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第1話:分岐点I

用語:キセキ・・・・何かの『特別』な力?なんか注射されて手に入れた力?


これまでのあらすじ


窮地のアイワをミヤビが助ける

ミヤビが怪物の攻撃を受け止める

そこで、ミヤビに特別な何かが宿ったことがわかった。

アイワの作戦とミヤビの力で怪物を撃破

アイワが怪物を・・・・

「改めて聞こう・・・君たちはあそこで何を見たんだい?」


「・・・・・・だから、爆発に巻き込まれて気を失ったって」


三度目と同様のフレーズを繰り返す僕に、警察官は何か苦言を言いたげであった。それはそうだ。誰も彼もが爆発に消え失せたあの場にて、たった二人が5体満足でいたなどと、誰が信じようか。けど、事実僕らは生き残った。捜査関係者も、頭を抱えているに違いない。


怪物の死を見届けた後、気付いた時には、デパートに戻っていた僕ら。これが意味するのは、デパート内にて『あの空間が怪物によって作られた』ものであること。あの怪物の能力は、そういうものだったのか。


“困ったな・・・けどこんなチビがあの爆発を起こそうなんて言える度胸・・いや思春期特有の思慮への浅さもあるかも”


警官にチビと称されたのは、気にしないように努める。言ってもいない言葉に一々反応すれば、気持ち悪がられるだけだ。


「君大丈夫か?」


「ええ・・・大丈夫です、よ」


怪訝そうな顔で僕を見る。例えば『薬物をやってる』等と思われないように、できるだけ『緊張感に酔った自分』に成りきる。それが通じてか、警官は何やら諦めた様子で口を開く。


「はぁ・・・実を言うと、君らをいま被害者と扱っていいのか、被疑者として扱っていいのか・・・ぼくらは決めかねている。君が状況を把握していたのなら、早く終わってたんだが・・・・まあ嘘をついてないみたいだし。」


「お役に立てず、すみません。」


そう、嘘はついていない。なんせ、『デパート』で見たことと、事件の真実は同義ではない。ただ『あの牢獄』の一件を聞かれないから、言ってない。単にそれだけ。もっとも、常人の考えで、今までの出来事を予想することなど、限りなく不可能に近い話だが。


ただし、『隠し事』をしている以上、どんなにその表層を繕おうとも、『何か変』だと、警察の勘が働いたのかもしれない。


その勘に付き合わされた結果、取り調べ?は四時間も続き、現時刻は大体15:00。遅い時間でなかったのは、発見された時刻が早いタイミングであったから。


あの監獄が、あまりにも陽の光から遠のいていたために全く気づかなかったが、あの『一件』は早朝の出来事。つまり、デパートの爆発からわずか一分すら経っていなかったと言うことだ。


当然、あの出来事がそんな短時間で動いていたはずもない。おそらく、あの空間だけが、通常の時間軸とは異なっていたということ。


「アイワ君?」


「え?はい?」


「・・・時々ぼーっとするよね君・・・・まあ、とにかくさっき言った通り、帰宅を許可するよ。ただ今後、君にまた連絡することがあるかもしれない。電話はしっかり確認すること。早速自宅の電話番号を・・・・」


「すいません。僕、ウチ電話通ってないです。」


「・・・自宅の住所を教えてくれ。必要になったらまた呼ぶことになる。」


その『必要なとき』になったらどうなるんだろうか、まさか逮捕なんてことはない・・・よね?


