表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/25

第19話:バッドエンドの舗装作業■

〜あらすじ

少年は過去を思い出す

「こ・・・ご・・・・だ・・」


自身の体が許す限りに、周囲を見渡す。偶然か・・・・身体が吹き飛ばされた此処は、先ほどまで僕らのいた雅宅の二階だった。しかし最初侵入した時のように、綺麗な様子ではない。そこらじゅう穴だらけな床に加え、散乱した物品の数々・・・全くもって、悲惨な様。


果たしてここに来て、どれほどの時間が経ったのだろうか、だなんて・・・・・意識を失っていた僕にはわかるはずもない。


「・・・あ゛・・・く・・・ぞ・・く」


少しばかり、懐かしい夢を見ていた。

どちらかといえば、『過去の思い出』を脳内で紡いでいたために、『走馬灯』に近いソレだろうか。


今のような、生きているかも死んでいるかも分からないような、重症の身なら、そういうものが見えても仕方のないかもしれない。


「約束・・・・・ちゃんと・・おぼえて・・・た・・・よ」


ミヤビは先ほど、『約束を守らなければ』と宣っていた。きっとソレは、僕らが幼いころに示し合わせた、青臭い誓い。あまりにも小っ恥ずかしいものだから、今でもはっきりと覚えている。


『約束の口上』の一句一句を忘れたとしても、『感覚』はそう簡単に記憶から消えるものではない。


『ゆびきりげんまん』の左手小指の、感触が・・・・・・かんしょ、・・・く・・・・が。











挿絵(By みてみん)













小指は、根本から抉り取られていた。

絶対に忘れないと宣う心を嘲笑うかのように、その感触ごと無かったことにして。


「それ・・・はっ・・・・ないだろ・・・っ」











結局、『いつか』は来なかった。


それを先延ばしにしていたのは僕だった。僕とミウには、何度だって話す機会はあった。そんな中で、『怖がられているからアクションしない』という結論に甘え、何もしなかった。そこそこ悪くなく、そこそこ親しい関係が・・・表面上で続いたそれが、歪だということに、見て見ぬ振りをした。


そんなだから、『先輩』と『後輩』だなんて、他人行儀の関係がいつまでも続いたのだ。


「ダメ・・・なんだ、ね・・・本当に・・・戻れ、ないんだね。」


消沈した心に比例するように、天井へ掲げた掌を力無く降ろす。


勝リ者の修復能力は常人離れしている。しかし、アンナの脚が一向に治る様子が無かったことを鑑みるに、一度欠損した部位は戻らないのだろう。例に漏れず、この指も。


僕らを親友たらしめた、あの感触も。『いつか』を夢見た、今まで、も。


「ああ・・・・分かっていた、よ・・・分かっていた、とも」


だからこそ・・・『切り替えろ』と心にて宣う。言葉にできないようなその感触を胸に、穴だらけの身体を起こす。


その、背後にて。

天井部から飛来する、蒼い星。粉塵を巻き起しながら、颯爽と現れる親友の身姿。


「・・・・・・」


僕を仕留め損なったと勘付いた彼が、止めを刺しに来たのだろう。今さら驚きはしない。


前方は親友。後方の一寸先は闇、すなわち陥没した床。親友の『因果収束』が覚醒した時点で、消えかけた逃げ場。それが、さらに狭まることになるとは。


まあ・・・・・もう(・・)逃げるつもりはないが。


「僕、が、十五連敗中、だったな」


腐りかけの心を精一杯に立たせ、僕は親友を・・・・ミヤビを見据える。


「決着をつけよう・・・・ミヤビ。」











「aaaaaaaaaaaa・・・・・・!!!!!!!!」


その口上が、ミヤビにとっての火蓋に成ったのだろう。常人離れした跳躍力で、こちらへ真っ直ぐに跳んでくる。避け切れない、文字通りの絶対絶命を前に、僕は静かに口を開いた。


