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第6話:流星

ハカセ・・・・金髪美人。白衣。


用語:輝度・・・・光を体に浴びて、もの凄くピカぁっとなった時、体が一瞬白くなる。あれが『どれくらい白くなったか』と言う尺度。


〜これまでのあらすじ

潜入作戦がバレていた

敵側が合言葉を変えてたけど、受付嬢が知らなかった(アイワが予測できなかった理由)

アイワ君が交渉するも、撃たれる

無音銃だと、バレずに始末されるまずい

白衣の女が興味津々だ。利用しよう。

女の能力と、事件の原理を全て明かして、時間稼ぎした。そうすれば・・・・


〜前回の解説補足


『光を浴びさせる』と言うのは、条件定義において『フラグが立った』(一定以上の輝度という条件を超えた)ことを意味します。

ミヤビ、ハカセ、そして傭兵の5人程が注目する中、僕は自分の導いた考えの全てを語った。その解を聞いたそれぞれの心象こそ、まさに十人十色。ミヤビは解への理解に未だ一生懸命、ハカセは題が解かれたことにご満悦?の様子、傭兵たちは・・・あくまで平静に、指示待ちの状態であった。


「・・・・二つほど、聞いていいかしら?」


沈黙の数秒にて、ひとしきりの満足を堪能したのちに、思い出したかのように口を開いた。


「なぜそれが『キセキ』として核心できたのかしらね?たとえば照明を入れ替えてルーメン値をイジったとか、キセキでなくともあり得る話だと思うのだけれど。」


確かに『一定以上の明るさを持つ光を浴びさせる』ということ行為自体は、キセキ無しでも不可能な話でもない。白衣の女が言った通り、裏工作からあらゆる位置にて照明装置をセットすればできる話なのだから。


照明装置が事件後に見つかる恐れもあるが、端から僕に、そんな(・・・)捜査ができるフットワークはない。それに、『条件定義』の意味を知らない公安では、装置機器の意図を理解できるはずもない。代用は可能だ。


もっともそれが出来るのは、個人を対象にするような、小規模テロの場合だが。


「裏工作で目立ちたくないという可能性も考えましたが・・・・一番の理由は、あなたは完璧すぎたことです。」


「・・・私が?」


「事件が終わったあの場所で、僕ら以外の存在が消えていたということは、爆発とほぼ同時に、デパートにいる全員に『光を浴びさせること』ができた・・・・いいですか?全員です。あらゆる照明装置を使ってもあり得ない。お手洗い、壁の隅、職員用の部屋・・・・どうあっても光の届かぬ場所が必ずあった。それを可能にした万能性に・・・僕はキセキの存在を見たのです。」


ゆえに妄言。推理としての規格は持たず。


推理といったものは、不能犯を容疑者として仕立て上げるもの。キセキの存在や実態を導くことは、思考の自由性をフル稼働させることになる。すなわち、極論を言えば、『あらゆる願いを叶える力だ』などと言ってしまえば終わってしまうのだ。それを推理として満足する者は、せいぜい飛ばし読みで済ます読者くらいだろう。


しかし妄言とはいえ、状況からの最低条件・・・・つまり敵側の持つ『最低限の力』を導くことはできる。だからこそ『キセキがあれば、なんとでもなるから諦めろ』と宣って、思考停止に陥ることはなかった。


「それに、あの牢獄にいた遺体のうちの一つは、すでにバラバラ死体のものがあった。爆発に巻き込まれた瞬間に、光を浴びて・・・その空間転移の直後にああ(・・)なったと考えた。爆発の原理はわからないけど・・・爆発と光、この二つをほぼ同時に起こせる器用さは、キセキ以外あり得ないと思った。」


僕らの見た牢屋にあった、たった一つのバラバラ死体。最初僕はそれを、『勝リ者』を生み出す薬を投与された結果によるもの、すなわち失敗作の末路だと勘違いしていた。ただ冷静に数を考えれば、その後の空間・・・・シラマキと遭遇したあの空間にてあった大量の死体が『失敗作』だと考えていいだろう。なんせそれこそ、試行錯誤を十八番とする科学者のやり口なのだから。