「そう身構えなくても・・・別に根拠もなく君に令状は届かない。そうだ、君親御さんは?できるなら職場に迎えの連絡を送ろう。」


「いや、施設出てずっと一人暮らしです。親はいません。」


「一人・・・・一人!?・・君まだ14だよね?」


「はい。今ちょっと配達業しつつ学校に・・・・・先生も事情を聞いて許してくれたので。」


「そ、そうか」


僕のことを取り調べるなら、これくらいの情報など既知だと思っていたが、心を覗いてもそのようなことは無かった。


「そういえばミヤビ・・・僕と一緒にいた彼はどうしましたか?」


「ああ。彼はまだ・・・・いや、もしかすると終わっているかもしれない。さっき君に言ったように、親御さんの迎えの連絡をしているかあるいは・・・」


「親御さん・・・って、自宅に電話なら」


もし署からミヤビの家に連絡が行ったのなら、来るのは彼女しかいないだろう。


















「ミュウちゃん!!ああ来てくれたのね!お兄さん嬉しい」


「気持ち悪」


少女の使う言葉としては、全くらしくないようなそんな五文字、これで何度目かも分からない。


特徴的な白髪おかっぱに、黄色のデニムシャツ、紺色ジーパンーーーーミヤビの妹ミウは、そんなセリフに相応しい死んだ目で、兄の抱擁を受けている。


本当に嫌なら振り解けばいいのに、などという言葉を飲み込みつつ、改めて声をかける。


「仲のいいことで・・・ミウは1年ぶりくらいじゃない?」


成長期の1年が大きいことは、十分承知している。それでもなお、自分の最後にあった彼女の姿と、今の彼女が全く一致せず、一瞬気づかなかった。


でもまあ・・・・ミヤビとミウの距離があまりにも近く、昔の彼女の記憶と、すぐに綺麗に重なった。


「はい久しぶりです。ユウ・・・・・先輩、・・・・てかもう離れろよ!?」


「おわっと・・・これは反抗期かな〜?」


「うるさいっ!!死ね。」


長らく抱きつかれたことを嫌がってか、ミウは兄を突き飛ばす。それでもミヤビは気持ち悪い顔をやめずに笑っている。


前言撤回。こいつの場合シスコンというより、反抗期の娘を持つ親バカのそれだ。なんせこいつらの両親は・・・・。


「・・・・・・ああ、そうか。そろそろ6年だったか・・・・・・・ぁ」


・・・・・しまった。声に出ていた。


「え・・・・・・・・・・・・ああ、そういやそうか。」


「そう、ですね。」


要らぬ爆弾を投下してしまった。

これは(みやび)家の話だ。僕が話題として出すべき内容ではない。


「ごめん。君らだけの話を軽率に展開するべきじゃ無かった。ほんとうに申し訳ない。」


「まあ気にすんなって、お前もまあ・・・うん、付き合いも長かったしな、別にいいだろう」


「ええ。私も気にしていませんから。」


「・・・・・・」







6年前といえば、僕がまだ養護施設にいた頃。


ミヤビの実家は施設に近いために、僕は良く抜け出し、三人で遊ぶことが多かった。その頃『児童養護施設』の意味も『両親の有無』もそう大した事実でもないと思っていた僕は、『僕の家』にも遊びに行くように二人を誘うことも多かった。その際は、ミヤビの母に優しく止められたことを覚えている。


記憶は曖昧だが、ミヤビの父さんが大企業の社長だったために、実家のスケールは施設のそれより大きかった気がする。僕が遊びに行った理由は、そこにあったのかもしれない。


しかし・・・・・雅家との交流を深まってきたその頃、ミヤビの実家が火災に見舞われた。


偶然にも風邪をひいていた僕は、その日遊びに行くのを断念していため、火災に巻き込まれることも無かった。


今でも覚えている。目の前の大きな屋敷が、業火に飲まれる様を。煤だらけのミヤビとミウが声にならない叫びをあげて、必死にその家に飛び込もうとする様子を。そして、周りの野次馬たちが、二人の愚行を全力で阻止する有り様を。


火災後、二人はどこかへ消えてしまった。


それからしばらく、二人と会えなかったその空虚な時期を億劫に感じ、僕は施設の先生に二人の所在を聞くことにした。困り顔でその話題を逸らそうとしていた先生に、しつこく聞く僕に根負けしてか、『なぜ二人がいなくなったのか』を話してくれた。


齢八歳児の少年が容易に理解できるレベルにするためだったのだろう、その話は二時間にも及んだ。要所をまとめると二点。まず、あの火災は放火事件として報じられているということ。

その犯人は、現在も不明とのことだが・・・・報道で報じられている情報曰く、『長時間労働を強いていた』会社に対して、制裁を加えた従業員の仕業では?という説が流れているらしかった。


そして二点目は、その火災後しばらくして雅父の会社経営が立ちいかなくなり、倒産してしまったということ。詳細な情報は曖昧だが、今回の事件後に発覚した様々な悪行が、トップの欠員によってドタバタしていた自社に、トドメをさしたと言われている。


