第3話「アジト(1)」
謎の犬耳少女2人に助けられたメネアは、無事に独房を脱出することができた。
とはいえ安心するにはまだ早い。
疑問も増えるばかりだが、犬耳少女たちは鋭い瞳で周囲を警戒し続けており、気軽に質問できる雰囲気ではなく。
黒い猫耳と尻尾をピンと立てつつ、メネアは2人の誘導に従うことにした。
留置場を抜けても、彼らは足を止めなかった。
華やかなビルの谷間を通り、にぎやかな雑踏の隅を抜け。
ハンマー持ちの犬耳少女に手を引かれつつ、連れてこられたのは――
――廃墟っぽい雑居ビル。
放置されて随分経つのだろう。
店舗の看板らしきものが残ってはいるものの、すっかり色あせ、文字もほとんど取れていて、現役らしき面影はどこにも感じられない。
先導していた眼帯犬耳少女が入口扉のカギを開け、無言で「入れ」とジェスチャー。
もう1人とともに、メネアも建物の中へと足を踏み入れた。
照明もついておらず薄暗い室内。
ただし差し込む月明かりで、かろうじて様子を伺うことはできる。
大量に規則正しく並ぶ、古めかしいコンピュータ。
透明なガラス張りの中に、アームっぽい部品が付いた巨大な装置。
劣化して読めなくなった張り紙がべたべた貼られたサービスカウンター。
どこかレトロで、歴史すら感じさせるイラストが印刷されたポスターや旗。
一足先に入ったはずの眼帯少女は、気づけば姿を消していた。
メネアが興味深げに室内を見回したところで、ハンマー持ちの犬耳少女が言った。
「お疲れさま、もう喋ってOKだよ!」
ふぅと一息ついてからメネアも口を開く。
「……まずは助けてくれてありがと」
「どういたしまして!」
「で、結局キミたちは誰?」
「さっきまで一緒だった眼帯の子は、僕の双子の姉で『キディ』って名前。ちょっと口数が足りないから誤解されやすいけど、頭は切れるし良い子だから、仲良くしてくれるとうれしいな!」
「あ、うん」
「そして僕はアスティ、見ての通り犬耳族の16歳。パワーには割と自信あるから、何かあったら頼ってね!」
アスティと名乗った少女は、ハンマーを構えてニカッと笑う。
まさにそのハンマーを振り回した彼女が留置場の鉄格子を1撃で破壊したのを思い出し、小さく身震いするメネア。
直前に触ってみた限りだと、鉄格子は太くて硬くて丈夫で、とても生身で壊せるような感じじゃなかったはずなのに……アスティが味方っぽくてよかった、と心の中でつぶやいた。
「……私はメネア・フェリス、猫耳族で15歳」
「おっ、年近いじゃん! メネア、これからよろしくね!」
「よろしく……」
フレンドリーっぽいアスティの受け答えに、怪しい部分は見当たらない。
とはいえ用心するに越したことはない。
“怪しくないからこそ怪しい”って可能性もあるし……。
……念のため気を引き締めつつ、メネアは質問を重ねることにした。
「それで、ここは?」
「閉店したゲームセンターさ」
「ゲームセンター?? 何それ?」
首を傾げるメネア。
「まァ普通は知らないよな……」
手近な装置を感慨深げに撫で、アスティは話を続ける。
「……ゲームセンター、通称ゲーセンってのは、かつてあちこちの街にあった遊技場のことさ。ここに並んでる筐体みたいに様々なコンピュータゲームやメダルゲームが設置してあって、幅広い世代のお客さんが遊びに来てたらしい」
「でもゲームって普通は自分の家で遊ぶもんじゃないの?」
「そりゃ今はそうだけど、昔はちょっと違ったんだよ……ほら、これ観て!」
と腕時計型端末で空中にディスプレイを投影するアスティ。
そこにはかつて賑わっていたゲーセンの資料映像が映し出されていた。
「前提として、昔はインターネットやAIなんかが今ほど発展してなくて、コンピュータゲームは専用施設で遊ぶっていう文化が存在していた時期があったのさ」
「へぇ~初めて聞いた」
「といっても僕らが生まれるより昔のことだし、僕だって当時の様子は“こういう資料映像”で観ただけなんだけど……同好の士と競い合ってブチ上がるもよし、買い物途中にフラッと立ち寄って遊ぶもよしって感じで、当時のゲーセンは盛り上がってたらしいよ。単にゲームするだけじゃなくて、独自の熱気と興奮に包まれた総合的なアミューズメント施設というやつだねー」
「だったらどうして今は残ってないんだろ?」
「やっぱり家庭用ゲームの進化と普及が大きいと思う。ネットでの通信が当たり前になったり、高性能な記憶装置や演算装置を安く大量生産できる技術が発展したりとかの影響で、わざわざ出かけなくても自分の部屋で手軽に最新ゲームを遊べる時代になったんだ。他にも複数の要因が重なったんだろうけど……ま、結果としてゲーセンは衰退。その流れで放置された建物の1つを、僕らの組織が拠点として有難く使わせてもらってるってわけ!」
「待って、組織ってどういう――」
「Vanadies……神食者集団『Vanadies』、それが私たちの組織です」
背後から聞こえた声がメネアの質問を遮る。
振り返った先にいたのは、眼帯を付けた犬耳の少女。
「お疲れキディ! “みんな”のOKは出たかい?」
「ええ……“条件”付きではありますが……」
2人の犬耳少女は素早くやり取りすると、メネアのほうへと向き直った。
「……詳しくは、奥で説明します」