第89話 ソレ
「――これなら!」
引き抜けるかと思って精一杯の力を込めたが、びくともしなかった。
「――ハッ!?」
アカが意識を取り戻した。
「――アカ! 大丈夫か!?」
「不思議だ。確かに命が尽きる痛みだった。だが、それが無くなった」
「本当か! やっぱりこの感覚は、、、待ってろ今すぐ引き抜いていやるから」
だが、剣はびくともしない。
(どうして……こんなに!)
「無駄だ。その剣は竜を絶対に逃がさない」
「けど、効果が弱まっているんだろ!」
「違う。これは……」
冷静に感覚を手繰り寄せている。
「我を、、、封じ込めようとしている……」
その時、ドクン!! と赤い剣が大きく鼓動した。
(な、何だ!)
「ロード時間がない! よく聞け!」
「な、何がどうなってる!?」
「その光はお前の力だ!」
「オ、オレの?」
(確かに光はオレの手から放たれているけど……)
「一体これは……?」
「おそらくそれが秘宝玉の力だ!!」
「秘宝玉……? いや、アレはもう魔王が……」
「我にはわかる。あの麻鬼刀とやらに刺されていた時と感覚が似ている」
「そんなはずはない……アレは偽物で壊されたんだ!」
「――思い出せ、秘宝玉の使い方の話を」
(使い方?)
「使うには磨いて探し出す……それがなんだ?」
「違ったんだ。その文のままのことをしても意味がなかったんだ。秘宝玉とは、使うためにソレを磨き、そして探し当てるものだったんだ」
「どういう意味だ?」
「重要なのはソレの部分だ。それが秘宝玉だったんだ」
「?」
「つまり最初からお前には秘宝玉の力があったんだ」
「オレに? 言ってる意味が……」
「勘違いだ全てが。目に見える物ではなかったんだ」
「目に見える物じゃない?」
「今お前が使っているその光は、磨き上げ、探し出した物だということだ」
「じゃあ、あのガラス玉のことじゃなくて」
「そう秘宝玉とは、自分に秘められた力の事だったんだ」
「最初から力はあった……?」
「その力は今、我の命を竜殺しの剣から守っている」
「守る?」
「竜殺しの剣が我の命を奪うことを止めたわけじゃない、その光がオレの命を奪わせまいと抑え込んでいるんだ。戦っているんだお前の光が竜殺しの力と……」
「じゃあ、まだ助かったわけじゃないのか」
「この剣は我の命を奪えない、だが逃がしてもくれない。どっちつかずの状況が、この剣を竜封じの剣に変化させた」
「竜封じの剣」
「我はもう手は貸せない。だが……お前はもう欲しい力が手に入っていたのだ。それを今探し出した。もう一度だ。もう一度使うためにそれを見つけ出せ。使っている物は何か、磨き上げた物は何か、探し出した物は何か……それが秘宝玉だ」
「オレの何かが……秘宝玉」
アカの身体が“竜封じの剣”の効果で薄くなっていく。
「ロード、例え絵本の真似事だったとて我を救っているのはお前だ。その歩みには何一つ無駄なことなどない。子供だろうとなんだろうソレを進み続けるがいい」
「アカ」
「その力で魔王を倒せ。そして、無限大の世界へ共に行こう」
「……ああ、わかった」
そうして吸い込まれていった。
同時に手の光も治まっていった。
(オレにある何か……)
(ソレが秘宝玉)
(そうか……だからきっとあの絵本を読んでいたんだな)
光が消えたことで魔王が近寄ってきた。
「――今の光はなんだ!? 何をした! お前は何だ!」
「オレはただの使用人だ。けど、これからなりたいものならある。強く戦う絵本のような主人公さ」
静かに竜封じの剣を構える。
押されたように魔王は一歩後ろへ下がっていった。
「ざ、雑魚が!! 何であろうと最強がオレだ!!」
それでも、自分を強く見せつけて来た。
「いいや……オレには強さがある」
そこからは魔王と最後の勝負が始まる。