「『(ムスビ)』」


「aっ・・・!?」


ハッタリでもなんでもなく、『最優の反則手(シャガラグチ)』は硝子玉へと戻り、僕の掌に収納される。槍の消失によって、唖然とするミヤビの相。しかし、そんな戸惑い如きで、ミヤビの推進力は落ちない。


僕の三寸先に至るミヤビの拳・・・・・ソレを目の前にして僕は、


「・・・g・っ!?」


後方の虚空へと、足を掛ける。そうして文字通り、身体が真っ逆さまに落ちていく。驚愕に歪んだミヤビの心象など知らずして・・・・・・平行に進んだ拳は空を切る。




・・・・・直後、世界は流転する。




「・・・・がぽ・・・っ」


僕の小細工など梅雨知らずとして、『因果収束』はものの見事に成功する。僕の腹部を貫くミヤビの拳。ただし、集約したその位置(・・)は、今までとは異なるソレだった。


「・・・da・・・ぎっ!?」


空中に放られた(・・・・・・・)身体に驚愕するミヤビ。そんな彼を、絶対に離さないとして、僕は襟を掴む。動じたミヤビが踠くも、空中では上手くなんていかない。


「お前の・・因果収束・・・・収束した、その先の位置座標・・・その全て、は」


その原理に気づいたのは、ミヤビによって空中へと放られたあの時。掴まれる前後の景色。『因果収束』の結果に至る位置・・・つまり『ミヤビが僕に引き寄せられた』際の位置座標。ずっと気がかりだったソレ。


ミヤビのいた座標に僕が引き寄せられるのか、僕がいた座標にミヤビが来るのか・・・・その解は、



半分(はんぶんこ)、だ・・・・喰え、よっ!!!!」



背面にて携えた手から、『最優の反則手(シャガラグチ)』を起動する。起動直後に体積を拡張されたソレは、背中越しに僕の胸部を貫く。身体によって生じた死角は、その瞬間をミヤビに見せない。ゆえに『局所的マブの循環』も許さない。


つまるところ、胸部から生え出た血肉携えし刃が、何の妨害も受けずして、ミヤビの心臓部を貫いた。


「a・・gi・・でっ・・・・・・・・な、にっ!?」


爪楊枝で刺されたサンドイッチのように、槍越しで繋がる二つの身体。

静かな自由落下の重力本流を受ける二者は、小さな音を立てて、一階へと堕ちていった。











『二者の座標』と『角度』、その半分。ソレこそが『因果収束』がなされた後の、最終座標位置。僕は二階から落ちる『落下』状態。一方でミヤビが、2階にいる状態で発動したため、二人の座標位置の半分の位置は『空中』となる。結果、ミヤビを落下状態へと巻き込むことができた。しかも、真っ逆さま(-90°)な僕と、直立(90°)なミヤビで、角度が折半されれば、地に平行()の状態になる。安定した状態で、槍を発動させることができる。


僕の勘は正しかった。しかしこのチカラですら、おそらく発展途上段階。もう少し時間が経てば、集約座標点を操る程度、出来るようになっていたに違いない。


「・・・・がぽっ・・・」


その不完全性につけ込んで、ようやく届いた一撃。しかし、その代償として、僕の胸部も貫かれることとなった。


「・・・・・っあ・・ぎ」


金槍を解除し、落下衝撃に悶える親友の身体を退かす。半身を起こしながら、胸部に埋もれた硝子玉を取り除くために、指を患部に突っ込む。


相打ち狙いの博打だったが・・・・槍の一撃は、僅かに僕の心臓部を逸れていたようだった。




「アイ・・・ワ・・・・?・・・・え?・・・アイ・・・げっ・・でっ!?」



掠れた呻き声を耳にし、視線を移す。

瞳に映るミヤビの顔の、奥で燻る心象に・・・あの蒼い靄のようなソレは消えていた。


「・・・・・」


アンナは『心臓部』を破壊することで、正気が戻ると言っていた。『重要機関の再生』に関しては、勝リ者の再生力ですらどうにもならない、とも。


だからか、ミヤビは、僕の貌を正しく認識している。ただし『夢見薬の幻想』は、あくまで正史の記憶として、ミヤビの心に記されている。ゆえに、今の景色と記憶の齟齬に対して、困惑の相を見せた。


