エレン、デビュー
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)
僕は音楽配信サービスに入っている。前は無料版だったけど、AIスピーカーで曲名指定して鳴らしたかったり、曲をスキップすると必ず長い広告が入るので有料版を契約した。
スフィアの女の子もそれを聴いて楽しんでいるようだ。
「エレンの音楽の趣味、もう一歩良いとはいえないね」
「何言ってるんですか。サイコーですよ」
まあ、人それぞれだからね。他人の趣味に口だししたのは不味かったか。
「大体、時代によって評価は変わるんですよ。2、30年前まではオタクやヘビメタは嘲笑の対象とかなってましたよ」
「今も蔑視対象としたがる連中もいるから」SNSで罵詈雑言を書き込む連中の比較対象にはなっていたりする。
80年代、ネアカが信奉される時代、ちょっと暗くて気が小さいだけで迫害の対象となっていたらしいとツイートで読んだことがある。LGBTや黒人が声を上げて市民権を得るようになったけど、オタクとか時々、罵倒対象だ。
確かに撮り鉄とか迷惑行為もし、行動が知的障害を疑わせる状態なのだが、それはそれで、容認すべきところもあると思っている。
それはそうと、エレンに小説とか書いて貰ったら、それはそれで話題になるんじゃないだろうか? でもそうするとエレンの存在を公にしてしまうことになる。それはちょっと。
YouTuberとして世に出すのはどうだろう。そうだ、Vtuberとして出て貰おう。
「なあ、エレン、動画配信に興味ないか?」褐色の少女はスフィアの中で振り返った。
ただスフィアの動画撮って、エレンがだべっているシーンを撮せば良い。面倒なことはなにもない。
「君の言いたいことは分かった。僕でお金を稼ごうというのだろう。人気出るかな?」
「出なかったら、また普通の生活に戻れば良い」
――嫌なら嫌で……
「うん、いいよ」エレンはすんなり承諾した。え? いいの?
早速、ノートパソコンのカメラの前にAmazonの箱で台を作ってスフィアを載せる。
「じゃあ適当に喋って」エレンを促す。
「こんにちはー、視聴者のみなさん。僕はエレン。このスフィアは人工知能のシステムだよー。500年前に天才錬金術師の師匠からこのスフィアに移し替えられたんだ。
師匠は、蜂蜜パンが大好きで、市場に行ったときはいつも買って帰って、生前の僕と二人でお茶したんだ。良い先生だったけど、亡くなって数百年経つんだよね、クスン。お茶と言っても当時はハーブティーだけど」
こんな感じで10分ほど喋って収録終了。アップロードする。
「お疲れ。一日1本作って行こう。認知されるまで時間が掛かるはずだから」
エレンには500年の経験と膨大な知識がある。当分は大丈夫だろう。
「今日はお悩み相談の回~とかやろうかな。実存主義に仏教が与えた影響について語ったり」
フォロワーが収益ラインを超えたのは1ヶ月も経たなかった。
――なんで、エレンちゃんは褐色肌なんですか?
「マスターの趣味です」
ちょっ、そこまでバラさないで。
「でも、今ならいくらでもお金になる存在なのになんで知られてなかったのだろう」
僕は疑問に思った。
「うーん、前のマスターがおじいちゃんだったんだよね。新聞とテレビしか見ない。で、公開すると離ればなれになるからって他人に見せなかったんだよ。まあ、メディアと時代がビックリしなくなったと考えるのが妥当じゃないかな」
あー、AIが絵画描いてコンテストに入選するくらいだからね。チャットで会話できるのもあるし。
「オーパーツじゃなくなって来ただけだよ」
まあ、目立つのもちょっと問題あるし、最先端風なのが良いかもしれないね。