そして、光と爆発・・・順番が少しでもズレれば、爆発に巻き込まれた生者は死者となり、生成空間領域の判定に入らなくなる。同時に引き起こせるのは、キセキのなせる技だ。


「納得したわ。それでその次・・・・・何で()なの?」


質問(こればかり)は、ハカセも疑問の相を隠せない様子だった。確かに、彼女が勝リ者であるという絶対的根拠を述べていない。というか、最初からそんなもの(はな)から存在しない。


「・・・ああ、それは勘です。」


「勘?・・・ここで妄言もなく、あとは運頼りってことかしら?」


「ひとつ思ったのは、ここに勝リ者がいるのは確定・・・ってことですかね?」


ここまでで『光を操る勝リ者』の存在を導けた。しかしそれが彼女であると確信できる要素はない。先ほどの追跡者から情報を得られれば、なおよかったが、所詮トカゲの尻尾。得られる情報に、『勝リ者のリスト』などというトップシークレットは存在しなかった。


「僕らを追った追跡者は、ミヤビ(コイツ)のキセキを知っていた。それなら、その『上』のあなた達が知らないはずもない・・・・そして、その脅威を知った上で、あなた達は僕らを待ち受けた。そうくれば、あなた達の中に『ミヤビ(コイツ)に対抗できる勝リ者』を用意しておくのが妥当でしょう?」


これは僕の『心を読む力』に頼った考え方であった。『光を操る勝リ者』を言及さえできれば、その場の誰かが心で反応してくれる。僕のキセキは、『完璧な解析』には十数分かかるも、嘘発見器のような使い方なら数秒にも満たない。もっとも、今回の女の反応は、心を読まずともわかるそれだったので、キセキが役に立ったとは言い難いが。


つまるところ、『この場に勝リ者がいるかどうか』を重視したのだ。


「・・・・・・・・・・・・・・は、はは」


「?」


「ははははははは!!!・・・はは・・・はぁ・・・そうね、ああそうね。あなたの言う通りよ。けどちょっと違うわね・・」


泥酔したかのように、よろよろと立ち上がるハカセ。竜頭蛇尾の声音で、彼女はその事実を認めた。その最後の憔悴は、どこか残念がっているような心象で。


「ああ・・・あーぁ・・・・ねえホントにあなたは仲間にならないの?」


毒牙に肥えた興味は、一心に僕へ突き刺さる。


「それはないです。遺体を返してもらうし、あなたは公安に突き出す。それが川島さんへの報いになるのなら。それに・・・・・あなた達のみたいな、テロ起こすクソ野郎に加担したくはない。」


「・・・クソ野郎・・・・ふふそうね。確かに、私の倫理が外れてるのは違いないわ・・・・でも、貴方は?さっきは『一人の命は地球より重い』だなんていってたけどぉ?」


こちらの決意表明が滑稽だと、嘲笑うかのように、ハカセは笑いながら答えた。


「一人殺しておいて・・・今更、常識人ぶるつもり?」


「・・・・・・・」


そこに解を示すことはできず、僕は黙るばかり。沈黙だったのは僕だけでなく、ミヤビも然り。普段ならどちらかが躍起になって反論するものだが、こればかりは・・・・・。


「まあいいわ・・・・・・・・・あくまで勝つ気なのね?複数人のプロの傭兵(プラス)・・・・勝リ者一人を相手に。」


「・・・・・勝ちの芽は、導けますよ。ここまで稼げた(・・・)のなら。」


そのやるせなさを糧に、その目を強固に閉じる。


強く、ただ強く・・・・自身のが潰れ飛び散る寸前まで、外皮ごと眼球を握る。数秒ののち、炎天下に晒されたようなボヤける瞳で、ハカセの心象を覗いた。











『十数分経つと心象を覗く』ことができる僕のキセキ。しかし、僕が時間稼ぎで得られたのはわずか五分もない。そもそもこれは最初から想定していたことだ。むしろ敵を目の前に五分無傷で立っていられたことに幸運すら感じている。といっても、この短さでは心象も未だバク文字に溢れていただろう。


