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役立たずスキル【ログインボーナス】で捨てられた令嬢が、本当の幸せをつかむまで【11月 コミックス2巻発売】  作者: 碧井ウタ
本編(完結済)

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36/46

36:ポーション作り

「邪魔はしないから、ここで見学させてもらえないかな?」


 ジョアンナはヴィンセントの顔を見た瞬間、今すぐに自分の顔を隠したくなった。さっきまで泣いていたので目は()れているし、これから汗もかくので顔は洗っただけに近い状態だ。


 自分の状態に気を取られていたジョアンナの耳には、彼の声が聞こえていても言葉までは届かない。


 ヴィンセントは慌てた様子のジョアンナを見て、少し戸惑った表情を見せた。


 コリンナがそんな2人を見兼ねてジョアンナの肩を軽く揺すると、彼女はハッとしてヴィンセントに視線を移す。


 ジョアンナは引きつった笑顔を浮かべながら、首を縦に振って了承の意思を伝えた。そして変な汗をかきながら、急ぎ足で作業台へ移動する。

 

 ヴィンセントはいつもと違う様子の彼女に戸惑いながらも、定位置のソファーに腰かける。それを手伝ったダニーはコリンナと共に部屋の(すみ)にそっと控えた。


 


 ジョアンナはどこか浮ついている自分に活を入れるために、自分の顔を両手で強めに叩いた。


 頬が少し赤くなっているジョアンナは、集中した表情で真剣にレシピを見つめている。何度も読んだので内容は全て覚えているが、もう一度しっかりと手順を頭に叩き込んでいるのだ。


 それが終わると、[アイテムボックス]から材料を取り出して作業台に並べていった。



 まずは、下準備からだ。

 

 ジョアンナは水龍の心臓を手に取った。

 水龍の心臓は、ジョアンナの顔と同じくらいの大きさの宝石のような青い石だ。


 それを専用の道具を使いながら(くだ)き、少しずつすり(つぶ)していく。これはかなり力の必要な作業だ。

 ジョアンナは何度も汗を拭きながら、何時間もかけてこれを全て粉状にした。

 

 ここで、少しだけ休憩だ。固くなった肩や腕を軽く揉みながら、軽く身体をほぐす。

 そして、立ったままでサンドイッチを口に突っ込み、冷たいお茶で流し込む。


 あっという間に食事を終えたジョアンナは、すぐに作業を再開させた。

 デスパル草を板の上に置いて細かく刻み、大きな鍋へ入れていく。辺りにはデスパル草の独特の匂いが広がる。

 

 次は、さっきの鍋の中に聖水を1本ずつ加えていく。

 レシピによると、聖水を50本入れてしばらく混ぜると液体の色が変わってくるそうだ。それまでひたすら鍋を混ぜ続ける。


 そうしていると、(にご)ったような紫色の液体が少しずつ色を変えていき、レシピに書かれていた通りの深い緑色に変わった。


 

 ここからは鍋に素材を入れて、液体の色が変わるまで混ぜ続ける作業が続く。


 まずは、妖精の粉を少しずつ加えて混ぜていく。

 深い緑色からオレンジ色に変わるまでだ。


 次は、神樹の花びらを全て加えて混ぜる。

 液体は、オレンジ色から少しずつピンク色に変わっていく。


 そこに水龍の心臓を砕いた粉を少しずつ加えながら混ぜていく。完全に溶けるまでだ。

 すると、液体はピンク色から深い青になった。

 


 ここで火を点けて、鍋を弱火にかける。

 ここからは、長い時間、鍋を混ぜ続ける作業だ。


 どれくらい時間が経っただろうか……。すでに鍋の中の液体は半分ほどに減っている。

 ジョアンナの腕の感覚がなくなってきた頃、鍋の中に少しずつ変化が起こり始めた。

 

 深い青だった液体が、少しずつ薄い青に変わっていく……。

 そのまま混ぜ続けていると、液体は透明になり輝きだした。

 

 そこで火を止めて、虹色の(しずく)を入れる。

 しばらく鍋を混ぜ続けていると、液体の色が貝の裏側のような虹色になっていく。


 そのまま手を止めずに混ぜていると、最後に鍋の中がボワっと光った。

 そして、光を帯びた不思議な色合いの液体が出来上がった。


 ジョアンナは手を止めて、胸の前で両手をギュッと握り……ゴクリと唾を飲み込んだ。

 彼女の心臓は大きな音を立てている。

 

 一度、大きく息を吐き出したジョアンナは、覚悟を決めて鍋に[鑑定]をかけた。


──────────────────────

 ◼︎最上級解呪ポーション(品質:良)

 飲むとあらゆる呪いが解ける

──────────────────────


 成功だ。ジョアンナは瞳に浮かんできた涙を(そで)で軽く(ぬぐ)った。

 そして歓喜に震える手で慎重に鍋から瓶に液体を移し、そっと(ふた)をした。



 

 一方、ジョアンナがポーションを作る様子を真剣に見ていたヴィンセントは、あまりの大変な工程に驚いていた。


 何時間も青い石のような物を、大きな音を立てて(くだ)き、すり潰しているジョアンナ。

 彼女の(ひたい)には大粒の汗が(したた)っている。彼女はそれを何度も(ぬぐ)いながら、手を止めることなくその作業を続けていく。


 きっと腕はもうパンパンに()れ上がっているだろう。


 何度も「もういいよ」という言葉が喉まで出かかったが、彼女の真剣な表情を見ると声が出なかった。ヴィンセントは血管が浮き出るほどに右手をギュッと握りながら、奥歯をギリっと噛み締めた。


 彼女は途中で一度だけ休憩を取ったが、軽くパンを食べてお茶を飲んだだけだ。

 それからはずっと鍋を混ぜ続けていた。


 時折、作業が上手くいっているのが嬉しいのか、笑顔を見せるジョアンナ。しかし、彼女の腕はもうとっくに限界を超えているだろう。それでも作業を止めずに、集中した表情で次々と素材を入れて鍋をかき混ぜている。見ているヴィンセントも、何時間経っているのかわからないほどの長い時間だ。


 ヴィンセントは、そんな彼女の様子を目に焼き付けようと、真剣な表情でずっと見つめていた。



 彼女が鍋を混ぜ始めてから、どの位の時間が経ったのだろうか……。

 最後に鍋が光ると、彼女は鍋から光る液体を瓶に注いで満足そうに微笑んだ。


 その笑顔の美しさに見惚(みと)れていると、彼女がパッとヴィンセントに視線を向ける。


 そして満面の笑みを浮かべて、勢いよくこちらへ向かってきた。その勢いのまま、ジョアンナはヴィンセントに子供のように抱きつく。彼はそれに驚きながらも、彼女の背にそっと右手を回した。


 自分の腕の中で、肩を震わせて喜びの涙を流すジョアンナ。

 ヴィンセントは彼女の柔らかい温もりを感じながら、込み上げてくる愛しさを感じていた。

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