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第11話:シャウトミジール

フラン・マイニュート(=女)・・・・『思考速度を操る』力を持つ。ただし、操る場合は『共有する』か、『自分だけが変わるか』のどちらかしかないようで、『相手の思考速度だけを操る』みたいなことはできないみたい


〜これまでのあらすじ

アイワ、『最優の反則手(シャガラグチ)』と呼ばれる槍を手にいれる。

それで逃げつつ、応戦。けど、女強くてピンチ。

名前を明かして、フラン(=女)の隙をついて一突き・・・素手で防がれる

フラン殺意。アイワ君殺される・・・と思っていたら、なんか弾かれた

少女・・・間違いなく、第1話で会った女の子が助けれくれた。

少女とフランが戦闘。少女の『小さな巨人(リミクロン)』が強くて、フランを圧倒した。

「ねえ君」


「!?・・・はっ・・はい!!」


情けない体幹を、フェンスに寄りかかることで補い、バランスを取っていた。その、軽く瞬きをした先で、少女がいた。正面でまともに話すのは初であったために、緊張で情緒がまどろむ。


「すぐにこの場を離れよう。動ける?」


「あ・・ええと・・・」


網から手を離し、何かしらに寄りかからずに、体幹のみで身体を起こさんとした・・・・が、奇怪に曲がった脚がそれを許さない。酔い覚めに慣れぬ者が如く、身体は地に傾く。


「おおっと・・・と・・・大丈夫じゃないよね今は」


「・・ぁ・・」


上体が抱き止められる。九死に一生を得た安堵に加え、甘い香りに侵された脳は、僕の心から羞恥を奪う。そんな、思考も儘ならぬままに、僕は少女の顔を視認した。


「・・・・・」


「?」


瞳の合った途端、彼女の表情から一瞬で微笑みが消え・・・・そうして、なんとも言えないような、複雑な貌に変移する。その僅かな違和感に疑問を抱くが、未だ心象が閉ざされているために、その真意は読み取れない。


「・・・ああ、痛っっったいねえ」


「!」


後方からの声で、我に帰る。少女から身を離し、機能不可な脚とは逆のそれだけを軸に、身体のバランスを取る。倒壊したフェンスから更に奥。線路上にいる人影を、視界にとらえた。声の主は言うまでもないだろう。


「生きてたかフラン。」


「生きてたか、だと?自分で手加減しといて良く言う・・・アンタ、殺し合いで手抜くなんざ、アタシの前じゃあ侮辱行為だっての、理解してんのかい?」


「だから予め言っただろう?また、怒らせるって。」


「そういうことかいな・・・んじゃ、腹の虫が治るまで付き合ってもらおうかねぇ。」


痛みに心象が揺らぐこともなく、憎々しげに文句を垂れるフラン。刺突時に抉られる傷が、如何に小さいと言っても、身体に穴が空いたことには変わりない。しかし、勝リ者にとってすれば、それもすぐ治るもの。あと数分もすれば全開になっても全くおかしくない。全く可笑しくない(笑えない)


なんせ、彼女が戦闘続行などと宣ったとすれば、攻防が、先程以上の熾烈さを見せることは、想像に難くない。


「チッ・・・・はぁ・・・・やめだ。」


しかし、危惧とは裏腹に、力なく刃を降ろすフラン。その瞬間、彼女の手へ収縮するように、剣が跡形もなく消えた。事象に驚愕する僕とは対照的に、少女は淡々と言葉を紡いだ。


「やめる?・・・それは私との戦い?それとも、彼を追い回すこと?」


「当然前者さ。負け犬がつらつら文句垂れるのもダサいってね。約束通り、今回は手を引こう」


踵を返すように、こちらに背を向けるフラン・・・・だったが、不意に何かを思い出したかのように、改めてこちらを向く。そうして少女ではなく、はっきりとこちらを一瞥する。


「またね。小僧。」


そんな捨て台詞を一言置き、再度後方へ歩みを進める。月光が雲隠れのちに、再度、夜の帷を浄化させた頃には、その姿は、跡形もなく消え去っていた。


「ユウ」


緊張の解けぬ僕に、少女が声をかけてきた・・・・・あれ?