ゆえに、ハカセが『探究心溢れる性格』していたことは、棚から牡丹餅的事実だった。


キセキの時間を短縮する唯一の方法は、僕への強い興味。正確には『対象が僕に何らかの感情を向ける』ことが、互いにある心の波長のズレを調整していくのだろう。普段は『僕だけが調整を行う』が、今回の場合『対象者と僕が共に調整』を行うイメージだ。(無論、無意識だろうが)


僕が手に入れた情報の一つ・・・『光を操るキセキ』は最低条件でしかない。シラマキと呼ばれた怪物のように、更なる複雑な情報を内包している可能性が・・・・・・・・・・・・・・・・・は?


「なるほど・・・・さっき肩に銃弾を打ち込んでも平気そうだったから、もしかしてとは思ったけど・・・君の方も勝リ者だったのね?」


ハカセの言葉に耳を傾ける余裕がなかった。


僕の描いたこれから(シナリオ)を全てひっくり返す、彼女のキセキの全貌に戦慄することしかできなかった。


「シラマキはアナタを恐れていた。アレは事情が複雑だから、何を以てアナタを恐れたのかは分からないわ・・・けど、確かに恐るるに値するわね。その奇妙な解析能力というのは。」


立ち姿に何ら変化はない。けどこの場にて僕だけが、『それが戦闘体制であること』を理解していた。


「だからこそ、アナタはここまで見抜けてるからこそ・・・・本当に愚かしいわ。なぜ勝ち目があると思っていたの?」


刹那、彼女の心象に描かれる『僕らの死』。咄嗟に回した頭を用い、喉を張った。


「地を穿てミヤビ!!!!」











スローモーションを彩るは、都会に似つかわしくない星々。


それらは地に触れし女を中心に、湧き出る。正確には、ハカセが触れた床と、それに連なる全て(・・・・・・・・)が光球へと変わったのだ。すなわち、コンクリートの団塊、部屋を照らす電灯・・・・そして彼女の背後にいた傭兵の彼ら。それらは何かしらの抵抗もできず、光へと昇華した。


「・・・・っあ゛ああああ!!!」


僕の叫ぶその指示と、その焦燥の意を理解してか、ミヤビは咆哮して、地に意識を向ける。

連なる光の波が僕らに届くその前に、ミヤビは指示に習って、拳を床へ撃ち抜いた。ミヤビの生み出した新たな力の波は、光の波の連鎖を受け止める。衝突したそれらは、波の原理に倣わずにすぐさま消失した。


ただ、ミヤビの穿つ拳は凄まじく、一瞬の風圧に吹き飛ばされそうになった。それに気づいたミヤビは、僕と気絶している受付嬢を、それぞれ片手で掴んだ。


「あっぶねえ今のは・・・・」


「ばっかミヤビ!!次が来る・・・!!!」


「っと・・・!」


ミヤビは踵を返して、外階段から跳び上がった。床が蹴り上げられ、崩壊寸前まで踏ん張っていた部屋も、ついに崩れ落ちた。刹那、後ろで轟音が響いたので、ミヤビの腕をもって滑空する空から、背後を振り向く。先ほど僕らのいた外階段の位置は、高温で融解されたかのように、蒸気纏うとろみ(・・・)を塗していた。


「・・・・・・って、高い!!?」


命拾いギリギリの場面だったので、苦肉の策で飛んだが・・・この高さはまずい。僕らならまだしも、ミヤビの抱えた受付嬢は、着地時の衝撃に耐えられない。着地時にミヤビが彼女を落とさなかったとしてもだ。


「・・・ぐ・・・まかせ、ろよおおお!!」


三身が一体となって、地に衝突する、その前に・・・・宙返りしたかと思えば、空に蹴りを入れた。直後、風圧はアスファルトに直撃した後、反射したそれで、僕らを押し上げた。


