表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/25

プロローグ(転結)

雅 正人(ミヤビ マサト)・・・・アイワの頼れる大親友。一人称は俺。

愛和 優(アイワ ユウ)・・・・ビビリの中学生。丸坊主。一人称は僕。語り手。

川島さん・・・・警察官。僕らを守ってくれる大人。頼りになる人。一人称はオレ。


〜これまでのあらすじ

デパートにいたミヤビとアイワは、自分たちが牢獄にいたことに気づく

同じく牢獄にいた川島さんと合流。

現在脱出中。アイワ君が死体に(おのの)く自体もあったが、川島さんの励ましで進んだ。





「・・・・これは」


扉の大きさ(スケール)からして、小部屋のそれのように思えたが・・・・実際の領域幅は中々のもの。驚愕の元種は、それだけではない。何かしらあると予期したその部屋はに、物陰の一切が存在しなかった。ことさら奇異だった点は、古びた廊下からは予想できないほどに、綺麗な部屋であったことだ。


「川島さん・・・」


「ああ。まさかなーんもないとはな。せめて窓とかあれば、脱出とかできたってのになぁ・・」


「引き返しましょうか?廊下は反対側の道もあったはずです。そこからなら、きっと出口も。」


「いや待てアイワ・・・あるぞ出口。」


「?」


振り返ると、ミヤビが壁に耳を近づけている様子。ノックを繰り返しながら、壁際に沿って歩を進めている。


「お前さんそれ・・・・ノックして探知するとか初めて見たわ」


「ノックで探知?」


「そうや・・・帰ってくる音で状態を把握するってなあ・・オレもできへんよ。」


「・・・・・二人とも静かに頼む。」


口を閉じながら、内心にて首を傾げた。


ミヤビとは長い付き合いだが、そんな特技も、耳がいい、だなんてことも聞いたことがない。隠れて練習でもやっていたのだろうか?・・・・・だが、できることであれば、何でも自慢するミヤビのことだ。


ミヤビの技法を知らないだなんてことが、本当にあるのだろうか?


「・・・・・・ぁ」


「よし、分かったぜ旦那!!」


僕の思慮を他所に、ミヤビは壁のある一点へ、何度も蹴りを入れる。軽い凹みが加えられたかと思えば、ヒビの領域が少しずつ大きくなる。数度その蹴りを繰り返したのち、一人分が入れる程度に広がった。


「よっし!!これで通れんじゃあねえの?まあどこに繋がってるかは分からんけどな」


「なあミヤビ・・・」


「ん?どうした?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、やっぱいい。脱出してから後のことは考えよう。」


「おうよ。」


疑念を持つのは最後でいい。今は、ここからの脱出を考えるべきだ。


思考を切り替えて、穴の中へと侵入する。その様子に何や言いたげなミヤビ。しかし、今の僕がそれを話す気にないことを察してか、これ以上追求することもなかった。


外の空間は、先ほどの廊下と同様に古臭いもの。加えて、どこから湧き出たのかも分からない、(さび)混じりの水が張っていた。先が見えないという点においては、先ほどの廊下と変わりはないが、行き止まりでないだけ幾分かマシだろう。


「お前さんら、ちょっと後ろにいててな。」


こちらに一瞥もくれず、中腰のまま僕らの前に立つ川島さん。


「?・・・どうして・・・むぅ」


聞き返そうとした僕の口をミヤビが抑える。その真意は、ものの数秒で理解できた。


「■■〜〜〜〜〜■ァ〜〜〜」


辺りにつんざく奇妙な声・・・・いや、この綺麗に間延びしたそれは、ある種の唄に近い。


「・・・・まさ、か・・・」


沈黙を破り、駆け出す川島さん。一瞬見せるその横顔は、今までの様子では考えられない程に、焦燥を帯びていた。


共に一瞬呆ける僕らであったが、その唯ならぬ様子を放っておけず、その先を駆け出した。











はじめに反応したのは、廊下の時と同様に、嗅覚だ。むせ返る生臭さを鑑み、その先の景色に覚悟を決める。そうして、顔を上げた先には、


「これ、全員・・・・」


先程の『残酷に中身が飛び散った』状態ではない。それでも、『遺体の山』を目の前にしたのなら、たじろぐのが普通だ。


「アイワ・・・・これデパートの奴らだよな?だってこれ」


遺体の山の内、制服姿の者に指を指すミヤビ。確かに、その小綺麗なネームプレートは、従業員しか身に付けないもの。ならば、それ以外の彼らも、デパートにいた者と考えていい。