「・・・・なんで」


「豆鉄砲でも喰らったような貌だね。まあ兎も角、行こうか」


「ちょ・・ちょっと待ってください。なんで僕の名前を・・」


ミヤビと夜間行動を共にした時もそうだったが、僕は自身の名前をできるだけ外に出さないように心がけている。名を知られて特定されることを防ぐためだ。一応今は、勝リ者が『名を知られる』ことに、強い警戒心を抱いている理由が、未だわかっていないことも、理由の一つに含まれている。


「あ、そっか・・・・ああ、ごめん君の名前を聞いても?」


「もう遅いですよ。何で僕の名前知っているんです?それに・・・・あなたは一体何者なんです?」


初対面を装おうと、惚けたように目が泳ぐ少女。先程までならまだしも、誤魔化し通すには、もう遅い。無表情の睨めっこを数秒のち、少女が何かを諦めたかのように肩を落とした。


「はぁ・・・わかった。それも含めて話すから、来て。」


「・・・・・わかりました。でもどこに行くか、くらいは教えて下さい」


少女が悪い人間にも思えない・・・・いや、見た目一つで人を図れないというのは、キセキを手にしてから嫌というほど分かったので、何とも言えないか。まあ仮に、その心に、何かしらのはかりごとが含んでいたとしても、僕を救ってくれたのは事実。少しくらい付き合うのが筋というものだろう。


「魔女の館と言ったら・・・・普通分からないよね」


・・・・撤回したい意を、面に出さぬように飲み込んだ。











「ここが・・・って普通の不動産屋じゃないですか」


「ああ。今回は(・・・)そこみたいだね。」


「今回?」


意味ありげな少女の口上に、内心首をかしげる。


少女に連れてこられたのは、台詞通りの不動産屋・・・だったであろう廃墟。看板のペンキの剥げや、角の欠け等の要素が見受けられないため、一見未だに営業中のそれに見えた。しかし、ガラス越しに映る内装が、壁剥き出しで、デフォルトじみていることから、もう使われいない場所だと確信を持てた。


「不法侵入・・・・『今回』はってことは、転々として・・・・・・・・浮浪者?」


「ちーがーう。まあほら、百聞は一見にしかず」


そう言うと、少女は機能停止中の自動ドアをこじ開ける。


「え?」


鍵がかかってないことに意外・・・・などという陳腐な感想は、すぐさま放られる。自動ドアの先は、僕の予期していたものと異なるものだった。


「これ、は・・・?」


扉から漏れ出る光は、人工的に放つそれと、全く異なるもの。まさか、真逆の、朝の情景である。陽光のボーダーが指す野原と、雲一つ無き青空。人が『長閑な景色』を想うなら、誰しも一度は思い浮かべる、穏やかな朝の眺望。


今を、朝へと紡ぐ扉。その理屈を推し量ろうと、一所懸命に頭を回すも、多くの予測外に晒された心は、未だ『今』に追いつけず。しかし・・・・驚愕に浸された脳でも、これだけは理解した。


それが間違いなく、僕の常識の範疇にないことを。


「じゃあ君にも、色々と説明不足だろうし、ゼロから・・・・自己紹介から始めようか」


弾けるような足取りで、いつの間にやら僕の前方・・・『朝』の向こう側で、立っていた少女。風に浮ついたカーディガンを、胸元で抑えつつ、朗らかな微笑みと共に、言葉を紡ぐ。


「私はアンナ・フォーサイト。魔女アンナ。五人の魔人の一人にして、シャウトミジールの金色大公・・・・・・・・よろしくね愛和優君。」


何かの始まりを告げる、静かな風切りは、少女・・・アンナの口上に、淡い余韻を残した。











昼から夜に、夜から朝に。僅かな合間に、目まぐるしい時の遷移を見た。不思議な感覚である。なんせ、夜の帷に染められた脳が、ようやく順応し終えたかと思えば、今度は、朝の世界へと放られたのだ。容赦ない『違和感』のリレーに、頭がどうにかなりそうである。


