24:穏やかな時間
セドリックは、予定を繰り上げて朝早くに屋敷を出発することになった。
どうやら、王都で急いでやらなければならない事ができたそうだ。
「ジョアンナ嬢、ヴィンセントをよろしく頼むよ」
早起きをして見送りに行ったジョアンナに、セドリックは真剣な表情でそう言った。
後ろに控えているコンラッドも軽く頭を下げている。彼らの表情などから、ヴィンセントを大切に思っている気持ちが伝わってくる。
ジョアンナは真っ直ぐに彼らの瞳を見つめて頷いた。
彼らを見送って部屋に戻ったジョアンナは、昼食の時間になるのを楽しみにしていた。たった1日ヴィンセントに会っていないだけなのに、なんだか長い間彼の顔を見ていないような感じがするのは何故だろうか。
部屋で本を読んでいるジョアンナだが、ページを捲る手はいつもより進まず、気がつけば時計ばかり見ている。
部屋の隅に控えていたコリンナは、その様子を柔らかい瞳で見ていた。
昼食の時間になりヴィンセントの部屋を訪れると、すでに食事の用意が整っていた。
今朝、あんなに「ヴィンセントをよろしく」と言われたせいだろうか……。ヴィンセントの顔を見た途端、ジョアンナはなんだか気恥ずかしいような落ち着かない気持ちを感じた。
少しだけ頬を赤らめて、ぎこちない様子でいつもの席に着くジョアンナ。ダニーと共に給仕をしていたコリンナは、その様子を見て僅かな笑みを漏らした。
今日のメニューは、ミノタウルスのロースト、サラダ、クリームスープ、パン、フルーツだ。
ミノタウルスの肉はセドリックの好物だ。昨夜もステーキが出ていたが、これも彼のために仕込んでいたものだろう。
薄切りの肉はややレアの絶妙な焼き加減で、柔らかくて美味しかった。ソースは少し酸味がありサッパリしている。これは、パンに挟んで食べても美味しそうだ。
どちらからともなく2人は目を合わせると、この肉をパンで挟んで食べることにした。
パンを食べやすい形に切ってもらい、肉とサラダの野菜を挟む。それをパクリと口に入れると、肉の旨味と野菜の食感に少しサッパリしたソースが良く合いとても美味しい。ジョアンナとヴィンセントは、互いに目を合わせて笑顔を浮かべ頷き合う。
ヴィンセントは、昨日の夜にこの部屋でセドリックと会ったようだ。
どうやら、コンラッドとも学園時代からの友人だったようで、3人で楽しい時間を過ごしていたらしい。
学園に通っていた時には、剣術の授業で勝負をして負けた方が食堂で食事を奢ったりもしたそうだ。
ちなみに戦況は、ヴィンセントのほぼ独り勝ちだったらしい。
ただ、セドリックは剣術系のスキルを持っていないのに、【剣聖】のスキルを持ったヴィンセントにたまに勝つこともあったそうだ。ヴィンセントはセドリックの努力と才能は素晴らしいものだと、しきりに誉めていた。
そんな話をしながら、ふと自身の左手に視線を落とし表情を曇らせたヴィンセント。
彼はすぐに笑顔を浮かべて他の話を始めたので、ジョアンナも気がつかなかった振りをしたが、やはり剣が振れないのは辛いのだろう。
ジョアンナは彼の治療法を少しでも早く見つけたいと、改めて感じた。
「そういえば、セドリックと会うのは初めてだよね? どうだった?」
「とても緊張しました。事前にお義母さまから王族への挨拶などのマナーを教えていただいたのですが、実際に挨拶する時には緊張で足も声も震えてしまい、あまり上手くできませんでした」
それからジョアンナは、スキルを調べる魔道具の話、緊張しながら【ログインボーナス】の説明をしたことを話した。
あとは、初めてデスパル草を見たことを話すと、ヴィンセントも興味があったらしく「セドリックに見せてもらえばよかった」と残念がっていた。
ヴィンセントとこうして2人で他愛のない話をしていると、いつもの日常が戻ってきたのを感じてホッとする。
お茶を飲みながらヴィンセントをチラリと見たジョアンナは、こんな日がずっと続けばいいなと思っていた。
その翌日、ジョアンナの元にまたしても「連続ログイン達成プレゼント」が届く。
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連続ログイン 1,020日達成!
「連続ログイン達成プレゼント」が届きました!
① ガチャチケット:10枚を手に入れました(有効期限:本日中)
② コイン:100枚を手に入れました(有効期限:1年)
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どうやらこれは10日毎に何か届きそうだなと、ジョアンナは思うのだった。
その日の午後、ケルヴィンとセリーナ、そしてヴィンセントの前で[10連ガチャ]を回してみた。
手に入ったのは……
聖水×4
デスパル草×1
初級ポーション×2
初級毒消しポーション×1
ガチャチケット(有効期限:1年間):2枚×1
妖精の粉 ×1(SR)
光るカードは1枚で、透明な瓶の中に銀色の粉が描かれている「妖精の粉」だった。
妖精の粉の存在はジョアンナも知っていた。図書室の本の中に書かれたものがあったのだ。
本から得た情報によると……妖精の粉は、鍛治、魔道具作成、錬金術などで使う貴重な素材だった。