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30:錬金術

 ジョアンナが【錬金術】のスキルを手に入れてから、ひと月が過ぎた。


 彼女は【錬金術】を得た後、ケルヴィンとディーノに頼んで、ディーノから薬の作り方などを教わることにした。

 

 そして、彼女が薬を作る様子をヴィンセントが見たがったので、ヴィンセントの部屋のすぐ近くにジョアンナが薬を作る調合室が急いで作られた。


 その部屋には最高級の道具、素材、錬金術に関する本などが豊富に揃えられている。王宮の錬金術師が使う部屋と比べても遜色(そんしょく)のない調合室だ。


 実は……この部屋が出来た背景には、ジョアンナの知らない事情がある。


 ジョアンナに念願の「お義父さま」と呼ばれたことに舞い上がったケルヴィンが、お金に糸目をつけずに物を買い(あさ)ったこと。

 

 そして、ジョアンナとディーノが同じ部屋で長い時間一緒に過ごすことが、なんだか嫌だったヴィンセント。そんな彼の強い要望によって、早急に調合室が作られたのだ。

 

 セリーナをはじめ、使用人達もそんな彼らを見て少し苦笑(にがわら)いしながら調合室を整えるのを手伝った。


 そんな感じで出来上がった調合室にジョアンナは毎日通い、薬やポーションを作る練習を繰り返した。彼女は初めて薬の作り方を本格的に学んだのだが……このコツコツとした作業が楽しくて(しょう)に合っていた。

 

 ディーノの教え方が上手いことに加えて、ヴィンセントの治療法を探すために薬草や薬に関する本を何冊か読んでいたこともあり、ジョアンナはみるみるうちに腕を上げていった。


 そして、ジョアンナの成長が早いのには、もう1つ理由があった。

 

 彼女は【鑑定】を持っているので、素材の状態や作った薬の状態も自分のスキルで正確に調べられるのだ。やはり目で見てハッキリわかると言うのは面白く、昨日は「品質:普通」だった薬が、今日は「品質:良」で作れたと知ればやる気も出るものだろう。

 

 それに【錬金術】のスキルは不思議な物で、どんな風に使えば良いのかが感覚でわかるのだ。


 例えば……

 初めて使う素材を、どの位の大きさでどんな風に切るべきか。

 鍋で素材を混ぜる時には、適切な温度やかき混ぜる時間が感覚でわかるのだ。


 ディーノから沢山のレシピを教えてもらい、作れる物が増えていくことがジョアンナには楽しくて仕方なかった。



 

 ディーノも、このジョアンナへ薬作りを教える時間を楽しんでいた。

 

 ケルヴィンからは、ジョアンナの調合室にある高級な素材も自由に使って良いと言われている。そして、作った薬も全てケルヴィンが買い取ってくれるので、自前のレシピも公開して様々な薬の作り方を彼女に教えた。


 作り方は知っていても……材料が高価で手に入らなくて作れなかったもの、需要がないので作る機会が無かったものも作ることができた。


 そうして、ディーノも初めて作ることが出来た薬が幾つもあり、彼自身もジョアンナに教えながら薬師としての腕を上げていった。

 

 彼女は熱意があり、何より薬作りを楽しんでいるのが伝わってくる。そんな者とあれこれ言いながら行う薬作りは、とても楽しいものだった。


 【錬金術】とディーノの持っている【調薬】は、同じようにポーションや薬を作ることのできるスキルだが、少しだけ得意分野が異なる。

 

 ポーション系の液体の飲み薬は【錬金術】のスキルの方が得意で、性能も良いものができる傾向にある。

 塗り薬や粉薬のような素材をすり潰して作る薬は【調薬】の方が得意だ。


 ただ、どちらのスキルでも練習や経験を積めば、性能の良い薬を作れるようになっていく。スキルにより大きく差が出るのは、薬作りを始めたばかりの頃くらいだろう。

 

 【錬金術】のスキルの者でも、塗り薬を作る方が好きな者は、塗り薬作りの腕を極めていくし、【調薬】のスキルの者でも、ポーション作りが好きな者は、ポーション作りの腕を極めていく。


 ディーノは塗り薬や粉薬を作ることが好きでそちらの腕ばかり磨いてきたが、ジョアンナに色々教えるうちにポーション作りにも興味が湧いてきていた。



 

 ヴィンセントはソファーに座って本などを読みながら、薬作りに励む2人の様子を見ていることが多かった。


 薬作りの様子を実際に見てみると、意外と体力の必要な作業なのがわかる。素材を細かくすり潰したり、長い時間をかけて鍋をかき回したりするのだ。自分が飲んでいた薬を作る過程を知り、ヴィンセントは薬や素材に興味が湧いた。


 元気だった頃は、魔の森で手に入れた薬草や魔物の素材が薬の材料になることは知っていても、それがどの様に使われるかなんて考えたことが無かった。

 

 この部屋でディーノがジョアンナに素材の説明をする様子を見ていると、「あの魔物の角はこの薬になるのか」など自分とも馴染みの深い物が多く出てくる。それがヴィンセントにはとても面白く感じた。


 ヴィンセントは1人で自室にいる時にも、両親が自分のために取り寄せてくれた多くの本を読んで薬に関する知識を深めていった。両親が集めた本は大量にあり、全て読み終わるのにどれ程の時間がかかるのか想像できない量だった。


 両親の愛情を改めて感じて、ヴィンセントは今の自分に何ができるのかを考える様になっていた。

 

 聖水を飲んでも(しび)れは残り身体は思うように動かせないし、健康な時に比べるとできることは減ってしまっている。しかし、あの激痛から解放されたおかげでダニーの手を借りれば動くことはできる。


 こうして本を読んだりディーノやジョアンナから沢山の話を聞いていると、自分にもまだ出来ることがあるのではないかという気持ちになってくる。


 そんなことを考えるだけで、ヴィンセントには力が湧いてくるのだった。

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