「え? あ、そうなの? ううん、むしろ水音ちゃんとお家の人が大丈夫? そう?」

 水音さんとレオさんの話は別方向に転がり始め……。

「はい、じゃあこの後時間ある人」

 その言葉にこの場の全員が挙手する。

「じゃ、皆で今から向かうから、うん、よろしくー」

 端末を栗毛ちゃんに戻したレオさんが宣言する。

「はい、わかってると思うけど、今から移動しまーす」

 目的地はわからない訳がない、けど……。

 いきなり今から?




 次回の訪問は出来れば心の準備をしてからにしたかったのだけれど? 





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