タヌー討伐1
「父さんが一緒にタヌーを捕まえるためにつれていってくれたことがあったけど森の中にいるタヌーを捕まえるなんて無理だよ。あいつはすごくすばしっこかったし、弓でもなきゃ…。」
「弓ならあるだろ?お前の家に。」
「え」
「はあ…。まさかこんなことをする羽目になるとは。」
家に帰る道すがらそんなことを思う。別に父さんの弓じゃなくてもいいのに。
家のドアを開けると僕の部屋から母さんと…モルツじいさんの姿が見えた。
「僕のベット使ってるの!?」
「しょうがないでしょ。急いでたんだから。それよりモルツの様子をみててくれない?私は薬草で軟膏作らなきゃ」
「もー。父さんは?」
「祈祷師のカインを呼ぶそうよ。…もしかしたら、モルツはもう長くないかもしれない…。」
モルツじいさんを見ると大きく胸を上下させていて苦しそうに見える。
「でも今日はみんなと遊ぶって言っちゃって…。」
「マック!モルツが大変な時なのにわがままいわないの!」
ふと家の扉が開く音がする。
「いいじゃないか。俺がみてるから遊んで来い。」
「父さん!」
「これからしばらくモルツの畑も管理することになる。マックにも手伝ってもらうぞ。」
「うん…。」
父さんは祈祷師のおじさんと一緒に僕の部屋へと入っていった。祈祷師カインはカイマンの祖父に当たる人だ。僕はさりげなく物置小屋に寄った後小走りで家を離れた。家を出た直前父さんたちが難しい顔をしていたのが家の小窓から見えた。
「こんなことして怒られないかな…。」
父さんの弓と矢を数本抱えて考える。大丈夫だ。今日父さんは弓を使わないはず。絶対にばれない。
「おーい!マック―!」
「どうやら無事に矢を手に入れられたみたいだな。それじゃ…出発だ!」
村には狩場というものがなんとなく決められている。僕の家から反対方向、すなわち西の森が父さんたちがよく行くところだ。でも今回は狩りをしている大人に見つかると怒られるので北の森に行くことにする。
「ほんとに大丈夫かなー。」
近づいてきた幼馴染のジャムが言う。
「実は僕も心配だよ…。でもカイマンが大丈夫っていうってことは大丈夫なんだろ。」
僕たちは暗く木々が高い森の中に入っていった。
「くそっ西と違ってこっちは進みづらいな。」
先頭を行くカイマンがぼやく。
「わーリスさんがいるー。」「この植物はなに?」「空気がオイシイ!」
カイマンとは対照的にほかの子供たちは森になんてめったに入ることがないためテンションが高い。かくいう僕も昔を思い出しすこし浮かれていた。
一行はそのまま森の中をすすむ。すると少し開けた場所に出てきた。そこだけ不自然に木々や生き物の気配がなかった。カイマンはそこで何かを見つけたようだった。
「みんなーこっち来てみろ!」
みんなが素早く駆け付ける。その瞬間空気ががらりと変わった気がした。
カイマンは木の根の近くに開いた横穴を指さしいった。
「こりゃ絶対にタヌーの巣穴だ。もしかしたらなかにまだいるかもな。」
穴の中は真っ暗で周囲のわずかな日差しとの差が不気味さを際立てていた。
カイマンが指示をだし仲間に木の枝を集めさせる。カイマンは父さんの弓を構えてじっと穴をにらんでいた。
「俺が合図を出したらトニーは枝を投げ入れろ。ジェイマンは長い枝を使って中をつつくんだ。」
トニーたちが了解の返事をする。
「それじゃあ行くぞ…さん にー いち 今だ!」
一斉に行動を開始する。
「よーしいいぞ。それにしても出てこないな。」
その時棒でつついていたジェイマンの腕に何か影のようなものが走った。
「なんだ!?」
巣穴からどろどろとした黒い粘液が這い出てくる。突然の出来事に全員がパニックになった。
悲鳴が上がる。ジェイマンが粘液につかまれて穴の中に引きずりこまれたのだ。
騒然としている間にトニーやアニーが粘液につかまれる。
その瞬間ようやく逃げるという行動が頭に浮かぶ。三人を助けようという考えは微塵も浮かばなかった。ただただ恐怖に体が支配されていた。体を反対に向け足を一歩踏み出した。しかしその足は二歩目を踏み出せなかった。枝を折るような大きな音が鳴ったからだ。思わず振り返ると黒い粘液はきれいに消えていてその代わり
ボキボキボキボキ
胸に沈み込むような音が鳴り続いている。穴の奥底から聞こえるその音の正体に気づいた瞬間、僕は何も考えられなくなった。
気が付けば僕は無我夢中で森の中を駆けていた