第10話「Operation Mistletoe -オペレーション ミスルトゥ-(2)」
◆補足
本日は2話(前話と本話)連続更新です。
侵入からの動きは早かった。
あらかじめ割り出した最短ルートを辿って。
定期周回する警備ロボの間をすり抜け。
最低限のセキュリティシステムを解除しながら。
トラブルを起こさぬよう注意して、慎重に慎重に進んでいく。
そして訪れた最後の“難関”。
――ゼルン区役所3F/サーバールーム。
区民の個人情報から税務・公共事業情報まで、ゼルン区役所で扱うデータの全てが保管されている部屋だ。
本作戦の標的となる最重要機密以外にも、流出NGな情報が膨大に含まれていることもあり、サーバールームの扉は厳重なセキュリティで守られているのだという。
少女5人が扉の前に揃ったところで、キディが口を開く。
「……さてメネア……お話ししていた『サーバールーム入室認証システム』がこちらです……早速、解除を頼めますね?」
気づけばメネアの手は、ガチガチに震えていた。
事前に詳しい説明は聞いていたし、本番を想定した解除練習も何十回と行っている。
だが本番環境での神食の使用はメネアにとってこれが初めて。
深夜の静けさが支配する公共施設の廊下。
サーバールームの分厚い扉。
練習で触ったものより頑丈っぽいセキュリティ機器。
見るもの全てが、ただひたすらに彼女の緊張を煽ってくるのだ。
――ぽんっ
優しく肩を叩かれたメネアが振り向く。
そこにいたのは――Vanadiesの仲間たち。
圧倒的なパワーを持つムードメーカーで、頼りがいあるアスティ。
クールな表情を崩さないが、何だかんだ気遣いの人なリーダーのキディ。
最初は怖かったものの、今ではもっとも親身になってくれているカヤ。
嫌な顔ひとつすることなく、いつもニコニコ練習に付き合ってくれるピオーネ。
……そうだ、私は1人じゃない。
しかも仮に解除に失敗しても、他に手段はいくらでもあるらしい。
例えば扉をアスティが強制破壊するとか……うん、あのパワーなら余裕だな!
思わずクスッと笑ったことで、メネアから肩の力がいい感じに抜けた。
「いきます……!」
メネアは小声で宣言し、首から下げた御守りを左手で握りしめる。
それからゆっくり“入室認証システム解除”のイメージを固め始めた。
この防犯装置の構造自体はキディの事前調査で把握済み。
現在感じ取れる“システムの流れ”は、あらかじめ聞いていた構造どおり。
ならば練習通りの手順で、問題なく解除できることだろう。
メネアは落ち着いて、練習で何度もやった通り、1つ1つの改変手順を丁寧にイメージしていく。
外部へのセキュリティ通知機能の改変。
IDスキャン機能のクリア。
パスワード入力機能のクリア。
扉のロック機能が解除されたところで、最後に扉を開放させて――
イメージ全てが固まったところで。
メネアは扉に右手をかざした。
「…………【同期】」
宣言とともにメネアの体が金色に光る。
そして扉が開く……はずだった――
ビカッ、ボカンッ!
背後から小規模な閃光と爆発音。
反射的に後ろを振り返るメネア。
目に飛び込んできたのは――
――爆発に巻き込まれた2人の少女。
彼らは倒れ込み、そのまま動かなくなってしまった。
薄っすらとカヤを中心に立ち昇る煙。
ツンと鼻につく火薬の匂い。
時間差で広がっていく血だまり。
「嘘だッ……」
呆然と膝をつくアスティ。
「なんで……なんで こんなこと したの?」
笑顔の消えたピオーネが、メネアを見て後ずさる。
「何言って――」
「カヤの こと、そんなに きらいだった?」
「違っ……私じゃない、私は何も――」
「ちがわないッ! だって あのときと……デネボラのときと おなじだものッ!!」
必死に否定するメネア。
だがピオーネは聞く耳を持たず、ただ全力で責めるのみ。
「メネア、まさか……!」
ピオーネの言葉にハッとするアスティ。
その顔は、恐怖の色に染まりきっていた。
パニックになったメネアは、思わずその場から走り去ってしまった。