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役立たずスキル【ログインボーナス】で捨てられた令嬢が、本当の幸せをつかむまで【11月 コミックス2巻発売】  作者: 碧井ウタ
本編(完結済)

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31/46

31:不思議な文字

 聖水を飲み続けた結果、ヴィンセントの顔や首にあった黒く変色した皮膚は全て元に戻った。


 あの婚約解消の騒動の後から、鏡を見る事を避けていたヴィンセント。しかし、今日は初めてマスクを外してジョアンナに会うので、久しぶりに鏡を見ている。


 2年ぶりにしっかりと見た自分の顔は、記憶の姿よりも大人びていて不思議な感じがした。



 昼食の時間が近づくと、ヴィンセントは早めに席に着いてジョアンナが部屋に来るのを待っている。


 不思議なもので、彼は初めてジョアンナの前でマスクを身に付けた日より、遥かに緊張していた。ヴィンセントはやけに早い自分の鼓動を感じながら、落ち着かない様子で何度もドアをチラチラと見つめていた。


 


 ジョアンナがいつもの時間にヴィンセントの部屋に行くと、ダニーが開けてくれたドアの隙間から美味しそうな香りが漂ってきた。


 ──香草の良い香りがするわ。今日のメニューは何かしら?


 ジョアンナはワクワクしながら、部屋へと足を踏み入れて…………動きを止めた。


 目の前にこの世のものとは思えない程、美しい男性がいる。

 

 窓から差し込む光を受けて、輝く銀色の髪。

 マスクが消えて(あら)わになった、白く美しい肌。

 ……恐ろしく整った顔立ち。

 

 紫色の瞳はジョアンナを見つけると、柔らかく微笑んだ。

 

 ジョアンナの目の前には、食堂の絵から抜け出てきたかのような美しい姿のヴィンセントが微笑んでいる。ジョアンナの思考は完全に停止し、立ち止まったまま目を丸くしてヴィンセントを見つめている。


 ヴィンセントは、そんなジョアンナを見て少し照れ臭そうに口を開いた。


「ジョアンナ嬢がくれた聖水のおかげで、黒い部分がだいぶ無くなったからマスクは()めたんだ」


 ヴィンセントの声が耳に届いても、思考は止まったままのジョアンナ。

 そんな彼女を見て、少し不安気な顔でヴィンセントが口を開く。


「……ジョアンナ嬢?」


「あっ! すみません。ちょっと驚いてしまって……」


 ジョアンナは落ち着かない様子でヴィンセントに近づき、いつも通りに彼の右隣に座った。


「今日は子羊の香草焼きらしいよ」


 そう言って、嬉しそうに微笑むヴィンセント。


 ジョアンナはヴィンセントと話しながらも、なんとも言えない落ち着かなさを感じていた。いつもと同じ席、いつもと同じ距離のはずなのに……今日はやけにヴィンセントとの距離が近い気がする。


 彼と目が合う度にジョアンナの顔には熱が集まり、心臓がトクンと大きな音を立てる。


 そんな彼女の隣で何食わぬ顔をして微笑んでいるヴィンセント。彼もまたジョアンナと目が合う度に大きく弾む鼓動を感じていた。


 そんな風にどこかぎこちない様子で昼食を食べている2人を見て、給仕をしているダニーとコリンナは嬉しそうに微笑んでいた。


 

 

 その後もヴィンセントは聖水を欠かさず飲み続け、順調に回復していく。


 そんな中、気になる事が1つ出てきた……。


 ヴィンセントの皮膚から黒い部分が減っていくと、蛇に噛まれた腕の辺りを中心に赤黒い文字のような模様が出てきたのだ。その文字は、他国の言語に触れる機会の多いケルヴィンやディーノにも見たことのないものだった。


 ディーノの見立てでは、この文字は今までもずっとあったが、皮膚が黒く変色していたのでこれまでは見えなかったのではないかという話だ。


 そして、これは呪いの(たぐ)いのものである可能性が高いそうだ。残念ながらディーノにも呪いに関する知識が無いため、これ以上の事はわからないらしい。


 そのため、ケルヴィンが信用できる伝手を使って呪いに詳しい者を探している。王太子のセドリックにも手紙で知らせたところ、彼も手を尽くして調べてくれるそうだ。


 呪いとは自然発生することはほぼ無いので、十中八九、人間が関わっている。

 

 【呪術】【占術(せんじゅつ)】【闇魔法】などのスキルを持った者なら、呪いをかけることができる。しかし、呪いの発動には深い知識と多くの貴重な素材が必要で、個人で簡単に発動できるものではない。


 ついでに、この国では呪いは禁術として使用は固く禁止されている。そのため、呪いに関する情報を手に入れること自体が難しい。

 

 この国で呪いに関する知識を持っているのは、王宮から許可を得て呪いについて研究している数名の者だけだ。そして、その研究の情報は徹底的に管理されている。


 その研究者から情報を得るために動いていると、セドリックからの手紙には書かれていた。しかし、王族であるセドリックの要請でも、研究者との面会や資料の閲覧には手続きが必要で時間がかかるらしい。


 そんな背景もあり、呪いに関する情報を集めることは難航していた。本などで情報を得ようと思っても、この国では呪いに関する本は禁書扱いなので入手が難しいのだ。


 他国から本や情報を取り寄せようと思っても、隣国との国境付近はこの時期は深い雪に(おお)われており、関所も封鎖状態だ。領主権限で国境を越えることもできるが、隣国もこの時期は雪で移動が困難なので、どのみち雪解けまでは動けそうもない。


 

 

 そうしている間に、ヴィンセントにはある変化が起こった。

 

 ある夜、ヴィンセントは寝る支度(したく)を整えてベッドに入り、聖水を飲もうとしていた。いつも通りにダニーから聖水を受け取ると、なんと聖水から光が失われてしまったのだ。

 

 ヴィンセントはそのことに驚きもあったが、「やっぱりな」という気持ちの方が強かった。


 ヴィンセントが聖水を飲み始めてから、眠りに落ちる時に必ず見ていた不思議な夢がある。その夢の中でヴィンセントは、温かくて懐かしい光に包まれるのを感じていた。


 しかし、肌から黒い部分が減っていくにつれて、自分を包んでいたその光がどんどん弱くなっていたのだ。

 

 そして今朝、ヴィンセントの腕に(わず)かに残っていた黒い部分は完全に無くなった。ディーノからそのことを聞いた時から、これ以上聖水を飲み続けても何も起こらないのではないかという、予感のようなものがあったのだ。


 久しぶりに、聖水を飲まずに眠りについたヴィンセント。


 その夜、彼が見た夢は……ジョアンナと2人で笑いながら庭を歩いている夢だった。

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