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役立たずスキル【ログインボーナス】で捨てられた令嬢が、本当の幸せをつかむまで【11月 コミックス2巻発売】  作者: 碧井ウタ
本編(完結済)

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40:イレゴへの旅

 季節は夏になった。


 北に位置するリネハンは王都やマーランドよりは過ごしやすいものの、毎日暑い日が続いている。


 少し前から、[ガチャ]で他国で獲れるはずの果物や野菜が出るようになった。

 

 それが美味しかったので、ケルヴィンはリネハンでも種などから育てたいと考えた。すぐに農作物や植物に詳しい者が集められ、敷地内の一角に畑や温室を作り研究している。


 そのため屋敷には多くの人が出入りしていて、ケルヴィンやヴィンセントはとても忙しそうだ。



 

「ジョアンナ嬢、来週なのだけれど、避暑を兼ねてイレゴに行かないか? イレゴには別荘があって、近くには大きな湖もある。それに魔の森にも近いから、薬草を採りに行ってもいい。どうかな?」


 ある日、ヴィンセントと久しぶりに昼食を食べていると、イレゴへの旅行に誘われた。

 

 イレゴは、屋敷よりも北にあるので夏場は涼しくて過ごしやすいそうだ。ヴィンセントが子供の頃は、毎年家族でイレゴの別荘で過ごしていたらしい。彼が初めて行った魔の森もイレゴの近くだったらしく、初めて魔物を倒した場所でもあるそうだ。


 楽しそうに様々な思い出を話す彼を見ていたら、ジョアンナもイレゴに興味が湧いてきた。


「はい! 是非、行ってみたいです!」

「良かった! それじゃ、一緒に行こう!」


 ヴィンセントはとても嬉しそうに笑い、イレゴについて色々と教えてくれた。




「気をつけてね! 私がジョアンナを魔の森に案内したかったのに、残念だわ……」

 

「次は、一緒に行けばいいじゃないか!」


 イレゴへの出発の日の朝、セリーナとケルヴィンが揃って見送りに来てくれた。今回は来客があるので2人ともイレゴへは行けないらしく、セリーナは本当に残念そうにしている。


 そんな2人に見送られながら、ジョアンナ達を乗せた馬車は旅立った。

 


 別荘に近づくにつれて、木々が増えていく。どうやら別荘は森の奥にあるようだ。

 森を進むうちに、少しずつ地面も悪くなり馬車が大きく揺れることも増えてきた。長い時間そうした揺れと戦い、ジョアンナのお尻が限界に近づいた頃、ようやく別荘に到着した。

 

 やっと着いたという思いに勢いよく馬車から降りると、少し冷んやりとした空気が漂っていて自然の香りがする。大きく息を吸い込んで吐き出すと、心が落ち着き長旅の疲れも軽減されるようだ。


 別荘の前には何名かの使用人が待っているのが見える。


「お待ちしておりました。ヴィンセント様、ジョアンナ様。この別荘の管理を任されているヒューゴと申します」


 一番手前にいた、年配の体の大きな男性が代表して挨拶をしてくれた。隣にいる少し小柄でふっくらとした女性は彼の妻のリタだ。この別荘はこの2人の夫婦が中心になって管理してくれているらしい。

 

 ヒューゴはヴィンセントが子供の頃からこの別荘の管理をしているそうだ。彼はリネハンで騎士をしていたのだが、魔物の討伐時に大きな怪我を負ったことをきっかけに、この別荘の管理人になり夫婦でこちらに移り住んだらしい。




「わぁ……」

 

 リタに案内してもらった部屋に入ると、窓の外の景色に目を奪われた。

 

 大きな窓からは湖が見え、水面(みなも)に太陽の光が反射していてとても綺麗だ。窓の外には広めのバルコニーがあり、椅子とテーブルが置かれている。この景色を見ながら、お茶を飲んだり朝食を食べたら気持ちがよさそうだ。


「湖が一望できて眺めがいいでしょう!? 今日みたいな天気の良い日は、夕暮れには湖が赤く染まって綺麗ですよ」


「それは素敵ね! 夕暮れまであと少しだから楽しみだわ」


「陽が落ちる頃にはグッと冷えてきますので、バルコニーに出る時には、膝掛けなどを使って暖かくしてくださいね」


 リタはそう言って柔らかく微笑んでから、コリンナに部屋の設備について説明し始めた。



 ジョアンナがバルコニーに出て景色を楽しんでいると、コリンナがお茶を()れてくれた。

 一緒に出されたのは、この辺りで採れる木の実を使った焼き菓子だ。素朴な味わいで、何個でも食べられそうなほど美味しい。


 そうして、少しのんびりとしていると、部屋にヴィンセントがやって来て一緒に夕焼けを見ることになった。

 

 2人で並んで景色を眺めていると、少し冷たい風が吹いた。ジョアンナが無意識に二の腕をさすっていると、ヴィンセントが自分の上着を脱いで、ジョアンナの肩へそっとかける。



「あ……ありがとうございます。でも、ヴィンセント様も冷えてしまいますので……」


「私は大丈夫だから、よかったら使って!」


 そう言って柔らかい笑みを浮かべた彼を見て、ジョアンナの頬が赤く染まる。

 バルコニーに差し込む陽の光も、少しずつ赤く色づいてきた。


 そっとジョアンナが隣を見ると、夕陽を浴びたヴィンセントの横顔が見える。瞳に湖が写り込み(きら)めいて美しく、いつまでも見ていたいと思ってしまう。


 ──このまま、時間が止まってしまえばいいのに……。そうすれば………………。


 ジョアンナは日増しに(ふく)れ上がっていく愛しさと胸の痛みに苦しくなり、彼から目を逸らして真っ赤に染まる湖を見つめた。

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