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役立たずスキル【ログインボーナス】で捨てられた令嬢が、本当の幸せをつかむまで【11月 コミックス2巻発売】  作者: 碧井ウタ
本編(完結済)

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35/46

35:ジョアンナの決意

 誕生日の翌日から、屋敷では薬作りの練習に励むジョアンナの姿がよく見られた。


 これまでは午前中は、散歩や読書、たまにセリーナとお茶を飲んだりしてのんびり過ごすことの多かったジョアンナ。しかし、今は午前中から調合室にこもり、1日のほとんどの時間を薬作りの練習に()てている。


 彼女は毎日、夕食後に入浴しているのだが……。入浴後にマッサージをしている侍女達は、彼女の固くなった体をほぐしながら(うれ)わしげな表情を浮かべている。しかし、マッサージを受けながら気持ち良さそうに寝息を立てているジョアンナには、それを知る(よし)もなかった。


 彼女がこうして薬作りの練習に励んでいるのには、理由があった。


 誕生日に手に入れたレシピを読むと、最上級解呪ポーションの作成は難易度が高いのだ。


 そのため、ケルヴィンはディーノに作成をお願いしたが、断られてしまった。ディーノはこれまでポーションよりも薬作りの腕を磨いていたので、レシピを読んで今の自分の腕ではこのポーションの作成は難しいと判断したのだ。


 それを受けてケルヴィンは、腕の良い錬金術師を探している。


 そのことを知っているジョアンナだったが、このポーションだけは自分が作らなければいけない気がしていた。


 レシピを見た瞬間に「自分はこのために生まれてきた」という運命みたいなものを感じたのだ。これはただの勘みたいなものでしかない。それでもジョアンナは、自分の中に確かにあるそれを無視できずにいた。


 だから、ジョアンナは決めたのだ。水龍の心臓が手に入るまでに、レシピに書かれている手順を(こな)せるようになれば、このポーションを自分で作ると……。

 

 そうしてジョアンナは、毎日、腕や肩がパンパンに()れるほど熱心に練習を繰り返し、ひたすらに自身の腕を磨いていった。


 


 その時は予想以上に早く訪れた。

 

 ジョアンナが目を覚ましていつも通りに【ログインボーナス】の画面を開くと、こんな画面が出てきた。


──────────────────────

 連続ログイン 1,100日達成!

 「連続ログイン達成プレゼント」が届きました!

  

 ① ガチャチケット:10枚を手に入れました(有効期限:本日中)

 ② [アイテムボックス]の枠が50個になりました

 ③ [ガチャ]で手に入るアイテムが増えました

──────────────────────


「ドクン……ドクン……ドクン…………」

 

 ジョアンナの心臓は画面を見た瞬間に激しい音を立て始めた。ジョアンナは吸い寄せられるように画面へ手を伸ばし、気がつくと[10連ガチャ]の[スタート]を押していた。


 息を呑むように画面を見つめているジョアンナの瞳に、左上からカードが1枚ずつ出てくるのが映る。そして、カードが10枚並ぶと……画面がピカッと1回光り、全てのカードがめくられた。



 

「聖水」

 :

「聖水」

 :

「状態異常回復ポーション(R)」

 :

「ガチャチケット(有効期限:1年間):2枚」

 :

「聖水」

 :

「デスパル草」

 :

「初級ポーション」

 :

「ガチャチケット(有効期限:1年間):2枚」

 :

「初級ポーション」

 :

 :

 :

「水龍の心臓(SR)」




 

 最後のカードは光り輝き、水色のドラゴンと心臓の絵の真ん中に「SR」の文字。そして「水龍の心臓」と書かれている。


 それを見た瞬間、視界がぼやけ次々と大粒の涙が頬を伝った。


 

 侍女が部屋に入ってきたドアの音で、ジョアンナはハッと顔を上げた。

 そして、泣き()らした(ひど)い顔のまま、少し震える手で手紙を書いて3人に届けてもらう。


 ジョアンナの様子を見て心配している侍女達に大丈夫だと告げて微笑み、すぐ動きやすい服に着替える。髪は邪魔にならないように束ねてもらった。


 朝食を食べ終わった頃、ケルヴィンとセリーナが慌てた様子でやってきた。


 手紙を読んで、すぐに来たのだろう。珍しく2人の身だしなみが少し乱れている。

 ジョアンナの格好を見た2人は、これからジョアンナが何をするつもりなのかを察し、困惑した表情を浮かべている。


「これから、私が最上級解呪ポーションを作ろうと思います」


 ジョアンナの決意に満ちた目を見て、2人は言葉が出てこなかった。

 

 この最上級解呪ポーションの作り方は、レシピを読んだので2人とも理解していた。

 工程が多く、恐らく1日がかりの作業だ。最後には長い時間、鍋を混ぜ続けなければならないので、女性には非常に過酷なものになるだろう。


 そしてレシピの注意書きには、全ての工程を1人でやらなければならないと書かれていた。そのため、ポーションや薬を作る時のように、何人かで分担して作業することができない。どんなに疲れても、休んで誰かに替わってもらうことができないのだ。

 

 人には魔力が流れており、その魔力は1人1人違う性質があるといわれている。複数の人間の魔力が混じると、このポーションは効果が落ちてしまうそうだ。そのため、材料の加工から仕上がりまで、同じ人間が1人で行なわなければならないらしい。


 

 セリーナは一度目を閉じると、ジョアンナを真っ直ぐに見て、口を開いた。


「任せたわ」

「はい、お義母さま、お義父さま、必ず成功させてみせます!」

「……すまない。頼んだ」

 

 ケルヴィンはなんとか声を絞り出して、苦しそうにそう言った。


 ジョアンナは2人に笑顔を向けて立ち上がると、すぐに調合室へ向かって歩き出した。

 ヴィンセントの顔を見たい気持ちもあったが、きっと彼もさっきのケルヴィンと同じような顔をする。だから、やめておいた。


 ジョアンナが苦労すると、この家の人は自分の事のように心を痛めるのだ。血は繋がってはいないが、ジョアンナにとって、彼らはもう自分の家族だった。


 そして初めて恋をした男性のために、自分にできることがある。それは幸せなことだ。

 

 ジョアンナとヴィンセントの婚約は、彼が病に()していたから結ばれたものだった。小耳に挟んだ噂では、ヴィンセントと元の婚約者はとても仲が良かったそうだ。


 呪いが解ければ……彼は彼女のところへ戻り、この婚約自体が無くなってしまうかもしれない。想像するだけで胸が痛むが、彼が笑顔で幸せに生きられるのなら、それでも良いと思った。

 

 これまで、想像もできない苦しみを1人で耐えてきた人だ。彼には誰よりも幸せになって欲しい。


 ジョアンナは少し感傷的になりながらも調合室にたどり着き、ドアが開くと…………動きを止めた。

 

 

 調合室には何故かヴィンセントが待っていたのだった。

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