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第90話 これがオレの秘宝玉

 ストンヒュー宮殿・屋根の上。

 

 深い夜空の下でロードと魔王が対峙している。

 

「さっきの光は何だ!?」

 

「それをこれから探すのさ」

 

「意味不明なことを……お前の持っている剣は竜殺しのはずだ!」

 

「もう違う」

 

 魔王は黒い衣を広げていき、内側から無数の黒い矢が射出させた。

 キキキキキキン!! と剣を振り回して黒い矢を弾き返していった。

 

「――吹き飛べ!!」

 

 黒い衣を翻すように振られて、まるで怪物の腕のように伸びてきた。

 

「――ぐううっ!!」

 

 黒い衣に払われて、屋根から落ちそうになるところで踏みとどまった。

 そこに黒い衣が足を払うように迫ってきた。

 けれど、跳んで避けて、魔王に向かって走り出す。

 黒い衣を戻した魔王は、両手を構え黒い靄を溜め込んで行く。

 

「秘宝玉の力を思い知れ!!」

 

 砲撃とも言える黒い靄が放たれた。

 黒い屋根を、砕き、壊し、叩き、削り、殴り、こちらに迫ってくる。

 

「――――がっ!!」

 

 剣を盾にしたが、打ち付けられ吹っ飛ばされた。

 けれど、すぐに立ち上がって走り出す。

 

「雑魚が!! 悪鬼の夜行おおおお!!」

 

 再び両手から黒い靄が放たれた。

 走りにくい屋根の上をそれでも駆け抜けて避けていく。

 

「自ら逃げ場をなくしたな!!」

 

 屋根の斜面を走にくそうにしていたのでそう見られた。

 

「オレが最強だ!!」

 

 黒い靄を放って来た

 

(逃げ場はいらない。進むだけだ!)

 

 屋根から勢いよく踏み出して跳ぶことで、攻撃を避けて敵に近づけいていく。

 ――ズバッ!! と竜封じの剣で斬り裂いた。

 

「グウオオオオッッ!! 秘宝玉も持たないただの人間があああああああ!!」

 

 腕を振ってきたので、避けてから間合いを取った。

 

「雑魚があああああああ!!」

 

 両腕を合わせると黒い靄が渦巻いて形を変えていく。

 

「――麻黒の大剣!!」

 

 身の丈の倍以上の大剣を、上から下に振り下ろしてくる。

 ガキーーーーン!! 思いっきり下からはじき返してやった。

 

「――何故!?」

 

 手がビリビリしびれたけど、どうにかなった。

 

(どう、して、昨日と違うか……わからない、だろうな)

(これが、立ち向かうか逃げるかの違いだ)

(これが、強さだ)

 

 魔王を剣で斬りつけに……。

 

 そのときガクン……と片膝から力が抜けた。

 

「――!?」

 

 その場で態勢が崩れ落ちる。

 

「ふんっ!!」

 

 魔王の蹴りに竜封じの剣を弾かれた。

 剣は遠く屋根の上に突き立った。

 

(――こんな時に今までの疲れがっ!!)

 

「やはりこの世界は雑魚! これでオレが最強だああああああ!!」

 

 ロードは目の前で大剣を上から下に振り下ろされて、間一髪、横に跳んで回避していく。

 

「――最強を前にした恐怖を知れ!!」

 

 黒い衣が屋根を囲むように広がって覆いつくしていく。

 

「逃げられん。武器もない。これで力とやらも教えられない」

 

(……どうかな)

 

「――お前に勝ち目はない!!」

 

 大剣を構えて走り出してくる。

 

「雑魚が! 雑魚が! 雑魚が! 雑魚が!」

 

 大剣を乱暴に何度も何度も振り回してくる。

 

 剣がないので避けるしかない。

 けれど、疲れが出始めたことで動きが鈍くなり、さっきまでなら回避できた攻撃を掠めていく。

 

(ある)大剣が頬を掠める。

 

(動ける身体がある)大剣が脇腹を掠める。

 

(まだ武器はある)大剣が肩を掠める。

 

(まだ力はある)大剣が首を掠める

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

「秘宝玉を使うには磨き探し出すこと」

 

(ソレは最初からオレにあった)

(最初、それはまるで拾ってきた石のようなものだった)

 

 絵本を読んでいた頃の自分を思い出す。

 

(どこにでもあるようなゴツゴツとした石だ)

(けどオレはその石に魅了された)

 

 絵本の世界に憧れていた頃の自分を思い出す。

 

(その石には光り輝く何かが特別なものがあった)

(子供ながらに磨き上げればきっといいものになると思った)

 

 絵本の影響でひたすら頑張っていた頃の自分を思い出す。

 

(毎日欠かさず石を磨いた)

 

 勉強をし、手伝いをし、鍛錬をする自分を思い出す。

 

(まだ見えない。まだ輝かない。まだ形にならない)

(それでもあきらめない)

 

 同じことを毎日、毎年する自分を思い出す。

 

(その石を磨き続ければどうなるのか知りたかったから)

 

 苦しくても、辛くても、悲しくても、やる自分を思い出す。

 

(その石はオレにとって特別なものだった)

(その石はオレの知らない所へ連れて行ってくれた)

(その石はオレに大切な日々という宝物をくれた)

(その石はオレをどんな時も逃げ出さない強さをくれた)

(その石はオレのやって来たことの集大成になった)

 

 朝から走る自分を、使用人として働く自分を、友達たちと笑い合う自分を思い出す。

 

(最初から秘められていた)

(いつの間にか宝物になっていた)

(ずっと願い続けていた物が完成した)

 

 いつか見た、光を思い出す。

 

(それを使うときが来た)

(ずっと磨き続けた物だ)

(あとは探し出すだけだ)

 

 光に手を伸ばす自分を思い出す。

 

(オレに秘められた物を。オレの宝物を。オレの作り上げた物を)

(それは……)

(今まで進んできた。立ち止まることのなかった。後戻りはしなかった)

(オレの全て)

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 黒い布に包まれた屋根で、一滴の光が目の前に芽生える。

 光を受けた魔王は顔を隠している。

 

(……見つけた)

(これがオレの秘宝玉だ)

 

 両手を目の前の光に伸ばしていく。

 

(これだ)

(これだったんだ)

(オレの強さはこれだったんだ)

(今までオレが信じてきたのはこれだったんだ)

 

 両手で光を包み込んだ。

 

(これがオレの秘宝玉だ)

(これがオレの歩いてきた――)

 

 

「 道 」

 

 

 両手に光が宿っていく。

 

 眩しく輝く光は神々しく溢れ出し、空間を覆っていた黒い衣を貫いて解放された。

 さっきと同じ光を受けて魔王も顔を覆っている。

 

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