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第17話:愛和優

愛和優・・・今作の主人公


〜これまでのあらすじ

少年は決断する。

曇天を目立たせぬと宣う、夜の(とばり)

悲観的情景を嘲笑う、風の縛り。

熟れた思考で揺蕩う、愚者が独り。


「・・・・・・・・」


「おい!!ここを、どこだと思って・・・・!!・・・・あれ?・・・・アイワ、か?」


親友宅の屋上階、月も見えぬ空の下にて、僕は在た。

物音一つ立てずして、ここに来たわけだが・・・ソレでも察知できる親友の勘は、賞賛ものだ。


「どうやってここに来たんだ?・・・」


「川島さんがピッキングしていただろう?僕もできるかもって・・・ちょっと外階段の方で、見たまんまやってみた。」


「見たまんまって・・・この犯罪者予備軍め。」


「褒め言葉として受け取るよ・・・・・ソレよりさ、」


口に咥えた白い紙棒を取り外し、そっと息を()く。そうしておもむろに、ミヤビの方へとソレを向けて


「ミヤビも吸うかい?」


「お、お前未成年喫煙・・・・・・・・って、ただの棒キャンディじゃねえか。なんだよふぅーーって。」


「・・・ふっ」


予期通りすぎるツッコミに、思わず苦笑する・・・・予想以上に、乾いたソレだったが。


釣られて笑いかける親友に、同種のキャンディを放り投げる。危なげなく受け取ったソレから、すぐさま包み紙を取り外し、噛み砕いた。


サンドイッチの件といい、そのがめつさは相変わらずだ。


「てかアイワ、てめえどこ行ってたんだよ・・・・明日墓参りで、その後は花火ってな覚えてるよな?せっかくの土日前だ。早めに寝なきゃ、損だぜ。」


「ああ。そうだったな・・・・・・・うん、そうだった。」


もしかすれば、


もしかしたら、


寝て起きれば、そういう明日(あす)が来るのかもしれない。


ここで今、親友と話していることも、見てきた情景も、今ここに立たなければならないことも・・・・・全てが夢で・・・・あぁ・・・・・夢だったら、よかったのにな。



だから、



「夢は、おわったんだ。」



「あん?」



親友の内側にて燻る、蒼い心象を、見とめる。

幻想に縛られ、怪物となった彼の前に、立つ。


「『起槍』」


「・・・・な!?」


その口上をもって、煌めく硝子玉。瞬き一つ起こせぬ間に、金槍は形を成す。

驚愕する親友の君。その内側で、沸々と唸る蒼い靄。


「ありがとうミヤビ。」


「は?」


最高で最低に不義理な感謝の意。

戸惑いに濡れた心に応えるように、僕は口を開いた。



「正々堂々・・・・・・お前を殺しにきた。」



成すべきと定めたソレを、宣うために。






「・・・・そうカ」


器から溢れる蒼い衝動。魂の底で見なされた『当たり前とは程遠い』今。その全てを、親友は拒絶する。


「ずット・・・・キニあ・・・・ッダ・・・・ユメで、見た・・・ニセ、物は・・・・」


「・・・・・・・」


親友の内に見える情景。その先で見とめられた僕の・・・・その身姿が、真っ黒に変色する。そうして、僕の在るべき地点で蠢く、影のような不定形。人の形から遠ざかったそれは、親友の前に立ちはだかっている。


「それが・・・『都合の良い幻想(ゆめ)』、か」


愛和優を『悪』とみなすことで、成り立たせる殺意・・・・それが『親友の日常』の一人として似合わぬ僕を、粛清するための原動力。なるほど、『夢見薬』とは全くもって合理的だ。


「こうでもしない限り、お前が・・・僕を殺せるわけがないもんな。」


「よく・・・モ、アイワの(なり)・・で、・・現れた、ナ・・・!!」


膨れる敵意。『到達者』としての異次元の異能。

その脅威に臆さぬ程、できた人間ではない。震える手指を誤魔化すように、『最優の反則手(シャガラグチ)』を強く握り締める。


「そうさ。僕が敵役だ。じゃあ・・・・・・・・行こうか。」


始動に震える彼を待たずして、その先へと駆け出した。











魔女を凌駕する到達者の強さを、完璧に把握しているわけではない。ただ少なくとも、僕が対処できないソレなのは、間違いないだろう。


ゆえに、唯一の勝機は『本気を出される前に、殺す』のみ。


「ーーーーずぁ゛っ!!」


踏み出した先で、『最優の反則手(シャガラグチ)』を投擲する。槍投擲の心得はないが、この至近距離でなら正確な座標に打ち込むことはできるはず。


「・・・ヂっ・・・ぃ!?」


不意の投擲物にたじろぐ親友。しかし、キセキによって強化された超感覚は、飛来物への対処へ迅速に意識を切り替える。『揚げ受け』によって片肘を上方に遷移させつつ、その槍を捉え、弾こうと試みる。


