表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/25

第4話:潜入

〜これまでのあらすじ


潜入前の訓練で15連敗するアイワ君。

囮作戦決行

ミヤビが見事に追跡者を捕縛。

アイワの尋問タイム

「最後に・・・君たちの拠点はどこ?」


「・・知らな・・」


「オーケー大体わかった。まあ場所はそっちよね。」


わずか五分も経たぬうちにその対話は完了した。


尋問は、側から見れば独り言にしか見えないだろうが、情報を次々と紐解いていった。それはそうだ、疑問を投げかけられれば思考から逃れることはできない。しかも相手が読心能力持ちであることを知らないなら尚更。


「いやほんと、改めて見ればえげつないよな。そのキセキ。」


「ん?なんか言ったかミヤビ」


「ああいやそのよ・・・」


その沈黙はおそらく・・・キセキの在り方への言語化することへの躊躇いだろうか。


キセキを褒めることは、個人への賞賛につながるわけではない。賞賛とは主に、常人の手に届くものへ達した者に、羨望を向けることを言う。それは誰にでも、夢を見せることができるから。けれどキセキは、常人の手には余る・・・ならば向けられる矢印は、羨望より恐れの方が多い。


・・・とは言っても、僕自身が気にすることでもないため、気に留めず言ってくれればいい。


「これさ、他のとこでも使えんじゃねえの?質問すりゃあ、一発で回答が心に浮かび上がるし、その事実にある嘘に翻弄される必要もないとか・・・ほんと警察涙目だぜ。」


「応用能力は高そう・・・けれど、こんな脳負担の高い能力っていうなら、すぐにでも譲ってやりたい。誰かに譲渡できるなら・・・の話だけど。」


「うわ言ってたなあ・・・純粋に負担えぐそう。」


昨日も狂気に飲まれていたのは、その負担によるものだと考えていい。今後、このキセキとの向き合い方について、考えなければならないだろう。


「ミヤビそろそろ。向かう場所も分かった・・・今夜で決着がつく。」


「おうよ。場所は?」


「デパートから南側の・・・いやお前の場合、連れて行った方がわかる・・・ん?」


怪訝に感じ、男の方を見つめる。

男は血走った目を見開き、空を凝視する・・・内包しているのは恐怖だ。


「その男から離れろミヤビ!!」


「・・・っ」


焦燥極まる叫びは、かつての監獄探索以来か。一秒の重大性の意味を判断するより先に、ミヤビは僕の襟を掴んで、前方・・・裏路地の出口へ走った。


手持ち無沙汰な僕は、男の視線の先を見つめた。


「ドローン?」


視界の端の真っ黒な浮遊物。それが急降下し、ドローンだと視認できる位置に至った。


「ひっ!?・・・アアアアア!!!」


悲鳴をあげた男は、ソレから逃げるように、僕たちと真逆の出口へと駆け出した。しかして、彼のおぼつかぬ足取りは、ドローンの飛行速度に及ばない。


そうしてその飛行物体は、男の方へ近づいたかと思えば・・・・その図体を閃光へと変えた。


「!」


「見るなミヤビ。とにかく外に」


目の焼ける前に視線を前方へと戻し、出口を駆け抜けた。

刹那、背後からの風圧と凄まじい爆音によって、僕らの五体は車道中央部へ吹き飛ばされた。













「自爆・・・・ではなかったよな」


「うん。というか、アイツは最後の時点で、この爆発のことを知っていた。」


「しかしよ・・・あの光、どっかで見たような気するんよな」


「・・・」


爆発後、僕らは男の知る拠点・・・デパート南方面へ駆け足で向かっていた。なんせ、この爆発によってまた僕らが目撃者認定等されれば、怪しまれることは必至だ。できればこういったトラブルを避けたいため、現場から離れることにする。


「しっかし大丈夫かねえ・・・監視カメラ系統ありゃあ俺ら一発アウトだぜ。何なら今からこんなこと起こったら尚更。」


「だからバレないように帽子かぶってろって・・・ほら。」


そう言いつつ、学生帽を渡す。


それは自身の今装着しているものと同様のそれだ。実際、夜における帽子の影は、顔の特徴を不透明にしてくれる。


しかしながら・・・・・ミヤビの表情は微妙のそれだ。


「今しゃーねーなって思ったでしょ」


「ああ思うぜ。てかお前も学生帽なんざやめちまえよ。今の時代、時代遅れは罪ってな」


「言えてる・・まあ僕はしっくり来ちゃったからやめないけどさ」


それは坊主だからか?と言う疑問を飲み込むミヤビ。余計な一言すら聞こえるこのキセキに、不満をぶちまけたくなる。


しかし生憎と、今はその思考に反応する余裕もない。



「・・・ところでよ、なんですぐにアイツを取り押さえなかったんだ?」


「ん?・・・え?」


「俺らの作戦って、アイワを囮にしてから俺が離れて・・・そこからさらにちょうど12分経ってから、裏路地での挟み撃ちだったわけじゃん?けど正直俺は、お前がストーカーに気付いた時点で取り押さえに行っても良かったんだぜ。」


