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第15話:雅正人

〜これまでのあらすじ

ミウのXXを見た。

アンナ曰く『彼はステージ4に目覚めかけている、これは絶対に止めるべき』

アイワの、『元に戻すよう努めるべき』という声も聞かず、アンナはいってしまった。

「・・・」


アンナが扉に向こうに消えて、数時間が経過した。

一向に戻らぬ様子を見るに、まだミヤビが殺されていないと信じたい。しかし、魔人や魔女による襲撃が後々控えていると考えられる以上、状況は時間と共に悪化していくと考えていい。


しかして未だ僕は、液体金属の硬直で、壁に貼り付けられていた。


「あの魔女の・・・ようにはいかな、い・・・な・・・」


昨夜の戦いにて、『小さな巨人(リ・ミクロン)』の硬直状態をものの数秒で打破しかけたフラン。アンナの言葉から察するに、マブを肉体に循環させて肉体強化を図った結果なのだろう。しかし当然ながら、そんな器用な技術は、僕の中に存在しない。


「何か手は・・・」


停滞の打破に繋がる一手。ここまで踠いてどうにもならないのであれば、自力での解決は不可。周りの状況全てをインプットし、解決策を導かなければならない。


「そうだ・・・・硝子玉に・・すれば・・・」


拘束の直前、僕は咄嗟に『最優の反則手(シャガラグチ)』の元種にあたる、硝子玉を握っていた。その握り拳は、多少その液体金属に巻き込まれつつも、その半分程は僕の視界に届いている。


最優の反則手(シャガラグチ)』の起動条件は『マブの注入』。生憎と『重点的(・・・)に物体へのマブを込める』等といった繊細な技術は持っていないが、アンナによる多少の調整を受け、『力強く握る』だけで起動してくれるようになった。しかし、握る手が中途半端に硬直したために、力を込めることすら儘ならない。


今から『物体付与』の技術を身につけるという手もあるが、現実的なのは・・・・


「ぎびちっ・・・・・!?・・・ずっ・・・」


舌を噛みちぎる。自死の執行とは異なるために、舌先一寸のみを噛み潰す。わずかとはいえ、剥き出しの体内機関を傷つけたために、血が口内で溢れた。


「・・・ぺっ・・」


痰を吐き出すように、ソレを拳の方へ飛ばす。尾籠なやり方だが、前例がある以上これしか手はない。


フラン戦の時と同様に、血が硝子玉に接触。瞬間、あの時と同様の『掌で虫が蠢くような気持ち悪い』感触を覚えた後、目にも止まらぬ速度で金槍が出現する。出現の始点は掌ながらも、先端はこの液体金属の中枢・・・核にまで達する。つまるところ、槍の貫通によって中心部から罅割れ、『小さな巨人(リ・ミクロン)』の硬直が砕けた。


「・・・っつ・・・ああ゛・・やっと解けた。」


起動において『マヴを手から込めること』だけが絶対条件ではない。血液内に『マヴ』が含まれているのなら、直接血液を付着させるのが適切だと考えた。実際に昨夜も、偶々付着した血液が金槍を呼び起こしたのだから。


「急がないと・・・」


脱出成功の達成感に浸っている場合ではない。服の金属片を払いつつ、先を駆ける。燻りの極まった焦燥感を抑えつつ、僕はその扉を開いた。












扉の先は、相変わらずの不動産屋の廃墟。もしアンナが万一を図り、『シャウトミジールの広場』に扉の行き先を変更するなどしていれば、完全に詰みだったのだが・・・僕があの硬直から逃れられないと踏んでいたのだろうか。


「・・・・・急げ・・・頼むから、死んでくれるな・・・・!!」


アンナの言葉を、どこまで信じていいか分からない。けれどもし、『ミヤビを元に戻す』道を模索すると宣言したのが、本心であるなら・・・・彼女も、ミヤビも踏ん張ってくれているはず。


「お前なら・・・・きっと戻ってくれる・・・・きっと、大丈夫だ。」


駆ける先は当然、ミヤビの実家。

まだ(・・)、対話が殺し合いになってないことを信じて、その先・・・・・を、駆け・・・・て。


「・・・・・・・・・な」


勇み足にブレーキを掛ける。


気持ちの落ち込みがそうさせたのではなく、道先が物理的に塞がれていた。未だ近所ともいえぬ場所・・・・だというのに、見知った建物が幾つも倒壊している。


最悪の想定が()ぎる・・・・・・少なくとも、戦闘が始まっているのは事実なのだろう。しかし、それでも・・・・・それでも・・・・限度というものがあるだろう。まるで天変地異でも起こったようなそれだ。