「ミヤビ・・・・生きているか?僕はその・・・触りたくないというか」


「・・・同感だ。って、俺にその役振るなよ!・・・まあでも死んでるって考えたほうがいいぜ。だってコイツら、死体の匂いがする・・」


そういう(・・・・)種類の匂いを、識別できる嗅覚は持たない。しかし、キッパリと忘れられるほどに、僕の頭は都合よくできていない。あの時・・・牢の内にいた凄惨な光景。それは視覚だけでなく、嗅覚にも焼き付いていたのだから。


「それでも・・・・もしかすると、生きている人がいれば」


「ああ・・・・そう言われりゃあ、生者が紛れてるかもって可能性は否定できないがな・・・ただ、そいつらを助けるってなら、一度脱出して、身の安全を確かめてから・・って川島の旦那?」


ミヤビが言葉の端に疑問符を置いたことで、川島さんが見当たらないことに気がついた。しかし・・・・死体の山々によって、身姿が見えていなかっただけで、そう遠くない場所に、彼はいた。



ただ一人、少女の体を抱き抱えて。



「ぁ」


「わかな・・・わかな!!よかった・・・本当に無事で・・・」


人らしく可愛い顔立ちで、人らしく寝息を漏らすソレを、川島さんは強く抱きしめている。


「川島さん」


「川島の旦那!!よかったすね!!娘さん見つかったってんなら、万々歳じゃないですか!」


「おうよ!!じゃ、ここを」


「離してください・・・」


「え?・・・あれ?アイワく」



“縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺縺?◆縺?縺阪∪縺”



「いいからすぐに離せ!!!」












骸の少女は、顔の穴という穴を拡げる。ゼラチン状の黒液を垂れ流す目尻には、人体にあるべき目玉を携えず、虚空の黒が僕らを捉える。泣き叫ぶためなのか、僕らを嘲笑うためなのかも分からぬその口は、頬を強引に裂くほどまで広がっている。