その手首が、槍の付根の三寸先にまで至ったところで・・・・僕は再度口を開く。


「『(むすび)』」


「・・・な゛!?」


先程と異なる口上(のち)、金槍が再度硝子玉へと変異する。


硝子玉と金槍の、体積比の甚だしさ。それは、弾き防ぐ難易度の差異に比例する。長物を防がんとして、意識を研いだ彼の腕が空気を切る。そして変化前後の質量がほぼゼロゆえに、『エネルギー保存則』に準じたソレは、ほぼ同加速度で彼の額に直撃する。


「・・・・っグ・・!」


到達者からして、おそらく猫騙しレベルの投石。とはいえ、眼前に来るそれに意識せざる得ず。

彼の心象は、投擲位置から間近に至る、僕の姿を読み逃した。


「歯・・・食いしばれ・・・・」


疾走の最速地点(トップスピード)を利用し、彼の顔面へ拳を振り抜く。自身の全体重を携え、水平から下方へと移行する、腕の軌道を描いた(のち)、親友の身体が地へ叩きつけられた。


「・・・ガ・・・ギっ!?・・・オマ、エ・・・」


拳の位置を除いた(・・・・・・・・)、自身の身体位置を下方へ。


振り抜き後の拳の型を解き、すぐさま掌付根位置を剥き出しに成す。『掌底』の型を成したソレは、身体の総重量を乗せて、上方から親友の胸部へと振り下ろした。


「グっ・・・・!?」


殺し合いである以上、ここでの『勝負あり』は存在しない。親友の上体に跨り、その強靭な身体を取り押さえる。掌底を降ろした方の手指で、上服を掴む。


そして、一瞬で低空位置に至ったために、もう片方の掌へと、吸い寄せられるように落ちていく硝子玉。


「『起槍』」


装填された力みが伝わり、『最優の反則手(シャガラグチ)』が再展開がされる。


絶好の位置、絶好の瞬間(タイミング)、絶好の敵の様相。狙うは一点。『勝リ者』であろうと、凡夫と共通の、致命傷になり得る身体重要機関。


「心臓、なら・・・!!」


「ナ・・・・!?」


勘付いてか、焦燥に顔を歪ませ、身体を強張らせる親友。しかし、危険察知には一手遅い。

上体中心部やや右寄りの、皮下が心臓位置にあたるそこへ狙いを定める。


「・・・・・っ!!・・・はぁっ!!」


そうして・・・・燻る躊躇を飲み込み、その金槍を振り下ろした。











無防備な胸板に降りる切先。迷いの残る腕の振るいとはいえ、『致命傷』に至る・・・・と思っていた。人体から鳴り得ぬ、金属の弾かれたかのような衝突音が、ソコに響くまでは。


「嘘・・・!?」


切先の刃は胸部の肉を通せず、制服を貫いた所で留まった。予測し得ぬ結果に、驚愕が走る。


質量が硝子玉並みとはいえ、鋭さでいうなら、学ランや制服を軽々と引き裂く規格はある。フランとの立ち合いにおいても、迫り来る剣の猛攻を耐え抜く強靭さもあった。というか、そもそも全体重を乗せた時点で、『最優の反則手(シャガラグチ)』の性能云々関係なく、貫けていたはず。


いや・・・・ある可能性を考慮するならば。


「ジャマ、だcあcあ、ぁぁぁぁァァァあぁ!!!!」


「・・・ぎっ!?」


水平方向にかかる重力に、思考が止まる。蚊を払うような心持ちで、僕の身体を真横に薙ぎ払う。彼の心象感覚とは反比例する、脅威的威力に晒された僕の身体。端の網にまで叩きつけられ、支柱を半壊させた。


「痛っ・・」


上体起こしに意識をかけた瞬間に、身体に響く鈍痛。『心象読み』の激痛とは異なった、身体の致命的箇所を傷つけられたという、焦燥と不安の混ざった苦痛。おそらくは上体節々の骨にでも、ヒビが入ったか。反射的に槍を挟むこみ、衝撃を阻害した上でこれ。仮に『全力』をまともに食らったのなら、致命傷は避けられない。


痛覚を『意識しない』ように、在り方をアップデートする。立ち上がった(のち)、親友を見とめんと顔を上げる。


「あ゛アアアアアっ・・・・!!!!」


「なっ・・・!?」


屋上階の地表が、ただの『踏み込み』だけで崩壊する。驚愕の意に駆られる僕をよそに、親友は再度僕の懐へと接近していた。


弾かれたように構えた金槍。勘に等しき咄嗟の防御が功をなし、拳の激突にすんでの所で間に合う。そうしてそのまま、金属の衝突音が耳に劈き、


「え?」


全く同じ二度目の衝突音(・・・・・・・)を耳に携えて、視界は屋上階を見上げていた(・・・・・・)


「がぁっ!・・・・だぎ・・・!?」


直後、背面を打ち付けられた感触を覚え、今自身が屋上階から外庭へ。叩き落とされたことに気がつく。背面強打により、黒に染りかかった視界で散る火花。しかし、停滞は死を意味するために、思考の再展開を余儀なくさせられる。