「ぐっ・・・・・」


しかしそんな被害の中で、人っ子一人見当たらないのが奇妙だ。スマホといった電子端末を持っていないため、ネット等から状況察知ができないことが悔やまれる。どうやら、自分の目で確認するしかないらしい。


瓦礫に阻まれた道を迂回しつつ、『なんとなく』の方角で目的地に向かう。倒壊した建物によって視界が狭まれるが、ある程度進めば、ミヤビの家まで見えるはず。


「あった・・・・・って、え?」


多少の道感()働いたからなのだろう。ミヤビの家はすぐに見つかった。しかし、多少歩を進めれば、仮に実家の位置を知らずとも、すぐさま発見できたに違いない。


なんせ、ミヤビの実家は・・・・・・・辺り一面が酷い有り様な中で、びっくりするほど綺麗に佇んでいたのだから。そんな奇異な光景は、僕から思考を奪うのには十分だった。


「・・・・とに、かく」


切り替えろ。思考を。今は立ち止まるべきではない


まずは家内だ。戦闘が今終息したのか、未だ続いているかが分かるかもしれない・・・・・アレ(・・)を再度目の当たりすることになるが、やむを得ない。見たところ扉が開いたまま・・・・・であれば、アンナが立ち寄ったと見ていいはず・・・・


「・・・んくっ!?」


敷地に入ろうと、再度歩を進めた瞬間だった。


背後にて、目に追えぬ程の速度で飛来する物体。僕の側方を通り過ぎ、道先に叩きつけられたソレは、凄まじい音を立てながら、瓦礫を引き摺り巻き込んだ。


ただでさえ夜に遮られた世界だというのに、(あか)の混じった粉塵が、殊更その視界を狭まる。


「・・・なん・・・だ?」


建造物廃品の底に埋もれるソレを見定めるために、足軸に方向転換を掛ける。妙に湿度の高い(・・・・・)赤霧を、奇異に思いつつ、足場の悪いその先をよじ登ろうとして・・・・靴裏を浸す、粘性の赤に気が付く。


「・・・・・これ、は・・・」


足場にあたる団塊たちが、血を(まぶ)されている。それも節々ではなく、並々ならぬ範囲を。霧状の赤も含むのならば、その主が甚だ酷い有様なのは、考えるまでもない。その『主』が、その先に埋もれる誰かであることも。


最悪の想定は少しずつ、実を結ぶ。


「ミヤ・・・ビ・・・」


身体を鞭打ち、瓦礫を機敏に駆ける。進む度に酷くなる血量に目もくれず、粉塵の中心部へ向かう。ただ一握りの希望を・・・・予測が外れて欲しいなどという、淡い期待を胸にして。


「・・・・ゥ・・・」


微かな声がした。


息がある。生きている。それだけで儲け物。今はそれでいい。


そう、自身に言い聞かせ、僕はその窪みの底を・・・・その『誰か』を見た。





「・・・・・え?」






予想は外れた。

最悪の想定は免れた。

そのさらに上を超えて。


「ユ・・・・ゥ・・・・な・・・んで・・・・ここ・・・に・・・・」


覗き見るこちらへ語りかけるその声は、生者としては余りにも脆く、弱々しいそれ。酷く掠れて判断しかねるのが常だろうが、少なくとも『女性特有の高い声』であることくらいは分かった。


「・・・・アン、ナ・・・・・・・?」


霞がかった月光が、奥底に佇む彼女の全貌を映し出す。


食紅に満ちたバケツを被ったように、総身が塗りたくられている。整った顔つきを台無しにする、傷んだ乱れ髪。肢体の節々を赤黒く染め、腫れ上がったような様。


そして何より、その五体のうち・・・・・・右膝の先が欠け、血溜まりを成していた。


「どうして・・・・あな、たが・・・・」


違う。僕が想定していたのはこんなイメージでは無かった。()のはずだ。


これではまるでミヤビがーーーーーーーー


「お?アイワじゃねえか。」











死。


聞き慣れたはずの声、相変わらずの心象、相変わらずの雰囲気・・・・・だというのに、最初にイメージせざるを得なかったソレ。


心に描くは、僕の瞳に映す情景と大きく対照的な『平和で平凡な夜の道』。そんな『あり得ざる当たり前』を『都合の良い世界』として自身で信じ切っているからこそ、その奇怪さに拍車をかける。


