第83話 人質の壁
ストンヒュー宮殿・魔王の間。
夜の色も深さを増してくる頃。
天井もない真っ黒い広間でロードと魔王は対決していた。
しかし、事態はあまりいい方向には傾いてくれなかった。
「……どの世界もそうだ。こうやって同族を盾にしてしまえばお前たち人間は動けなくなる」
魔王の手には友達が捕まっていた。
人質を取っていたのだ。
「その人を離せ!」
「誰に向かって放った命令だ!!」
「んんん――――!!!?」
魔王の手が掴んでいた彼女の頭を締め付けていく。
「――やめてくれ!!」
「動くな!! こいつを捌くぞ!!」
刀を人質に当てて脅してきた。
(――これじゃあ、近づけない)
(どうする、イチかバチか、剣を飛ばしてみるか?)
(ダメだ、彼女も危険だ。そんな可能性は試せない……)
「――剣を捨てろ!! こいつを捌くぞ!!」
(け、剣を!?)
友達の表情を見る。
(……あんなに涙を流して、今にも心が折れそうなほど怖がっている)
(この剣を捨てないと――)
(けど、これがないと魔王と戦えない。倒すことが出来ない)
(今、一番必要な物だ)
(けど、捨てないと――ダラネーさんの命は魔王の刀にやられる――)
(どうすればいい)
(剣を捨てたとして、その後はどうする?)
(奴が人質を離すわけがない。どのみちオレもダラネーさんもやられる)
(それじゃ意味がない)
(ここでの敗北は王国を世界を明け渡すことになる)
(それは皆への裏切りだ)
(けど、こいつを無視すれば勝利できたとしても友達が犠牲になる)
(出来るわけがない)
(魔王を討ち取る機会と友達をとりあえず守る――)
(天秤に掛けろというのか……)
(王様たちでもきっと簡単には選べないことだ)
(なら、ただの使用人として生きて来たオレにどうしたって……)
(――選べない)
カラーーーーン
無造作に手を振って、剣をと放り捨てた。
「グッハッハッハ! 失うのが恐ろしいか雑魚が!」
刀にしていた右手の形を、身の丈より何倍もある拳に変えていった。
「こんなものの命を気にしているから! お前たちは雑魚なのだ!」
「――――っ!?」
大きな真っ黒い拳が振るわれ殴られた。
「――んんん!?」
ダラネーがごもりながらも叫ぶ。
「お前たちのどこに強さがある! こんなものだ! こんな盾一つで何もできなくなるのが、お前たちの雑魚さだ!」
何度も何度も殴られる。
「オレは命を奪える! だから最強なのだ!」
殴られて床の上を滑らされる。
「ア、アグロ―ニィ!」
痛みに耐え身体を起こし、唇を嚙みしめて怒りを抑える。
「跳ねるな! 雑な魚がああ!!」
「――があっっ!?」
振り下ろされた大きな拳に押しつぶされた。
「戦う決意だと! それでこのざまか!! 倒す覚悟だと! それでこの体たらくか!! ――さっさとお前の言う強さとやらを見せてみろ!!」
床に這いつくばっているところに、再び拳を叩き込まれた。
「んんんーんっんんんーーん!!」
意識が遠のいていく。




