第920話 勝負の流れを作る者
ミッチカジノ。
グラスの丁半博打の結果、ロードたちのチップは6500万になった。
ロードたちは小腹がすいたのか、飲食をしていた。
「そろそろ勝負の続きをしませんか?」
ラバイがのんきに食事している者たちに言う。
「もう少し待ってくれないか?」
ハズレがワインの香りを楽しみながら言う。
この時、
(ハズレの言うラバイさんの流れを途切れさせないと)
スワンが水をちびちび飲んでいた。
(このままではギャンブルに負け続ける)
ロードはステーキを切り取り、口いっぱいに頬張る。
「腹が減っては戦はできぬ」
ブケンがガツガツと豪勢なディナーにがっつきながら言う。
「ラバイさんもお腹空いたんじゃないの?」
スロプがパスタをすすっていた。
「私は結構……(この緊張感のなさ、本気で勝負する気あるの? 破産したら奴隷の道なのに)」
ラバイはそっぽを向いた。
この時、
(どんなゲームで対戦しましょう……)
ドノミはサラダを口に頬張りながら考えていた。
◆ ◆ ◆ ◆
ミッチカジノ・ルーレット場。
皆の食事が終わるとドノミはラバイにどんなゲームで勝負をするか訊かれた。
「う~~~~ん、ルーレットでお願いします」
ドノミがそう言うと、ラバイは冷や汗をかきながら笑っていた。
(その苦笑いが、こっちに流れを運んでくれるといいけど)
ロードたちはこうしてルーレット場に来ていた。
先日もここでオオトリという客がゲームを楽しんでいたが、
それはラバイの接待により操作されたイカサマ勝負だった。
「ラバイさん。今回は出番はありませんよ? ディーラーは一番新人の方にお願いします」
ドノミはイカサマを未然に防ぐ。
「いいでしょう」
ラバイは提案に乗った。だが、
「その代わり、私はゲームに参加します」
「「「?」」」
誰もその意味が分からなかった。
「もう一度言います。私はゲームに参加します」
「「「えっ?」」」
ロード一行はディーラーでもなければ、プレイヤーになれるわけでもないゲームに参加すると聞いて、疑問に思った。
「あなたがディーラーをしてください」
ラバイがディーラーに指名したのは……
「えっ!? わ、私ですか!?」
ドノミだった。彼女は驚いていた。
「あなた方は流れを変えたい。さらに私のイカサマを疑っている。ならば、あなた方がディーラーになればよいのです」
ラバイは余裕たっぷりの含み笑い浮かべていた。
この時、
(そう来たか……)
ハズレは一杯食わされたと、眉をピクリと動かした。
一同はルーレット盤を見ていた。今回のは昨日見たルーレット盤とは違いゆっくりと回転していた。
「動いてるぞ……昨日とは違うじゃねーか」
グラスがツッコむ。
「日によって違うのです」
ラバイはルーレット台の席に座る。
「待ってください。私はまだ受けるとは――――」
「おかしな話、あなたが自分で言ったことでしょう? 新人ディーラーさんに任せたいと」
ラバイの表情は不敵な笑みに変わる。
この時、
(まずい)
ハズレは思い――
「ドノミさん受けた方がいい、流れが向こうに傾いてくる前に」
ヒソヒソ声でドノミにアドバイスをする。
「わかりました」
ドノミはしぶしぶ承諾した。
「ハズレ、どうした?」
ロードがハズレの豹変に驚き事情を聞く。
「流れを持ってかれたかもしれない」
ハズレはバツが悪そうに言う。
「えっ、オレたちが一息入れればまた流れは傾くんじゃなかったのか?」
ロードに緊張が走る。
「そうだけど…………いや、オレ自身も分からないけど、なんか嫌な予感がする」
ハズレの表情は決して楽観視できるほどのものではなかった。
(何が起きてる?)
ロードは気を張った。
「あなた、少し見学なさい」
ラバイは正面に立っていたディーラーに言いつけた。
「はい」
女性ディーラーが後ろへ下がる。
「それでは私がディーラーを務めさせていただきます」
ドノミがディーラーの立ち位置にやってくる。
「ルールは簡単、私が当たりを宣言して、あなたが外れにチップを賭ける」
ラバイはクスクスと笑っていた。
「あなたが宣言する?」
「そう、私が当たりを宣言するから、あなたは私が外した時勝利する……お分かり?」
「要するに賭けで負かして見ろってことですか?」
「そういうこと……」
「わかりました。受けて立ちます!」
ドノミは勝負を決めた。
「では、あなた、この人に球の流し方をレクチャーして……」
「あっ、はい」
その後ドノミは女性ディーラーに球の流し方を教えてもらい、数回練習していた。
この時、ラバイは勝負師の顔つきになる。
それを見たロードは、
(ただ者の顔つきじゃない。ラバイ……キミは一体何者だ?)