「でもまあ・・・良いなぁ。」


心地よさを噛み締めるように、向こう側の草原を歩む僕。


心象を読むキセキを得てから、ひと時の安寧すら許されなかった。そのため、『誰の声も聞こえない世界』は、本当に僕好みのもの。


「どうしたの?」


景色に惚けるばかりの僕に、アンナが微笑みを見せる。おもしがられるほどに、変な顔をしていただろうか。思いや感想を悟られたくないため、できれば此処を一人で歩きたいものだ・・・が、初めて此処に来る人間がそうするのは、相当な危険行為らしい。


曰く、此処から目的地・・・『魔女の館』に向かうには、特定のルートを辿れば着くとのこと。ただし、僕のように初めて『この世界』に入り込む者に対しては、とある保険がかかるらしい。それが、この『道標もない草原』とのこと。


「あ・・・異世界みたいだなと思いまして・・・・」


「もしかして、『なろう』みたいな世界観を期待してる?」


「いや、そう言うわけじゃないんですけど、都会とはガラリと変わったなというか。」


家のネットが繋がっていないために、件の『なろう』に関して、良く分かっていない。唯一分かるのは、タイトルが、出鱈目に長いぐらいか。その、『なろうの異世界』概念かは分からないが、水平線先にまで至る緑など、都会っ子の僕からすれば、まさしく『異世界』。


「異世界、か・・・正確に言えば、ここは世界地図から消えた『土地』の一つなんだけどね。」


「世界地図から?」


「太平洋のど真ん中にあった土地・・・歴史から消えた国。それを『仮想的に作った海』とすり替えて、保管した世界ってこと。」


「?・・!?・・・ちょ、ちょっと待ってください?太平洋のど真ん中!?」


あっさりとしたアンナの態度に比べて、情報の質があまりにも重い。


もしそんな国があったのなら、大国の海洋進出にとって、重要な中継拠点。規模と開拓時期によっては、今現在分かっている世界史の常識が、180°変わる。


「その国ができたのは、大体500年くらい前の話かな?・・・ああそうそう、出来たと言っても、開拓したわけじゃないんだ。前触れもなく現れた国の租が、土地ごと(・・・・)作った、と言われている。作られたその時から、国の情報を秘匿していたらしいんだけど、現代技術の発展で、それも限界が来たらしくて。」


「だから・・・すり替えたと?」


「うん。まあ『仮想的な海を作って、すり替えた』というより、ワープホールを球体状にして、国を包んだというかね。その国に向かっても、向いの海へワープするイメージだ。干渉はできないけれど、一応は現実世界に『ある』国だ。」


「じゃあ仮想的な海というのは、衛星の視覚情報用です?」


「鋭いね。つい最近までは、このワープホール単体だけでよかったんだけど、現代人の宇宙進出以降、先代たちと作った仮想海。このまま衛星カメラなんてやられていたら、海上の些細な『歪み』で気づかれていた。」


キセキを見た時点で、未知の常識の存在を、なんとなく気づいていた。だが、強大なワープホールに加え、仮想空間の生成・・・・スケールの大きさがあまりにも異次元だ。


「なぜそこまで秘匿を?土地の旨みが強い分、直民地化されないためとか・・・」


「まあそうだね。今は多少マシな時代だけど・・・・たとえば、数百年前に国の存在を露わにしていれば、速攻でやられていただろう。例外はいるけど、魔女個人の力は、基本的に、一国の戦力を凌げるほどじゃ無い。仮に抑止力を持っていたとしても、経済戦略で潰される・・・・・・・・あ、ほら彼処だ。」


言葉を切り、前方に指を向けるアンナ。現在位置の十数歩先にて、なだらかな傾斜が下方を向いている。指し示す先にあったのは、傾斜に挟まれた館。規模もそこそこなもので、ざっと見ても、20坪ぐらいか。


先ほど、アンナの言及していた『魔女の館』で、間違いないだろう。目にするまで、魔女という単語に引っ張られ、西洋のアンティークを、ふんだんに用いた建物等をイメージしていた。しかし実のところ、それはコンクリート主体とし、瓦屋根を携えたシンプルな構造であった。とはいえ、この異国感が、西洋チックなのには変わりない。なんせ、主色を黄色とする建物など、日本ではそうお目にかかれないだろう。