シラマキ、エルシー、フラン、アンナ・・・・・今まで対峙した『勝リ者』達とは比較にならない、遥か別次元の存在感。そう断言できるほど、背後の彼は異質。


少なくとも、振り向けば間違いなく殺される。出会い頭、僕にそう感じさせる程の脅威。


「おぅい・・・どうしたってんだ・・・・?・・・無視ってのも傷つくってな。」



僕は生まれて初めて、親友に恐怖した。



「・・・・・・ぁ」


一言・・・・というよりも、一挙手一投をこなす度に、動悸が走る。言葉を発しない時間が長引くほどに、親友の心象・・・・内で燻る『蒼い何か』が大きく広がるのを感じる。ソレが溢れれば、更に凄惨なことが起こると予期し・・・・僕は、重い口を開いた。


「ミヤ・・・・・ビ」


「おお!!そうそうミヤビ君だぜ・・よかったよかった、てっきり人違いだったらどうしようかなんて、感じちまった。」


「・・・・・・」


きっと親友の言葉は、()の本人の意図とは異なる形で、正しい。


僕が『人違い』で『愛和優でない』と判断されていた場合・・・・・僕はその瞬間、凄惨な末路を辿っていたのかもしれない。


「ミヤ、ビ・・・勝手に、どっかに・・・・出ていって、悪かった・・・・・」


「おうそうだぜ!!もうちょいしたら探しに行こうとしたんだけどよぉ?・・・・なぁんか、記憶も曖昧でなぁ?」


「・・・・・そうか。」


その曖昧な記憶はおそらく・・・・・目の前の彼女との一悶着に由来しているに違いない。それが『雅正人の平和な毎日』を形取るものとして、あまりにも都合の悪いものだったのだろう。


「・・・・・・・・・・」


「ん?・・・どうしたどうした?・・・まーた黙りこくって・・・・」


「少し、独り(・・)にしてくれないか?」


親友にとっての平和に・・・もし僕が組み込まれているのだとするならば、『この程度の要望』は親友として『当たり前の会話』だ・・・・・のはずだ。


「あん?・・・・そりゃあ一体・・・・」


「理由は聞かないで・・くれ・・・僕にだって、独りになりたい時はある。」


半分は『今』のため。半分は本心。


親友の勘の鋭さを掻い潜るのならば、適当な虚言を口に出してはならない。こんな・・・真を塗したような言の葉こそ最適。しかし、ソレが『都合の良い』台詞なのかを決めるのは僕ではない。けれど、本当に親友であれば・・・・・・きっと・・・・。


「わーったよ。んじゃ俺は、一旦帰っとくぜ。」


「・・・・・」


身にかかる重圧が、微かに軽減されたような気がした。踵を返した故だとするなら、彼の『昂り』が沈静が一時沈静したと見て良いのか。


過分な念推しとはいえ、見届けるべきとし・・・・背後を振り返って、


「後でな、アイワ」


「・・・・・・・・・っ゛!?」


視界の先・・・・わずか五寸先にて歩みを進める彼の姿。全身を真っ赤に染めた五体。影のかかる表情の内で、奇怪に輝る蒼い眼。そして何より、節々に青紫で染め上げられた表層と、膨張が極まったためか、中途半端に爛れる剥き出しの筋繊維。


暗闇でよかったと、本気でそう思った。驚愕の相は『友としての当たり前』とは程遠いそれ。勘付かれれば、何をされるか分かったものではない。


そうして・・・・・扉の奥へ進む親友を見送った後、畏れ混じりの両膝をついた。


「・・・っぁ!!!・・・・は・・・っが・・・・ぐ・・・!?」


呼吸を忘れた肺機関の急活性により、咳き込みに荒れる身体。いや、どちらかといえば・・・・・・咳に準じることで、竦む五体を誤魔化しているようで。


「・・・ぁ・・・ぎっ」


震える肩を両腕で抱く。何を恐れたのか、そもそもソレが恐れに寄るものなのかすらも分からない。ただ一つ分かることは、久しく・・・・・臆病な僕が戻ってきたことだった。


「ユウ・・・・」


「・・・ぁ・・・」


頬を撫でる感触に、再度顔を上げる。できる限りの朗らかな表情で、こちらを見とめるアンナ。生きているのが信じられない程の脆い身体に加え、息絶え絶えな痩せ我慢。己なんかよりも遥に気に掛けるべき彼女。それでも、僕の不安を少しでも和ませんとし、


「肩を、貸して・・・・・くれる?」


不安と焦燥の一切を含まぬ声音で、言の葉を紡いだ。



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