「おわっ・・・!?」


とはいえ、重力の支配から完全に抜け出せたわけではない。本来の着地点と少しズレた位置に、転がり落ちた。

肘の擦り切れる痛みを無視して、すぐさま立ち上がり、軽く酔った視界で周りを見つめる。


受付嬢も、ミヤビも、無事なようだ。


「ミヤビお前・・・こんなに強かったのか」


ミヤビのキセキを見たのは、これで2回目。たった二度の比較で読み取れる、遥かに飛躍したパワー。コンクリートを撃ち抜くほどの拳は予測していたが、『空を蹴り上げる』は予測外。しかも、三人分の体を以て、だ。


「おうよ・・・で、どうする?」


「どうするも何もないの・・・・アナタ達のこれからは」


静かな怒りを内包する、澄んだ女性の声がした。声の主の方へ振り返れば、半壊した建物上部にて佇む姿が一人。遠近法もあるだろうが、満月が如き光弾を携え、ハカセは佇んでいた。


「驚いた・・・・拳一つでビルを倒壊できるほどの火力なら、もうステージ3と見ていいわよね?私とシラマキ、魔女の連中を覗いて、到達者がいるとは思わなかったわ。」


「ステージ3?」


彼女は、果たして何を『ステージ』として言及しているのだろうか。残念ながら、この距離で心を読むことはできない。


「・・・・っ!!!」


瞬きする間もなく飛来する光弾幕。思考時間どころか、命の停滞すら許さぬそれらから、逃げるように、全力で地を駆けた。しかしその速度差は歴然。最後尾の流星だけ避けることができなかった。


「・・・く!?・・・・?」


しかしその寸前、一立方メートル程度のコンクリート片が、光弾に衝突し、僕の身を護る。その後、熱を帯びて破裂したそれらが、己の頬を掠った。


顔を上げて側方を見つめる。どうやら、ミヤビがこちらに蹴り上げたモノらしい。


「大丈夫か?」


「・・・助かった」


「あれはなんだ?俺も光飛ばすとは聞いてたがよ・・・触ったもの光に変えるなんて。」


「それだけじゃない」


エネルギー量の予測はできなかったが、何某の光線等を攻撃手段にするかもしれないとは、すでにミヤビに伝えていた。だからこそ、あの危険なキセキを再度熟考し、改めて考えを練らなければならない。


「あれは触ったものに、連鎖したものが光に変わる。」


「つまり地面触って、俺が足ついたら光に変えられてたのかよ・・・凶悪すぎねえか・・・」


『連鎖』の判定は、『触った物体に触れているかどうか』と見ていい。しかし、先程のミヤビが、力の波で封じ込めたように、繋がっている部分を破壊しさえすれば連鎖も止まるのだろう。厄介なのはその後だ。生み出された光を、ハカセは操ることができる。少なくとも直撃すれば、物を融解する程度の威力はあるはず。


先ほどの追跡者が始末された際から、その節はあった。爆破事件の際も、爆弾の起動に合わせて光を放ったのではなく、光そのものが『周囲一帯を破壊する』機能を有していたのだろう。


この凶悪なキセキだからこそ、あの女は、勝機を紡がんとする僕らを、愚弄したのだろう。しかし、ミヤビのキセキにしか、できないこともある。彼女は、未だ上に残っている。ミヤビのように、一瞬でここにはこれる脚力は無いと見ていいはず。押し付けるべきアドバンテージは、まさしくここだ。


・・・・不意に、先ほど受付嬢のいた側方を一瞥する。彼女のいた箇所は、先ほどの光弾のあれらによって、熱を帯びたクレーターができていた。


「・・・・ミヤビ。さっきの受付の人は?」


「ああ。シュバっと避難させといたぜ。表の道路脇じゃあ完璧に安全と言えねえがよ、ここよりゃマシだろう?」


「そうか・・ならっ・・・・!?」


安心に胸を撫で下ろすような気分は、上空の女が許さない。先ほどの倍以上の流星が、こちらの逃げ道を奪い去るように、周囲を破壊していく。空間を覆い尽くす鬼畜弾幕・・・・これは僕の脚力では避けられない。


「っと・・」


「!!・・・・!???」


突如、腰に上向きの力がかかったかと思えば、横向きに重力の走る自分の身。その感触に一歩遅れて、ようやく視覚が追いついたかと思えば、ミヤビが僕を抱きかかえて、地上を駆けていた。