颯爽と坂を下る彼女に後をつけ、眼前にて件の建物を捉えるまでに至る。


「いらっしゃい、ようこそ私の工房へ。」


「あ・・・お邪魔します。」


今更の挨拶と共に、ドアに指を這わせるアンナ。彼女が館の方へ入って行ったので、一礼のちに、低い姿勢で着いて行く。入館の最後者なので、振り返りながら、ドアを閉めた。


「・・・・〜〜〜っ!??・・・・あ゛ぎっ・・・・きっ!?」


戸の枠が壁に密着した瞬間、頭に激痛が走る。痛みにそこそこ(・・・・)慣れている自身はあったが、予期せぬタイミングだったために、上体の軸がぶれて転倒した。


あまりにも身に覚えのある感覚。ある予感を元に、床を這ったまま、再度扉を指で押した。


「!?」


瞳に映った景色は、先ほどの大草原とは全く別もの。緑一色だった眺望とは打って変わり、個々によって多彩な色を纏う、コンクリート状の建造物。それらが、薄空色主体の石畳道に沿って、ずらりと並んでいる。


さらに、館の正面の道は、相当数の人が歩いている。重視すべきは、その心象・・・・魂の声が、一般の人間より重い(・・)。具体的には、最初にアンナとすれ違った際に感じた、魂の重厚感。


「色彩の国シャウトミジール。それが今私たちのいる国・・・・ごめん、君はこの国の訪問者として認められた。だから、先ほどの草原から打って変わったんだ。」


心配の相をこちらに向けつつ、ドアを閉じるアンナ。人混みを見た僕を心配してのことだろうが、生憎と無意味な行為だ。僕の心象を読む力は、『見る』と『聴く』がある。『聴く』は、一瞥せずとも魂の声が響くのである。現に、先ほど突如として現れた街。内の人々を一瞥しないうちに、脳がその声に侵された。


「さっき言ってた、ここに『迷い込んだ人間』に対する防衛機構・・・・・街に来させないための、無限の『草原地帯』が消えた・・・・ということ、です・・・か」


「うん・・・本当にごめん。伝えるべきだった」


アンナの心配の相と、親切心を信じるのなら、せめてその心配に和らぎを・・・・それを僕の定める『成すべきこと』とし、出来るだけの微笑みを見せなければ。


「大丈夫です。ほら・・・これくらいならまだ軽いです、よ?」


筋を張りながら、精一杯口角を上げる。自分の思いつく限りの穏やか・・・・・・一番初めに頭に浮かべた、『ミヤビの朗らかな表情』あたりが最適であると判断。その『幸せの型』をイメージし、出来るだけそれに近づこうとした。


「・・・・・・・」


瞬間、彼女の表情が凍りついたかのように、硬直する。無言空間を数秒のちに、表情形成に失敗したのだと察した。重い空気を払うため、自身の上体を起こす。


「じゃ、じゃあ行きましょうアンナ。僕も気になっていたんですよね、この館の内装。」


らしくもない明るさだが、人に対する態度としては、マイナスから及第点スレスレになった・・・・そうに違いないと、自分に言い聞かせる。そうしてそのまま、奥側へと進む。


「ユウ」


そんな僕の肩に、冷たい手が添えられる。勢いを一貫させ、先に行こうとも考えた。けれど、握る手指の力が相当なものであったことや、家主の言葉を無視するのは不誠実であることを鑑みて、仕方なく振り向いた。


「・・・・・・アンナ?」


その貌は、先ほどと同様、何か心奥に含んだような面持ち。やがて、ため息のような鼻息を一つ、彼女は肩をおとす。


「んっ」


そうして・・・・・困惑の絡めとられた脳によって、思考の硬直を余儀なく受けていた僕へ、静かに瞳を閉じ、顔を寄せて接吻した。


「・・!?・・・・んっ!?・・・ん!?????」


熟考に惚けた心は、柔らかな唇の感触によって、ようやく覚醒した。反射的に身を離さんとして、アンナの肩を掴む・・・・が、その甲に添われる冷たい掌。たおやかな手指にそぐわぬ握力は、僕を遠ざけることを許さない。