確かに、実際それの方が仲間を呼ぶ時間も与えず、さらに時間短縮にもつながる。しかも僕一人を動かすというリスクだって無くなる。


振り返らずに、息の上がった声で返答した。


「ミヤビには言ってなかったか・・・読心能力にはね、少しタイムラグがある」


「タイムラグ?」


「たとえば感情を読み取るだけなら一秒も満たない。怒気や焦りというのは、情報ではなくオーラ?みたいなものだからね。けど情報・・・つまり、『考えていることをわかるように言語化』するまでの調整時間は約12分前後。これは多少あっても、ある程度の意味は通じると考えてくれればいい」


12分・・・・その時間は、ミヤビが先ほど言及したものと同義。


「じゃあお前は・・・あのストーカーを罠に嵌める囮をしつつ、心を読むための準備をしていたということか?」


「そういうこと。この『見える化』にかかるまでの時間を、尋問に使ってしまうのが怖かった。たとえば敵側が情報を吐く前に自殺したり・・・」


「情報吐く前に消されて巻き添えを喰らう、か。さっきみたいに・・・ていうか俺らは大丈夫かよ?追われてない?」


「問題ない。さっきのドローンが、どこから来たかわからないけど・・・()この場で上空に飛ばしたら、近くのデパートで待機している公安に見つかる。奴らにとってもそれは避けたいはずだ。まあでも、それはそれとして、追跡者との会話が傍受されている可能性も否定できないけどさ」


「・・・・・そうだな」


「・・・・・・・・・・・」


会話は途絶え、沈黙に戻った。

ミヤビは気を遣ってか、再度会話の節を探そうかとも考えている。生憎だが、現場は目と鼻の先だ。


「着いた。ストーカーのイメージとドンピシャ。」


「病院って・・・ここまだ営業中のとこじゃねえか」


大きさで言えば6階建てのビル、そしてその一階に構えられた皮膚科。確かにデパートに近いことは事実だが、こんな小綺麗な私立病院。見た目だけなら怪しさは全く感じられない。


「廃墟とかなら簡単に警察のガサ入れができるだろうけど、ここは表向きクリーンだから、意外と隠密に特化してそうだ。それに見ろ・・・急患も出なさそうな私立の皮膚科が、20時以降の営業なんて珍しいと思わないか?患者が過疎化した時間帯なら色々行動しやすいだろ」


「なるほど?」


もし廃墟のような、何の変哲もない建物に入るのなら、押入り強盗のような強行突破も可能だったろう。しかし名目上だろうと、クリーンな拠点なら、悪党はこちら側になってしまう。


「先に言っておくと追跡者から得られた情報は主に四つ。担当者、拠点の位置、建物構造・・・それから拠点内部の事情。一応これだけ要素が揃えば、手はある。」


「ほう・・?」


その悪だくみへ期待感を高めるミヤビに対し、僕はその案を口に出した。












「いらっしゃいませ、本日はどうされましたか?」


自動ドアをくぐれば、女性スタッフが一人佇んでいる。僕がその案内口に行く前に彼女は挨拶した。今来たばかりの訪問者に挨拶する余裕があるほどに、客も少なかったのだろう。


「ああ・・・・ええっと、あれだよな。・・・・・・」


「・・・・遠方にて連絡したジェネリック錠剤について頼んでいたのですが、ご用意できていますか?」


着いた瞬間に、ミヤビのド忘れした台詞を代行する。言の葉を聞いた、その受付スタッフは、マスク下にてその顔を一瞬強張らせたかと思えば、すぐに平静に戻った。


「・・・お待ちしておりました。それでは診察表に記入の方をお願いします。お渡ししていただければ、後ほどお呼びいたします。」


クリップボードに挟んだ用紙を手渡すと、スタッフは受付席を戻った・・・・・その途中、こちらを一瞥する目はどこか恐怖が入り混じっていた。


「合言葉はオーケーだよな?で・・・ここで何を書きゃあいいんだっけ?」


「何も書かなくていい。それが最後の暗号だ。」


「・・・なるほどな」


この受付員に言ったセリフも、『何も書かない』という選択肢も全て、ウラに入るための合図。


先ほどの追跡者のように、非正規雇用員は他にも多く存在する。彼らはあくまで半グレに近く、情報の中枢を任されていない。ゆえに名前の管理すらされていない下っ端。この『相互の不透明性』を利用することで、潜入することができるのではないかという考えだ。