・・・・・お姫様だっこというのはいささか羞恥的だが、贅沢も言ってられない。


「助かった。」


「おうさ。で、このまま逃げるか?あるいは・・・」


「・・・・正直逃げたほうがいい。あの女は、近距離と遠距離・・・どちらも即死級だ。公安に任せれば、僕らは九死に一生を得たでおわる。」


「・・・・・・・」


「ごめん。冗談だ。」


分かっている。あの女(バケモノ)を、警察だけで対処できるはずがない。果たして何人の屍が積み上がれば、彼女を止めることができるのか。


「あの女はここで止める。できる・・・か?」


ミヤビの覚悟を再確認する。今日の昼に問いた『命をかける覚悟』・・・・そこに嘘偽りがないかを改めて、彼の心に問いた。当然そこに迷いがあれば、それを責めるつもりもない。


・・・・あるいは僕自身の『信頼』と『命をかける覚悟』、その両方に自信がなかったからこそ、こんな質問を投げかけたのかもしれない。


「誰に言ってんだ?」


けれどミヤビは、どこまでもミヤビだった。










「おんぶ酔いはねえかよ?」


「なんだよおんぶ酔いって・・・・まあ、少し目は回るけど大丈夫。」


昨日(さくじつ)同様、ミヤビは僕を担いで走る。ただし駆けるのは、地上ではなく空。


ミヤビの本来の持ち味は接近戦だ、しかし彼女に対して近接戦闘を仕掛けるのは、『触れたら死』ゆえに、リスクが高い。下からの投石攻撃が最も適切かと言われれば否。先程のような、逃げ場を奪い去る攻撃を、何度も回避する行為は、現実的ではない。


だからこそ、上から攻撃を待ち受けられる空中こそ最適だろう・・・・・ミヤビの空中歩行が安定するかにもかかっているが、トライ&エラーを試す時間はない。


結果は酷い有り様。安定して垂直に立つこともできず、宙返りを繰り返しながら空中を舞い、何度も空を蹴り上げ、やっとの思いで落下を防いでいる状態・・・・それでも、戦えない状態というわけでもない。


「そう来たのね。少年たちよ。」


月下にてこちらを見上げる白衣の女。その心は相変わらず、忙しない好奇心が駆け巡っている。当然、それは僕らにとって有難いものではなく、『どうやったら僕らを殺せるか』等という物騒な心象だが。


「こちらに就く気もないのなら、まあ・・・・余興も終わり。ちゃーんと、仕事は果たさなきゃね・・・・・・さ、もう慄いたっていいのよ?」


丈の過ぎる白衣の両裾から、それぞれ刃を取り出すハカセ。金属の擦れる音を立てて取り出されるそれは、持ち手が現れても排出をやめず・・・がらりと音を立てて落ち、刃につながるそれらは鎖だった。


「鎖鎌・・?鎖剣?」


「前者かしら・・・あなた達相手にはちょうどいい得物。」


「なら、これ、だぁ!!!」


建物上部の危うい位置に立つハカセに向け、ミヤビは蹴りのモーションを入れた。無論リーチが足るはずもない・・・が、僕らを支える風圧の、さらに格上の威力を携えた『風の刃』が、彼女に向かって飛んで行った。