この『放火事件』と『会社倒産』によって、雅兄妹は親戚宅のどこかへと移されたというのが、先生が知っている限りの情報だった。今考えれば、まだ子供な二人の面倒を見る為だけでなく、会社に恨みを持つと思われる真犯人から、彼らを守るために必要だったのかもしれない。












「ユウ先輩?」


「あ・・・ああ、気にしていないのならそれで。」


回想とその考察にふけた自分へ、心配そうに声をかけるミウ。その可愛らしい顔が、結構な距離を詰めているので、たじろぎつつ『問題ない』という意を示す。


しかし墓参りであれば、どうにか僕も行ってみたいが・・・


「なあ僕も・・・いやすまない。墓参りは君たち二人で行くんだよね?」


「なんだ?・・・一緒に行くってんなら、いいぜ。ちなみに今は俺たち二人だけって話だが」


生憎、六回忌に当たる日は午後出勤。通常は早朝のみだが、職場のデスクを入れ替える作業等のため、上長から午後出勤の願いを受けていた。


「残念だけど予定ありだ。僕もミヤビのお袋さんたちに、ミヤビのこと話したかったんだけど」


「ん?俺のこと?・・・おいおい俺のやらかしチクるってなあ、やめてれよ」


「チクる?チクるっていうならそうだね・・・第三回ミヤビ女泣かせ記念とか・・」


「は?」


そんなことを冗談まじりに口に出した瞬間、突如背筋に寒気が走った。


「ちょ、ミュウちゃん違うから、あれは告ってきた女を何度か断っただけで・・」


「・・・別に」


「・・・・・・・・・・・・・・」


・・・心が見えると、ここまで人間への解像度が上がるのか。次回から、ミウの前で『こんなこと』を言うのは避けた方がいいかもしれない。


「まあとにかく・・・・なあミウ」


「・・・なんです?」


ミウの不満げな様子に緊張しつつ、フォローも含めて一応伝えておくことにする。


「こんなお兄さん、絶対に手放しちゃダメだよ」


「・・・え?」


呆けた声を上げたのは、ミウではなくミヤビの方だった。きっと、急なシリアスドラマっぽいセリフに自分が組み込まれるなどと思ってもみなかったのだろう。


僕は戸惑う二人を待つこともなく、嘘偽りのないミヤビへの総評を続ける。


「ミウは、今日の爆破事件のことは知ってるよね?」


警察とミウの認識が同じなのであれば、僕らは爆発から休止に一生を得た奇跡の二人のはずだ。


「はい。先輩たちは奇跡的に無事だったという。」


「うん。この時、君の兄さんは僕を咄嗟に守ってくれたんだ。」


爆破事件の際・・・・光に包まれたあの時、ミヤビは咄嗟に、光源の反対側へと僕を突き飛ばし、肉壁の如く僕に覆い被さった。


その後の話があまりにも凄惨で強烈だったために、先程までその時の記憶は薄れていたが、『ミヤビが僕を守ってくれた』事実だけは決して忘れてはならない。


「兄ちゃん・・・・」


「ま、まあ・・・偶々俺の近くにいてくれたから、勝手に手が出たというか・・な?まあその程度のことなんて」


「君の言う、その程度のことでも、お礼は言いたかった。あの時のお前は本当にかっこよかった。ありがとう・・お前には助けられた。尊敬してる。」


これは、爆破事件のことだけではない。例の一件のことも然りである。あの怪物にすくんでいた僕を、ミヤビは守ってくれた。


あの時のミヤビは、自分自身が『超人的力を持つヒーロー』であることを知らない。凡夫の身であるゆえに、命を失うことは間違いなかった場面で、迷わず僕の前に立った。


それがたとえどんな理由であれ、謝意は必須だ。


「お、お前・・・・そういうとこだぞ」


「・・・・」


顔を真っ赤にするミヤビ。ちょっと照れすぎやしないか。


少し本音を喋りすぎている・・・と言うことはあるかもしれないが、こういった感謝の意は、早めに表していた方が良いに決まっている。それにこれは、ミヤビがやった事実に当たり前の謝意を並べただけなのだ。謙遜する必要なんてない。