その上で利用したのが、先ほどの追跡者からの情報。曰く、皮膚科の表側からその組織に至るまで、さまざまな手続き・・・・合図を伴うことで、潜入に至れるのだ。


そして最後の障壁・・・・その受付の女性スタッフが、僕らのことを知っているかどうかだが、おそらくそれはない。情報の詳細に詳しい者が表側にいる者とは考えにくいし、仮に知っていたとしても、僕が検知できる。


しかしてその心配をよそに、十分程度経てば、受付スタッフがこちらの方に寄ってきた。それに気づいたミヤビが、スタッフにクリップボードを手渡したので、同じように差し出した。


スタッフは、その用紙と僕らの顔を交互に見つめる。その反復動作を数回程度で終わらせれば、


「お待ちしておりました。では私がご案内します。」


若干の震える声で、僕らに対し、着いてくるようにと、目で一瞥した後に、奥の廊下へと進んで行った。


「彼女は僕らに疑問を持っていない(・・・・・・・・・)。行こうか・・・合図したらわかってるよね?」


「おうよ」


互いに為すべきことを理解しているか・・・その最終確認を目だけで行い、受付の彼女に着いて行く。その奥先を見れば、彼女が外階段につながる扉を開けて待機していたため、すぐさまその場に移動する。


受付嬢が扉の内側、僕らが外階段手前にて足を置いたところで、彼女は一礼する。


「それでは・・・・私はこれで失礼します。」


「ちょっと待ってください。これ落としましたよ。」


その場から去ろうとした彼女に、僕は一声かける。その手にピンク柄の付いた携帯端末を携えて。


「・・・え?・・・ああすみません。」


彼女は僕の方へ駆け寄る。その身が外側へ踏み出された瞬間、ミヤビは外に反る扉を指で突いた。


「え?」


「どうされました?ほらこちらを」


「え?ああ。」


ドアの閉じる音に反応して、一瞬彼女がミヤビの方を見る・・・が、僕の声に引き戻されてか、疑問符を内包しつつも視線を移した。


その瞬間だった。


「ミヤビ」


さも自然に、何気なく放たれたその合図をもって、僕らは自らに行動を課す。ミヤビは、意識を離した受付嬢の背後に詰め寄る。その気配が気取られるか否かのギリギリのタイミングで、ミヤビは腕関節で彼女の両肩を絞めた。いわゆる羽交締めといったところ。


「・・・っぁ・・・!?」


「・・・・・叫ばないでもらえるとありがたい」


悲鳴は鳴らなかった。それは、前方にて僕が、中指と親指をもって、彼女の喉と顎の付け根を摘んだから。これは確叫べないだろう・・・・声の阻害だけでなく、生殺与奪が誰にあるのかを、はっきりさせる行為なのだから。


「・・・がっ!?・・ぁ゛なたた・・・ち」


紅潮した顔で僕の方を睨む受付嬢。苦虫を噛み潰すようなその表情には、混乱と苛立ちが滲み出ていた。


「残念。君が携帯落とさなきゃあ、こんなことにならなかった・・・これぞ携帯落としただけなのに。」


「華麗なスリ技術を披露していてよく言うぜ・・・バレりゃあプラスで痴漢扱いってのによ」


扉から外に出る瞬間に、僕が極々自然に奪い去った受付嬢の携帯電話。スリの経験はないため、うまくいくかは一か八かではあった。


「いやだねえ・・・こんな悪党じみたことせにゃ、遺体とり返せないって言うのも」


「悪をもって悪を制するとは言うだろう?それはそれで主人公ぽくていいんじゃないか?」


そういえばミヤビは、ダークヒーローものを見ないんだったか。なら、こんな手法を毛嫌いするのも仕方ないのかもしれない。まあここは必須工程ゆえに、我慢していただくと言うことで。


「わ゛たしを・・・どうする・・・・・」


「君には人質になってもらう。というか保険かな?・・・君らのウラにいる奴らも、表側にいる君たちに何かあるのは利に反するだろう。なんせ、表にトラブルがあれば、公安に勘付かれるってね。」


「つって俺だって腑に落ちねえんだがな。とっとと済ませようぜ。」


「ああ」


組織の重要人物の部屋を知る僕を先導に、僕らは階段を登っていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