都合のよくない世の中
僕たちは何のために生きるのか?
生まれた理由は何だろう?
社会を構成する動物として進化したのはなぜだろう
疑問が尽きない
ただ一つだけ、僕はまともじゃないという事実だけ。
僕たち人間が他の種より圧倒的に優れている点、それは間違いなく欲望の強さだろう。
食欲、睡眠欲、性欲。人間の三大欲求。また承認欲求や物欲、ほかにもたくさんある。
ある日のことだ、家に帰ると妻の喘ぐ声、ベットの軋む音が耳に響いた。
もちろん、僕が鳴らしている音ではない。
その数秒後,まったく知らない男の声も聞こえた。
すぐに情事だと気づき、現場に向かった。
そこは僕たち夫婦の寝室だった。
僕がたどりついても、今だ気づかずに腰を振っている。
彼らにはお互いの音しか聞こえていないのだろう。
怒りに支配された僕の頭は思考を停止させ、いや冷静にキッチンへと向かい16センチ弱の三徳包丁を手に取った。
もう一度、寝室へ戻り、
『ブスリっ』男の首を刺した。
”え?”
配偶者だった女の驚きの声が聞こえ、時が止まったような静寂が場をつつんだ。
そして「きゃーーーーー」ワンテンポ遅れて悲鳴が響く。
生まれた姿のまま泣きそうな顔で僕を見て。
”え?”
僕の顔を認識した女の”恐怖”と”困惑”と”絶望”の顔は不覚にも美しいと思えた。
だが僕の口から出た声は己から出たとは思えないほど冷たく、威圧的なものだった。
「優花・・・君は僕を裏切らないと思ったのにね。残念だよ」
「しーくん違うの、待って。話せばわかるから、、、」
彼女の首を両手で掴み、ゆっくり締め上げていく。
「・・まって・・おね・・がい・・・た・す・・けて」
「それじゃ、さようなら」
息が絶えたの確認して、僕は手を離した。
これが小説やドラマ、漫画なら、僕は彼と彼女を殺さず、失意のどん底に沈むだけだろう。
そして傷心した僕に都合のいいヒロインが現れて傷を癒してくれるのだ。
しかしこれは”現実”だ。
これが対価だ、報いだ。
だって、世の中はそれほど都合がよくないのだから。
僕にとっても彼女たちにとっても。
女の親族は激高するだろう。やりすぎだ、殺すべきではなかった。
男にも家族がいるかもしれない。僕に正当に怒りぶつけ、紛糾してもいい。
この後、僕は捕ればもしかしたら死刑になるかもしれない。
もし僕に家族が残されていたならば、不特定多数の人間から、身勝手で自慰的な正義の攻撃を受け、犯罪者の家族というレッテルを張られ生きづらくなっただろう。
だがもう一度言う、これは”現実だ”。
僕は殺したいという欲を満たすために行動し、この結果が生まれた。
だが僕の欲の原因は彼女たちによるものだ。
そして結果は変わらない。
もし僕に他に家族がいたなら、僕とこの女の間に子供がいたならば、僕はこんな無責任な行動はしなかっただろう。
結果へ行きつく過程で、欲に支配されずにただ自らの無力さを呪って終わったことだろう。
だが、そうならなかった。僕にはもう家族はいない。
また、僕は欲を満たせたのだから、そこに後悔や反省などないのだ。
それに僕もこれが初めてという訳ではない。
しつこいようだが最後にもう一度、
”現実”はそう都合がよくない。
事実は小説よりも奇なり