「い・・・っだ・・・・な゛・・・て・・だ・・て・・偽物・・・じゃ。」


震える瞳孔の底で、信じられないと宣うミヤビの心。その、貌が・・・・何かを勘付いたかのように、ゆっくりとアレの方へ向きを遷移させた。


「え?・・・・・・・・・・・・・・・ミ・・・・・・・・ウ」


ここは雅宅一階。僕が数刻前に訪れた場所。ゆえに、遺体の彼女(・・)は、今もそこで佇んでいる。


ミヤビの心がソレを捉えた、その瞬間のことだった。心臓を貫かれ、意識朦朧としていることも気にも留めず・・・今までに見たことないような、荒れ狂う心をもって、けたたましい叫び声を上げた。


「あ・・・あ゛あああああ!!!・・・・ああああああああっ!!!!?」










罪悪は憎悪に勝る。


ああーーーーーーーー全くもって、その通りだと思う。


憎悪は所詮、時間と憔悴が忘れさせてくれるもの。一方で罪悪は、自身がやったという『その事実』が過去にこびりつく限り、永遠に刻まれるもの。傷の舐め合いすら許されず、己ただ一人で噛み締め続けなければならない呪い。


そんな絶望を・・・・・一瞬たりとも、死にゆくミヤビに味合わせるわけにはいかない。












遺体へと駆け出そうとするミヤビ。しかし、心臓部を貫かれた死に体では、起き上がることすらままならない。激痛は並々ならぬものに違いないのに、それら一切を気にせずして・・・・彼は這い進んだ。


「み゛・・・う・・・なんで・・・・なん、で・・・っ!?」


彼の心にて繰り返される『何故』。未だ記憶がはっきりしているわけではないが、時間と比例して鮮明化していく思考は、いずれ『ミヤビ自身が彼女を殺した』という事実に気づくに違いない。


だから今・・・・ミヤビの事実認識が曖昧な今、その記憶を塗りつぶす(・・・・・)


血反吐を吐きながら這いつくばる彼へと、僕はソレを告げた。


僕が殺した(・・・・・)。」


「・・・・・・・・・ぁ・・・・・は?」


「僕、が・・・ミウを殺したんだ。」


今宵初めて、僕は本物の嘘つきになる。


そして、ミヤビに対し、今まで明確(・・)な嘘を付かなかったという事実は、騙しの一手として最大の切り札となった。


「・・・・・・嘘・・・だ」


「嘘じゃない。知ってるだろう・・・・僕はそんな嘘を付かないって。」


らしくなく、嘘を本当(うそ)で塗り固める。ソレが、愚者のやることだと分かっていても、成さなければならなかった。


「だ・・って・・・約束・・・」


「そんなもの、僕は忘れた。」


小指の無い、震える左手を握りしめる。


「ありえねえ・・じゃあ・・・なんで・・・・なんで殺し・・・」


「人を殺すことに、理由なんている?」


上擦りかけた口を噤む。ミヤビは勘がいい。だからこれ以上は・・・・何を言われても、何を言いたくても、喋ってはならない。


「な゛・・・んで、」


「・・・・・・」


「な゛んで、だよっ!!!?おま・・・え、あの子の兄ちゃん(ちゃんにー)じゃ、なかっ・・・たの・・・がっ!!」


怒りに強張った両腕が、僕の襟を掴む。無理な上体起こしにより、吐血混じりの咳き込みに苦しむも、その剣幕が緩む気配もない。


「だから、俺・・は、・・・おま・・・え゛・・・が・・おま・・・えを・・・しんじ・・・て・・・だが、ら」


目尻に集う涙が溢れ、頬の筋を伝い、襟を掴む手甲へと至る。ソレでも僕は、ただ冷徹を装い、ミヤビの瞳孔を見つめる。震える心象が悟られぬよう、舌を噛む顎の強張りを、できる限りに隠して。