陥落させるのは、力だけではない。端正な面に携える、煌びやかな瞳に、僅かな紅潮を孕んだ淡桃色の頬。戦闘によって、汗ばんだ額に張り付く前髪の、乱雑で暴力的な甘い芳香。


五感の三つが喰い潰される『今』に、脳の蕩ける感覚を覚えた。


「っんぐ!・・・・・っはぁ・・・・はぁ・・・・・・・何の、何のつもりで・・!!」


アンナが添えていた力が消え、『押し』に力を入れ続ける僕だけが、後方へと弾かれた。当然唇は離れるも、互いのそれを結びつける()は、しばらく空中にとどまる事となった。


「落ち着いた?」


改めて微笑みを返す彼女を見上げる。動悸のおさまらぬ身に加え、情欲に焼かれた脳。むしろ体が熱を帯びたような状態だったので、『否』を首の反復運動で示そうとした。けれど、思考の纏まる自身を鑑みて、気がついた。


「心の、声が・・・・小さく・・・?」


心象を読む力は未だ健在だ。しかし、言葉にできないような『気持ち悪さ』や『激痛』が消えていた。


「君の体に、私のマヴを多少加えた。不足分の注入ではなく、中和のため。」


「マヴ?」


「人が生まれながらに持つ生命エネルギー。勝リ者が、キセキを行使するたびに擦り切れるもの。あるいは、キセキそのものを構成するもの。人によって性質が大きく異なるから、他人のものを取り込めば、一時的に『キセキ』の性能が下がる・・・・・そして君にとって、キセキの精度向上は、自分を苦しめることに繋がる。なら逆も然りなのさ。」


「それが中和だというんですか・・・じゃあ、あの時も・・・・その・・・僕がおかしくなった、あの・・・」


その辿々しい質問に、首肯で返すアンナ。そして表情を変えぬまま、その瞳を細めた。


「やっぱり君は覚えてるんだ。」


「え?」


「私と初めて会った・・・君が初期症状に侵されかけた、あの時のことを。」


「そのキ・・・・キ、ス・・・のところまでですが」


「ユウ。それだけ覚えているなら・・・十分異端なんだ。」


彼女は何を言いたいのだろうか。そういえば、彼女との邂逅以降の四・五時間に関して、僕には記憶がない。例えば、あの後の色々記憶操作して・・・・それが失敗したことでも憂いているのか。


「一応聞くけど、あの邂逅の時、君は私の名前を読み取ったの?その『心を読むキセキ』で。」


「いいえ。少なくとも、あなたの名を知ったのは今日だけです。」


「なら君は・・・・・・名を知らずとも、『勝リ者』の情報をストックできるんだね。」


「それはどういう・・・・・・」


その、『名を見ずとも』という言葉に引っかかる。まるで、名前を覚えれらなければ、記憶できないとでも言っているような・・・・・・・そういえば、今まで邂逅した勝リ者たちは、『名を明かされる』ことに激しい抵抗感を抱いていた。


「『勝リ者』は・・・名さえ知られなければ、その人自身が記憶されない?」


「そうさ。先代の魔人達が仕込んだ、シャウトミジールを隠し切るための権能の一つ。だから『勝リ者』は、現代で行動したり、他の勝リ者と対峙しても、名を知られない限り追跡されず、自身を隠し切ることができる・・・・ほら、立って」


差し伸ばされた手へ、無意識に手のひらを添える。立ち上がりざまに、アンナは奥部屋の方へ進む。


「君のキセキが、影響を受けない所ででも、話そうか。君の今まで・・・そして今後について。」


親切を含有させた勧誘形を、僕への置き口上として。



ちなみに、シャウトミジールの景観のモデルは、モロッコの『シャウエン』をカラフルにした建物と、沖縄の『石畳』を薄水色にしたような道。これらをイメージしてくれればいいかなと思います。

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