「と、とりあえず・・・・帰ろう!!ミュウちゃん!!」


心騒がしくあたふたしたかと思うと、プイッと踵を返す。


強引に話を締めるミヤビに、呆けて後ろ姿を眺めていると、ミウが苦笑しつつ言った。


「とっても嬉しそうですね、お兄ちゃん。」


「?・・・戸惑ってるようにしか見えないけど、そういうものなの?」


まあ賞賛されているのだから、嬉しい感情の一つはあってもおかしくない。もっとも、先ほどからミヤビの心は、僕に対する軽いブーイングで詰まっているのだが。


「そう言うものですよ。わかるんです私には。きっと家に帰れば、舞い上がってますもの」


「・・・・・ならいいか。」


僕の心を読む力は、会っているその間だけならその人の本音を掴むことはできるのだろう。しかし、あくまでそれは一時のもの。その先の未来で、考え方がどう変化しているかを見ることはない。


ならばミヤビの本質は、僕よりも長く過ごしている彼女の方が理解している。

どんなに人の本音を見透かせても、『本質を見抜く』チカラは『時間』に敵わない・・・と言うことか。


「じゃあ先輩・・・また」


「うん、また」


空へ手を右往左往させるように手を振り、別れの意を示す。


“わかってるじゃない。お兄ちゃんはかっこいいのよ”


「・・・・素直じゃないなあ」


できるだけ聞こえないように、小さく呟く。

ミウの本音にあったのは、兄に対する心配と、僕の言う称賛への同意だった。もしかするとその『本心』を、ミヤビも少なからず察しているからこそ、ああいう溺愛行為をやめないのかもしれない。


兎にも角にも、仲慎ましいようで何よりだ。


“まあでも、お兄ちゃんのことを一番に理解してるのは私なんだから。負けないんだから・・・・お兄ちゃんは私がいればいいの”


・・・いや待て、距離が近すぎやしないか。

血も繋がってない分、色んな意味で危ない気がするのだが。













向かう先は、施設近くのアパート。


本来、中学生一人に毎月の家賃を払える余裕などない。それでも僕が、一人暮らしを可能にしているのは、年の離れた施設の先輩が大家さんだったから。先輩曰く、日当たり悪くて人気もないために、空いた部屋の貸し出しを許可してくれた。当然、修繕作業や掃除などの管理関係を手伝うことが条件になってはいるが、それでも有り難かった。


「帰り先があるのは良いことだけど・・・・職場や学校との距離が同じくらい近かったらな・・」


もし目の前に、僕の事情を知っている生活困窮者がいるとすれば、僕の頬を引っ叩く程には贅沢な悩みだろう。それほどまでに僕は恵まれていた。


「・・・・・」


しかし今日だけは、そのアパートの位置を恨む。


アパートにたどり着くまでの最後の道、時刻関係なく人だかりの多い通り。当然、人数に比例して、飛び交う声も多くなる。それは良いのだ、なんせいつも通っている場所なのだから。


“っ痛!!雕上?縺ェ!”


“気を縺、縺代m!!子供ガ縺?k縺ァ縺励g縺?′??シ”


“今日ハ縺ッ逍イ繧後◆”


“うワ豎壹?縺”


“魑ゥ縺?k縺倥c繧”


“諤・縺後↑縺阪c髢薙↓蜷医o無イ!!”


“縺サ繧早くイコ!!”


“繝代ヱ縺ゥ縺薙↓縺?k縺ョ?”


“豁サ縺ォ縺溘>縺ェ縺”


暴力的につんざく声は、僕の脳に無遠慮で入り込んでくる。頭の割れるような鋭い痛みは、少しずつ僕の足取りを重くしていく。


「きもち・・わる、ィ」


人体には、声帯と言う共通機能があるからこそ、誰も彼もが『通じる』声を発せる。しかして、その舌裏にある心の声は、人によって大きく異なる。


警官と話している時や、ミヤビやミウと話している時だってそうだった。あの時は、少し時間が経つことで、声がわかるようになってきたからこそ、少しずつ流暢になっていた。


しかし人混みは別だ。通りすがるのは一瞬。多くの者が入れ違いに、それぞれ異なる波長の声を、僕の頭に流し込む。慣れるまでにかかるのが数十分程度なら、すれ違う数秒に、順応が間に合うはずもない。


