表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/13

第11話「黒猫少女は、帰還する(1)」


 気づけば、既に日は昇りはじめていた。


 差し込む早朝の(まぶ)しさに自然と起こされたメネア。

 ふわっと大きく伸びをしてから、気の向くままに目を開ける。



「……むにゃぁ…………ん? ここは……?」



 見慣れた路地裏の片隅。

 メインストリートから離れた静かな場所。

 配達の近道がてら使ってた馴染みのルートの1つでもある。

 1週間前まで毎日のように駆け抜けていたはずなのに、今となっては遠い昔のことのようにも思えてくる。



「私、なんで外で寝てるんだっけ――」


 首を傾げたメネアの目に止まったのは、肌身離さず首から下げている御守り(金色の指輪)





 ――瞬間。

 メネアが思い出したのは、()()()()()





 神食者(ハッカー)集団『Vanadies(ヴァナディース)』に加入し、初めての作戦参加。

 目的は、ゼルン区役所に侵入し、機密データを入手すること。

 難易度は低めの作戦であり、失敗するほうが難しいぐらいなのだという。


 確かに途中まではスムーズだった。

 建物内へ入り込み、途中見つかることもなく3Fへ到着できたのだ。

 だがサーバールームの入室認証システム解除時のこと。

 メネアが練習どおりの手順で神食(ハック)を発動したところ……。


 ……背後で()()発生。


 振り返ったメネアが見たのは、倒れるキディとカヤの姿。

 ピオーネに責められ、アスティに疑われ。

 混乱したメネアは、思わず走り去ってしまって――





「そこからの記憶はなくて、気がついたらここで寝てたんだよね…………はァ ……どうして、こんなことに……」


 頭を抱えるメネア。


 だが時間が経過したおかげだろう。

 パニックで逃げ出した昨夜に比べれば、多少気持ちは冷静だ。




 ()()()()()()はいくつもある。




「キディ……カヤ……2人とも、大丈夫かなぁ……」


 彼らと一緒に過ごしたのはたった1週間だけ。

 だが1日1日がとても濃くて、仲良くなるには十分過ぎるほどだった。

 とても他人とは思えないからこそ、彼らの安否が気がかりである。


 メネアとしては、2人とも無事だと()()()()

 だがあのとき、倒れて動かなくなって、血がいっぱい出てて……あの状況を見る限り、()()()()()ばかりが頭をよぎる。




「……ていうか、そもそもなんで爆発したの? 正直、意味わかんないよ……」


 昨夜のメネアは練習通りに神食(ハック)を発動したはずだった。

 なのに起こったのは“爆発”だった。

 振り返った時には既に爆発が起きていたし、詳しい状況は分からない。


 だけど1つだけ確実なことがある――



 ――原因は【同期(シンクロ)】以外の“何か”。


 メネアは何度も練習するうち、おぼろげながら「【同期(シンクロ)】とは何か」を理解できるようになった。

 相変わらずPCもプログラム用語もよく理解できていないまま。

 だが【同期(シンクロ)】を発動するときだけは“わかる”のだ。


 システムには“流れ”のようなものがある。


 その流れを感じ取りつつ、“行わせたい動作のイメージ”を脳内に浮かべる。

 しっかり固まったところで【同期(シンクロ)】を発動することで、初めてシステムを上書きすることが可能となる。


 だがメネアが意識した“システム”は、あくまで“扉に直結する防犯装置”のみ。

 そもそも【同期(シンクロ)】の効果が他の装置まで及ぶはずもない。


 よって断言できる。

 自分の【同期(シンクロ)】が原因じゃない、と。





「……だけどピオーネとアスティ、私のこと疑ってた、よね?」


 特にピオーネは“爆発を起こしたのはメネアだ”と信じ込んでいた。

 普段は絶やすことない笑顔が消えて、いつになく動揺して――

 ――無理もない、とメネアは思う。

 ピオーネは自分とは比べものにならないぐらいの長い時間をVanadies(ヴァナディース)で過ごしている。

 そりゃ昨夜はショックだっただろうし、あのタイミングじゃ「メネアの【同期(シンクロ)】で爆発した」と誤解したってしょうがない。


 アスティだってそうだ。

 特にキディは彼女の双子の姉なのだから。



 脳内に焼き付いて離れないのは、別れ際のピオーネとアスティの顔。


 少なくとも爆発は、メネアのせいじゃないはずだ。

 だけどそれを証明できなければ、彼らの疑いを晴らせないわけで――




「私……Vanadies(ヴァナディース)には……戻れないんだろうな…………これから、どうしよ……」


 メネアは途方に暮れてしまった。




 きゅぅぅ……。


 申し訳なさげに鳴り響いたのは、メネアのお腹。


 何気なく、左手の腕時計型端末(デバイス)――Vanadies(ヴァナディース)加入時、キディに渡された連絡用デバイス――を見る。




「あ、もう6時半だ……」


 配達員時代は早寝早起きが基本だった。

 Vanadies(ヴァナディース)に入ってからは生活リズムが不規則になったものの、毎朝6時半には決まって空腹で目覚めるあたり、メネアの腹時計は正確らしい。

 なぜなら配達員時代の彼女は、毎朝6時半には昨日のスープとパンを温めて、店長と一緒に朝ごはんを食べていたのだから。


 あの頃はそれが当たり前だった。

 こんな日々がずっと続くんだって、疑いすら、しなかったのに――




 ふと鼻をくすぐるのは、パンが焼ける香ばしい匂い。

 近くに住むどこかの家族が朝ごはんを食べているんだろう。



「……ちょっとだけ、帰っちゃおうかな」



 メネアはふらっと立ち上がり、歩き始めた。





 ***





 10分ほどで、()()()()()()についた。

 忘れもしない裏路地に佇む古びた建物。

 メネアは軽く深呼吸、それから思い切って扉を開けた。



 ――カチャリ



「……ちと早すぎるだろ……流石にまだ開店前さねぇ――って、アンタ……!」


 ブツクサ文句を垂れつつ、奥から歩いてきたのは猪耳族(イノミミぞく)の老婆店長。

 住居と店とを隔てる扉を開けた瞬間、彼女は目を見開いて固まった。


「店長……あの――」

「さっさと入りな。話はそれからだ」


 どうにか喋ろうとするメネアを、我に返った店長が慌てて(さえぎ)り、奥の居住スペースへと向かわせたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


こちらも連載中です!
『ブレイブリバース!~会社員3年目なゲーマー勇者、器用貧乏系な吟遊詩人。男2人で気ままに世界を救う旅。』
RPG『Brave Rebirth』に熱狂するプレイヤーの拓斗は、ゲームにそっくりな異世界に召喚され勇者になったが……。ゲーム時代の経験や攻略サイト情報等を駆使しつつ、なるべく安全第一に、だけど楽しむことも忘れずに、世界を救おうと奮闘する召喚勇者の物語。

ランキングサイトに参加中です。
もしこの作品が気に入ったら、クリックお願いします!
小説家になろう 勝手にランキング
(投票は、1日1回までカウント)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