「しん、ゆう・・・なんかじゃな・・きゃ・・・・そも・・そも・・・お前、は・・・お前・・・なんか」


「・・・・・」


激情に熱くなる喉が、酷い『えづき』を生じさせんと、咽頭で暴れる。這い上がるような『痛み』を、何度も何度も飲み込む。『何を言われたって動じるな』と、心の中で叫び続ける。


これだけが、僕にできる最善手なのだ。ミヤビを罪悪に苛まずに済む最善手であり、苦しませずに逝かせる、唯一の手なんだと・・・そう自身の胸に言い聞かせて、



「おま、えなんか・・・たすけな・・・けれ・・・・・・・・・ ()



「・・・・・・・・ぁ」



・・・。

・・・・。

・・・・・。

・・・・・・違う。


こんなもの・・・・こんな離別、が理想的?こんな最期の見取り方が?憎しみに苛まれる彼を見なければならない、この今が?


「・・・・・違うん、だ・・・ミヤ、ビ・・・」


つい出た本音は、僅かなもの。嘘として誤魔化すなら、まだ間に合うもの。


しかしてソレは、蛇口栓のようなもの。中途半端な否定の意が皮切りとなり、ぽつりぽつりと、口から本音が這い出てきた。


「違う・・・嘘・・・なんだ・・・僕のせいで、僕の力の、なさ・・・で・・ミウを、死なせた・・・けど、そうじゃなく・・・て、けど・・・・どう言えばいいかわかんないんだ・・・・だって・・・僕は傷つけなく・・・ていや、だか、ら・・・」


しどろもどろな口上。思いつく単語を片っ端から並べたような、取り止めのない台詞。ミヤビがこの本音をどう受け取るかが怖くて、不器用に宣うことしかできない自分。そんな自身を鼓舞し、『言うべきこと』へ覚悟を決める。


そうして、襟を掴んだままに項垂れた、ミヤビの肩を掴み・・・・その顔に向き合おうとして、


「・・・・・・・ぇ?」


肩を触れた際に感じる、凍りついた肌感触。そして、怒りに歪んだ貌の、瞳孔に浮かぶ空洞。その奥底には・・・・魂のあるべきその位置には、何もない。


つまるところ・・・・・・・・ミヤビは、すでに事切れていた。僕への憎悪を、最期の心象として。


「み・・・・や、び?」


心を読む力は最後の最後まで、正しく機能する。たとえ心を読むために、どれほど目を凝らそうが無駄なのだと、心の内で嘲笑を繰り返す。


しかし、ソレを分かっていてなお、僕は目を凝らし続けた。


「ミヤビっ!!!」


喉の張り避けんばかりの勢いで、僕は親友の名を呼ぶ。肩を揺さぶり、『未だ生きているかも』という万一の可能性を探った。正確には、そんな愚かな虚構に縋ったのだ。


そうして熟考へ拍車をかけるほどに、ミヤビの絶命を思い知らされた。


「・・・・・・・は・・・は」


口から漏れる、上擦るような乾いた笑い。泣け叫ぶわけでも、無言で啜り泣くわけでもない、全くもって不誠実なそれ。その要因となったのは、ミヤビの最期の言葉。


「僕、が・・・・・助けられ、なければ・・・・・・か」


その最期の言葉をもって、心に呼び起こされた、あの時の口上。


ミヤビの勇気によって、僕は、シラマキの狂刃から命を救われた。それを後悔していないか、ミヤビに尋ねた際の解。屋上でミヤビが自信満々に言ったその、決意表明。


「・・・・・ああ、その通り・・・だろう、な」


思い返した、その台詞は・・・・・全くもって、最高(さいあく)の皮肉だった。


『俺はな、てめえを助けて死んじまっても後悔しなかった・・・・いや、違うな。後悔しねえよ、これから何があっても後悔しねえ。絶対にだ。』(第2話:最高の皮肉 より)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