エレンの成功法則
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「エレンも将来が不安になることはあるかい?」
「ないわ。感情は凍結されているからね。まあ、何したって、どう保険を掛けておいても人間は不安からは逃れられない。芥川龍之介が『ぼんやりとした不安』を理由に自殺したのもそう。先生は私を過去や未来に囚われない仕組みに組み込んで置いたのよ。だから大丈夫」
僕は時々不安になるんだけどな。ただ、エレンが来てからその回数は減った。個人としては減ったけど、国レベルへの不安はある。最近では崩壊の一途へ向かっている隣国がちょっかい出してこようとしている。
「エレン、僕は病気や老化や戦争が怖いよ」
「自分じゃどうしようもないものに心煩わすのは時間の無駄ですが、苦しみが嫌だというのはわかります」
「なにか為になる話をしておくれ」
「はい、2人の野心家の話をします。
1人は、成功を求めて偉人伝や成功物語ばかり読んでました。
もう1人は、失敗談ばかり読み、若い頃から自分で試行錯誤して失敗を積み重ねてきました。
最終的に成功したのはどちらか分かりますか?」
「え? 成功を求めた人だろう?」
「残念でした。基本的にマスターは勘違いしてます。成功譚は星の数ほど有りますが、失敗談のパターンは5つくらいしかありません。前者は失敗から学ぶことなく、挫折していきました。後者は、失敗を回避して大成功したのです」
と、エレンは以前のマスターに相談に来た2人の青年の名を上げた。前者の名前は知らなかったが、成功した人の名前と会社の名前は知っていた。世界的大企業だ。
「ビジネス書やセミナーでは成功者の話ばかり出てきます。でも、マネをしても上手くいきません。運、資力、努力、環境が違うせいです。やる気は得られるかも知れませんが成功そのものは得られません。
その人の言葉です。『6割やって、ミスがないか点検しろ。そして、ミスを潰して、また6割やれ、これを繰り返していくことで失敗は回避できる。大失敗は、ちょっとしたミスから起きるんだ』」
知人の経営上のミスを思い出した。下請けの会社をやっていたけど、収入の大半を親会社に頼っていて、ある日、親会社がリストラで発注が無くなりその会社を切ることになった。社員ならまだしも、協力会社だったからバッサリ切られて倒産。今、社長は警備員をやっている。複数の取引先を持っていれば良かったのだけどね。
それにしても、エレンは優秀なAIス……
「今、私のことAIスピーカーだと思ったでしょ」
「い、いや、思ってないですよ?」
見透かされた。思わずキョドってしまう。
「聞き方からしてそうでした。私は人格を持っているんです。まだ未完成なAIと違って」
怒られてしゅんとした。口に気をつけよう。賢者は失敗から学ぶ。