ゆえに、地獄。


「あ、アア・・・あ゛・・・・・これは耐え、痛っ・・あ・・あ゛あ・・!?」


ただそれでも・・・このチカラが誰かにバレるのは避けたい。深い理由はないものの、バレてしまえば取り返しがつかない、何かが起こるかもしれないと考えて。


口内に溜まる唾液と共に、登る吐き気を溜飲する。不快感の全てを押さえ込み、この道を耐え抜こうとして。










“繝帙Ρ繧、繝医?繝?ラ縺ッ縺ゥ縺薙〒縺ゅl繧貞ョ溯。後@縺溘?縺九@繧会シ溘&縺」縺阪?繝?ヱ繝シ繝医?辷?匱縺ッ縲?未菫ゅ≠繧九→諤昴▲縺溘¢繧後←縲ら岼謦?ュ蝣ア縺後≠繧九?縺ェ繧芽◇縺阪◆縺九▲縺溘¢縺ゥ縲∫函縺肴ョ九j縺御コ御ココ縺九?繝サ縺薙l縺倥c縺ゅ?∽シ壹∴繧区ー励b縺励↑縺?o縲ゅ←縺?↓縺九さ繝阪け繧キ繝ァ繝ウ繧貞叙繧後l縺ー繝サ繝サ繝サ萓九∴縺ー縲∝享蛻ゥ閠?↓縺励°蜿悶l縺ェ縺?ソ。蜿キ繧偵く繝」繝?メ繝サ繝サ繝サ縺?d縺昴b縺昴b螂?キ。縺ョ蜀?ョケ縺後←縺?°繧ゅo縺九i縺ェ縺??縺ォ縺ァ縺阪k繧上¢縺ェ縺?°繝サ繝サ繝サ莉悶↓縺?>譁ケ豕輔?縺ェ縺?°縺励i縲”



通り過ぎるたびに聞こえるものが、大体1フレーズ程度とするならば、その声は常人の何十倍もの()。それがあまりにも強く大きな声で、脳へと響くために、今までに感じたことのないような激痛が走る。


分からぬ言語ゆえに、その本質は掴めないが、心象の声音は紛れもない少女のそれ。


「ヤメ・・・ロ」


後ろ姿ではあったが、声の主はすぐ見つかった。

背後からしか見えぬが、髪色はミヤビに近い薄茶色にショートボブ。


彼女は、僕よりも十数歩前の位置にて、僕とほぼ等間隔で歩いている。ゆえにその声が通り過ぎることもない。


「ダマれ・・・・オワ・・・・レ・・!」


顎を伝う濡れと、少々の辛さを伴う唾液を先に、唇の痛みを覚える。それでようやく、自分自身が血を流すほどに、唇を強く噛んでいたと気づく。しかし、その僅かな思考すらまた何処に。


今の僕の思考を埋め尽くすのは、彼女のみ。無論その思考は、色に溺れたものではなく、殺意に浸ったそれで。


野次馬の障害を払うようにして、早足に彼女へと近づく。そうして、彼女の頸へと手を伸ばす。


「コロせ・・・」


脳が熱い、苦しい。ならば僕を苦シマセルソレをサツイシテイマココデコロセコロセコロセコロセ

コロセ

コロセ

コロセ

コロセ

コロセ

コロセ

コロセ

コロセ

コロセ

コロセ

コロセ

コロセ



















「あなたは『勝リ者』?」


え・・・?背、後・・・?

先程まで僕の目の前にいたはずの、彼女がいない。ならば背後からの声の主が誰なのか・・・


その思考が終わるか終わらぬか、その境界が曖昧なうちに、僕は後ろへと振り返った。


「・・・っ」


手。


顔へと向かうそれが最初の光景。殺意に溺れた僕への報復なのかと思い・・・それでも次手を判断できず、臆病者らしく目を閉じた。


刹那、甘い香りが鼻腔に走る。『死』を迎える人間は、『生』に足をつけていれば絶対享受できない快楽を得る聞いたことがあったが、果たしてこれがそうなのかと。冷静さも中途半端な脳に、下らぬ机上論が走る。


重い目頭を開き、果たして自分の今立つのが生か死か・・・それを確かめようとして。


「ん・・・」


・・・

・・・・!

・・・・・・!?

・・・・・・・・!!?


唇の柔らかい感触に気付けたのは、五感の最後者だった。


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