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第96話 お別れ

「――せ、先輩!!」

 

 後ろから知ってる声が飛んできたので振り返った。

 

「ダラネーさん、寝坊はしなかったみたいだな」

 

「こんな時に寝坊なんてしたら、お馬鹿さんじゃないですか」

 

「あぁ、うん……」

 

 彼女と会ったというのに場の空気が沈んでいる気がした。

 

「これ、どうぞ寄せ書きと花束です」

 

「こんなの用意してたんだ」

 

「知ってるくせに~~」

 

「ああ、そうだな。誰かが去る時は決まってこうだったな。じゃあね。お別れしてもずっと友達だよ」

 

「はーーーーい!!」

 

 ぎゅうっと、ダラネーさんに抱き着かれた。

 

「おお、お、おい……」

 

「先輩、ありがとね……」

 

 震えた声が耳元で聞こえて来た。

 

「――皆さん整列です!!」

 

 ビッシィ使用人長がそういうと、ダラネーさんは離れて行き、全ての使用人がその後ろで整列した。

 

「ロードさん、長いことこのストンヒュー宮殿にお仕えしてくださりありがとうございました。使用人一同、あなたと共に働くことが出来た日々を忘れはしません。あなたの思いやりと優しさは王様という主人たちだけでなく私たちにも向けられていました。ときに励まされ、ときに助けられ、ときに学ばされ、あなたは使用人としてだけでなく、人としても立派な方でした」

 

「ささやかながらここに感謝の意を示します」

 

 一同静かにお辞儀をする。

 

「私たちはこれからもここで頑張ります。ロードさんも挫けずに頑張ってください」

 

「はい」

 

「長い間、お疲れさまでした」

 

『『『お疲れさまでした』』』

 

 もう一度綺麗なお辞儀を見せてもらった。

 

「こちらこそ、今までお世話になりました」

 

 ロードもお辞儀を返してあげた。

 

「道を開けろ開けろ!! これから旅立とうとしてるやつの邪魔してどうするんだ?」

 

 強引に道を開くオオカミが現れた。

 

「おはようルロウ」

 

「おう」

 

「ここで働くっ聞いたぞ?」

 

「オレもお前と同じように新しい道ってのに挑戦しようと思ってな」

 

「そうか、お前はこれから使用人になって、オレは広い世界を旅するわけか。逆転したな」

 

「続くかは分からん……」

 

「その恰好、けっこう様になってるよ」

 

 イヌ用の使用人服を着ている。

 

「そんなわけないだろ…………」

 

 ルロウは下を向いて黙り込んでしまった。

 

「?」

 

「あのさ~~オレこんな性格だろ? 中々旅先で仲間とかできなくてさ……ずっと一匹でいたんだよ……だから、あのとき、知り合ってくれて、ありがとな」

 

 照れくさそうに目を合わせずに言ってきた。

 

「……ははっ、今更だな……けどお前らしい」

 

「……もう一つ、旅立つお前に先輩として助言してやる。旅を楽しむことを忘れるな……」

 

「ああ、わかった」

 

「楽しかったよ。お前らとの旅」

 

「オレもだ」

 

 挨拶は済んだ。

 

「ところでネズミたち見なかったか?」

 

「後ろにいるぜ……出て来いよ」

 

「「「チュー」」」

 

 3匹ともルロウの背中から頭に上がって来た。

 

「なんだろ……久しぶりにあった気がする」

 

「昨日会ったチュウ」「ロードは寂しがりなんだチー」「そんなんで旅にでてやっていけるチャア?」

 

「行ってみないとわからないさ」

「おいで……」

 

 手を差し出して登らせて、腕に並ばせてやり、向き合う。

 

「子供の頃から、うるさい奴らだったけど、お前たちには一番世話になった」

 

「うるさいは余計チュウ」

 

「でもお前たちがいつも一緒にいてくれたおかげで楽しかったよ」

 

「は、恥ずかしいチー」

 

「あんないい絵本を見つけてきてくれたしな」

 

「たまたまだチャア」

 

 

「……もうオレは大丈夫だ」

 

 

「強がりだチュウ」「別世界なんて面白くないチー」「どうせ帰って来たくなるんだチャア」

 

「最後だからちゃんと聞いててくれ……」

 

「「「!?」」」

 

 

「部屋で寂しくさせないために一緒にいてくれてありがとう。やりたいことがあったとき応援してくれてありがとう。何かを失敗してしまったとき励ましてくれてありがとう。悪い夢を見ないように願ってくれていてありがとう」

 

 

「お前たちのおかげでオレは一人前になれたよ。ありがとう」

 

 

「「「……………………」」」

 

 

「ホントに行くのかチュウ?」

 

「ああ」

 

「もう決めたチー?」

 

「ああ」

 

「も、もう会えなくなるチャア」

 

「ああ」

 

 

「!?」「チ、」「チャ、」

 

 三匹とも顔を伏せてしまう。

 

「「「チ、チュワ~~~~~~~~」」」

 

 

 そして、涙を流していた。

 

 

「ロード行かないでくれチュワ~~」「ずっとここにいてほしいチィ~~」「別れるなんて嫌だチャアア~~」

 

 腕にすがりつかれる。

 

「おい、いつも一人前になれなんて言ってたのはどこのネズミたちだ」

 

「誰でもいいチュ~~」「チー達を置いくなチ~~」「一緒に居たいチャア」

 

 その姿を見せられると流石にくるものがある。

 

「や、やめろって…………」

 

 目元が震えるが我慢する。

 

「お前たちに一番見送って欲しいんだからさ」

 

 しかし、声の震えは抑えが効かなかった。

 

「チュウウ~~」「チー、チッ」「チャウ、ウウ~~、ウアッ」

 

 泣いている3匹にもう片方の手である物を差し出す。

 

「……これをあげる」

 

「チュウウ~~?」「チ~~達の?」「部屋の鍵チャ~~?」

 

「あの部屋はお前たちにあげる」

「やっぱりあそこがお前たちの帰ってくる場所であってほいしいんだ」

 

 

「ホントにそう思ってくれてるチュウ?」「チー達にくれるチー?」「部屋を使っていいチャア?」

 

「ああ……ずっとそうだったろ? 遠慮しなくていいんだ」

 

 協力した3匹は鍵を受け取ってくれた。

 

「ロードお願いがあるチュウ」「別の世界に行って戻ってくる方法を見つけたらあったら」「また、会いに来てほしいチャア」

 

「!? …………ああ、わかった見つけたら会いに来るよ」

 

「「「約束チュー、ロード」」」

 

「ああ、約束だ……ハチュ、チッカ、ツア」

 

 3匹をルロウの背中に戻してやる。

 

 

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