「い゛ま・・・音が・・・二つ」


背面の強打音ではない。微かだが確かに、『金槍と拳のぶつかる音』が二度鳴った。その二度目が『下階に落ちた際に起こった』のであれば、考えられる現象は一つしかない。


「吹き飛んだ僕の身体が、音速(・・)を超えたのか・・・ほんと、馬鹿みたいな力・・だ・・・」


震える身体に鞭を打ち、上体を上げる・・・上げざるを得ない。なんせ親友が、屋上階から脚を振り下ろすように迫って来たのだから。


「回避・・・いや」


攻撃を避けるだけなら容易だが、おそらくそれだけでは足りない。飛翔する彼の姿を視界へ捉え、即座に、衝突点から遠ざかるように試みる。先程の拳の威力をもってすれば、被害など想像を超えるであろうと予期して。


「・・・・ぁ゛・・!!」


予想通り予想以上(・・・・・・・・)の破壊力で、中庭の地表が踏み砕かれる。崩落による地割れに巻き込まれまいとして、団塊へと変化しつつあるその先を駆ける。


しかし・・・・・着陸後即座に、彼の意識が僕の身姿へと遷移する。その心象を感知し、僕は『視界に捉えるセクション』すら省いて、側方に転がる。


「シネ・・っ・・・!!」


その零コンマ数秒程度も経たぬ内に、親友の拳が先ほど自身の居た位置を捉える。途端に、その先は爆風に見舞われ、蔓延る瓦礫片の数々を消し飛ばし、視界の隅々までもを更地に変えた。


まさしく天災の如き脅威。けれど・・・・これ以上驚愕なんぞに、思考を回すな。天変地異のようなその剛力ならば、隙の一つは生じる。ほぼ凡夫に等しい自身の身体機能を鑑みるのならば、その数少ないソレを逃してはならない。


「隙やり・・・・だ」


起きざまで投擲の型を成し、即座に親友の首元を狙う。『投擲』ではなく、『投擲の(フォーム)』で刺す会心の一撃。槍を扱うのであれば、まごう事なき最大火力。さらに胸板のように『致命的部位』に、人骨に阻まれることはない。


だから、


「・・・なんっ・・・・で!?」


先ほど同様、『人体から鳴り得ぬ』衝突音。耳に劈くソレを携えて、頸の前で弾かれた金槍。自身の想する一手が届かぬ今に、戦慄した。


「シっ・・・・・・コイ・・・だぁ?」


振り向きざま、放たれる拳。先程の破壊力を鑑みるなら、槍一間に挟んでの防護では、肉の型を保てないことは予期できる。しかし、完璧に回避するには、思考や身体機能が全くもって足りていない。


「ぐっ・・・そ」


反射的な防御姿勢。ソレが僕のでき得る、苦肉の最適行動。全身を駆け巡る衝撃をもって、僕は後方に吹き飛ばされた。大規模な粉塵を巻き起こしたそれは、親友宅の壁面にまで至る。


「・・・・がぼ・・・ぽぽ・・・・・ぐじゃ・・・あ゛・・・」


先ほどの落下時点から、なんとか堪えていた反射的吐血衝動。二度目は流石に飲み込めず、咽頭が酷く暴れた。だが・・・・身体の節々を荒らしながらも、未だその五体を保っていた。


「さっきより・・・威力が・落ち・・・まさか・・・・」


先ほどの『周囲を更地に変えた一撃』と、今の攻撃・・・・そしてこの二つの明確な違いは、その攻撃の先に『親友宅』が在していること。そもそもこの親友宅だけが、未だ綺麗な状態で残っているのも不自然だった。


「無意識・・・でも、・・・傷つけまい、としているの・・・か?・・・・この、家を・・・?」


親友にとってこの家は、何よりも守るべき『当たり前の象徴』。それに親友にとって、妹はまだ『生きている』認識。偽りであろうと、幻想であろうと、被害が向かないようにするのは、ある意味当然のソレだった。


「・・・・・」


二者間の粉塵は未だ形を保っている。身姿が不透明な今であれば、一時的にこの場を離れることも許されるはず。親友の超人的五感に見抜かれるように、気を配りさえすれば。


「・・・・・むぐっ!?」


突如として思考を奪う、肩を駆ける激痛。既存の負傷によるものではない。要因は、飛来する弾丸・・・正確には小石程度の団塊であった。親友が意図して飛ばしたものであれば、心象から察知できる。つまり、これは『小中学生のやる石蹴り』のような、殺意無き気まぐれか。


その『気まぐれ』は、鎖骨と肩峰位置の間あたりを捉え、粉砕した。あと三寸ズレていれば、先に心臓を貫かれていたのは、僕の方だっただろう。


「・・・なんとなくで、簡単に死ねるなんて・・・たまったものじゃない・・・ね。」


改めて自身の命が、親友の気分に掛かっていることを実感しつつ、壁面を沿って後方・・・・宅の裏側へ駆けた。






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