直後、ソレは産声を上げる。あらゆる生物に属しない・・・強いて言うならば鯨の叫びに近い、神秘的轟音。


「あ」


呆けたように川島さんは声を漏らす。きっと僕らも、彼と似たような心情だった日がいない。


どろりと床に落ちていく黒液の量と対照的に、少女の体が徐々に萎んでいく。まるでソレらが、自分を構成した全てであったかのように。


「わか・・・な?・・・おい、どこ・・・・に・・」


「嘘だろ・・・・何だよこ、れ・・・・なあ、川島のだん、な」


「なんの冗談や・・・これ、なあ!!」


膨らみを失った衣服を握りしめ、川島さんは叫ぶ。その心象は、今までの態度を裏切るかのように、焦燥感に支配されていて。


「は・・はは・・どこに行ったんや?・・・なあ、冗談なんやろ?・・・こんな・・こんなふうな・・・・こんな悪趣味なこと教えた・・・覚えは、ないんよ?」


「川島さん・・・・娘さんはもう・・」


「あ゛?」


予期した事実を交えたセリフを閉める・・・・その前に、川島さんの怒声が、ソレを妨げる。


「だ・・・旦那?」


「オレのわかなが、何やて?・・・もう死んだとでも言いたいんか!?」


たった今、目の前で、娘に似たソレを失い、焦燥に狂った川島さんへ、届く声はない。苛立ちの混ざる態度で、僕へと掴み掛かろうした、その瞬間だった。


「え?」


川島さんの周囲を占める黒い泥。ソレらが少しずつ気化していく。


いや違う、蒸発したのではない。なんせ初めからこれらは液体などではなく、小さな『蝶』の群れだったのだから。


蝶は宿木を失った。ならば次の行動はどうするか、実に簡単な話だ。


「あ゛ああああああああああああああああああああああ・・・・!!!!寄るな寄るな寄るな寄るなア!!!!」


次の宿木として見つけた極上の餌。『いただきます』の対象は、川島さんだった。


必死に追い払おうとするも、群れを成して襲いかかる蟲ども。無数のソレらを、たった二手だけで追いやろうとすることなど、できるはずもなく、


「やべ、・・やが・・・ぁ・・」


口を塞がんとする舌が、食いちぎられる。払う手は噛みつかれ、その傷口から侵入される。侵入を阻害する目玉が突き刺され、虚空になった穴へと入り込まれる。


十秒にも満たぬこの凄惨な光景に、僕もミヤビも動けなかった。身体的な問題ではない。この中で誰よりも勇敢だったあの人が嬲られている今に、頭が追いつかなかったのだ。


川島さんの声量に比例して、群れる蝶達の姿は徐々に減っていき、やがて飛び回るものは、一匹たりとも見えなくなった。


「あ・・・あ゛・・・なぎご・・・びえな、い・・・うぶ・・・ゔぉ、え・・ぁ」


口を抑える川島さん。その吐き気を抑えようと・・・いや、舌も失われた口では抑えきれずに、結局吐いてしまった。しかして、その吐瀉物の量が異常。どう見ても人間が一気に吐き出すものとしては、明らかにおかしい。まるで、もう人の食物など受け入れることのできない、というような。


「ば・・・あ゛あ・・・ああああああ・・・・いやだいやだいぎゃだ・・・!!じにだくない・・・じに・・・あ・・あああああああ!!!・・・・からだがいだ・・・い!!」


肩甲骨にあたる、背中の瘤が膨らみ蠢く。異様な体の伸縮は、その箇所だけではない。全身のあらゆる器官の流れを無視して、ナニカが体の中で這い回っている。もうこんな器には、抑え込めないというように・・・その孵化が始動する。


「ごんだ・・・バゲ、ものに・・・なりだぐ・・・ない・・・・オレ・・・ば・・・・にんげんな゛んだああ!!!」


それが最後だった。


衣服がはち切れる勢いで肉体が弾け、霧散する。人の血液かも分からぬ黒いソレらが、僕の目に飛び込んでくる。それは、人体には、『ここまで水が詰まっている』という事実を、再認識させるほどで。


先ほどの虫のことがあったため、液ができるだけ体内に入らぬように、急いで目を擦る。そうして、ぼやけた視界を整えた上で、そのさきを見据えた。


「・・・・」


破裂の中心部。


川島さんがいた場所に在るは、脊髄や心臓、脳といったような人の核にあたるそれではない。


白い木の根のようなナニカ。それがこんがらがり、固まり、まともな両脚の無く、しかして体積が並の人間程度の人型を成して立っている。


奇異と判断すべきは、その姿だけではない。返り血・・・もしも今、ソレが川島さんから出てきたものならば、多少なりとも染みいるのが当然だ。だというのに、ソレは真っ白な姿で、僕らの前に立っている。まるで、僕らの瞳に『その姿』が描かれているだけだと、錯覚するほどの異物感。


“御馳走様”


「え?」


その声は間違いなく、川島さんのそれ。その怪物に口と呼ばれるそれはない。ならば、どこか・・・


「アイワ・・・っ!!!」


ミヤビが何か叫んでいる・・・その声に応えようと唇を開いて・・・・・その口筋に何か赤黒いものがこぼれ出す。


「・・・・・・・・ごぽっ・・・」


思考が止まる。ありえざる状況に脳が追いつけなくなったからでは無い。

胸部・・僕の右胸から突き出ていたソレ故だ。


強烈な痛みに、立つことすらままならず、膝から崩れ落ちる。その要因となった背後を振り返る。発生源にあたる箇所から、形状変異した床の一部が、鋭利なものとなって、僕の胸を貫いていた。

プロローグにしちゃあ長いよね・・・(猛省)

あと場合によっては、ちょっとこの残酷描写の部分のナーフは考えます。


感想や評価をいただければ、励みになりますので、よろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