しかし・・・・・風刃が届くその前に、空に身を投げ出した彼女。特別な身体機能を見せるわけでもなく、その身は重力に従って自由落下を始めた。


「読んでんだよ!!」


その行為は、心象からすでに把握済み。すでに指示を受け取っていたミヤビは、背後に蹴りを放ち、彼女の落下地点へ一直線に飛ぶ。


空中における回避が可能なのは、ミヤビのような特殊事例でなければ不可。仮に手を伸ばせたとしても、おそらくはミヤビの到達速度のほうが速い。


「・・・っ!?」


到達先にて、旋回する銀の線に息を呑む。それは、星々を裂くそれらと、二日月を成した軌道があまりにも綺麗だったから。


ハカセは自由落下の身でありながら、旋回する2本の鎌をドレスのように羽織っていた。


「・・・こんなもん・・」


上腕筋の張った右腕を横向きに、眼前に押し出すミヤビ。確かにミヤビの筋力ならこの鎌を受け止めるくらい訳無いだろう。


「・・・・・・・」


しかして僕の、華麗さに呆けた心は、ハカセの悪意に満ちた笑みを以て冷めた。


「!?・・・アイワ!!?」


ミヤビの肩に掛けていた腕を放し、僕の方も真っ逆さまに落ちる。その際の僅かな時間、ミヤビの襟を引っ張る。これに加えて、ミヤビが僕へ注意を変えることにより、ハカセに向かうまでの速度が減速した。


それでも足りない(・・・・)か。


未だ二者の距離が近いうちに、自身の右靴を思いきり蹴り捨てる。空中ゆえに体勢も安定しなかったものの、奇跡的に鎌の方へ激突する。


刃の軌道がミヤビの方から少し逸れる。その後すぐさま、刃先に触れた靴が光へと変換された。


「な・・!?」


ここまでの、零コンマ6秒程度・・・・が、ミヤビの判断・実行には十分なそれ。

ミヤビは身を翻すように、壁側へ蹴りのモーションを入れる。


軌道が変わり、ミヤビの鼻先で空を切る鎖鎌を一瞥し、安心・・・・・・などしている場合ではない。下方重力に囚われた僕は、そのまま落下速度を上げていく。地に叩きつけられるまでに一秒もない。


僕の様子を認識してか、ミヤビが上空を踏み抜く。上空に向けての『空撃ち』と重力加速度、その二つの合成速度は、僕の自由落下を凌ぐもの。地に直撃するギリギリのタイミングで、ミヤビは僕の上体を抱き抱えた。


「・・・・ぐっ・・!?」


地への緩衝蹴りは寸前で間に合い、激突時の威力が軽減される。とはいえ、3階からの落下を力づくで止めて、安定した結果がもたらされるはずもなく、二人仲良く、アスファルトの地面へ転がり落ちた。


擦り切れる痛みに顔を顰めるが、意識は女から離さないように警戒する。外れた視界を整えれば、落下していたはずのハカセが、鎖鎌を両手に、壁面でぶら下がっている。


「アイワ・・・今のは・・・?」


「言っただろ。連鎖すれば『光の変換』喰らうって。あの鎌は受け止めちゃいけないんだ。」


近接戦闘能力の差を、『触れば絶死』というアドバンテージ、リーチの長い鎖鎌、そして射程の高い光弾で補い、加えて鎖鎌の移動自由性を兼ね備えている。


明らかに戦い慣れしている。


「なるほど・・・確かにこれは相性のいい得物だ。純粋な殺傷技術も高い。」


一方でこちらは、昨日キセキに目覚め、戦い方も知らぬど素人。柔道で対人慣れしている点に加え、戦闘特化のキセキを持つミヤビはまだしも、僕なんて論外。二人協力体制で戦ったとしても、女のほうに分がある。


「それでも・・・・・・一勝さえできればそれでいい。」


「アイワ?」


疑問を呈するミヤビの方へアイコンタクトする。それは、昨日の怪物との戦いにて行ったそれと同義。


「考えが一つ・・・・・あの金髪痴女に一泡吹かせる。」


そのセリフに一瞬呆けたミヤビだったが、僕の表情を一瞥したのち、口角を上げた。







前話の『輝度』の要件定義をpythonで示すと以下のようになります.opencvやpyplot持ってる人はぜひ試してみてください。ディレクトリで一括にやれって?・・まあそれはそうなんですが。


import cv2 as cv

import matplotlib.pyplot as plt




img = cv.imread('image.jpg')


his0 = cv.calcHist([img], [0], None, [255], [0, 255])


print(his0)


n = 0


for i in his0:

if(i >=1000):

n+= 1



print(n)

if(n >= 100):

print("この画像は一定以上の輝度をもつ")


plt.show()

plt.plot(his0, color="blue")

plt.show()

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